2017年9月の「エビアン選手権」をもって現役を引退する宮里藍。身長155センチと小柄ながら、正確無比なショットと、抜群の小技、そしてパッティングで世界ランクNO.1にまで上り詰めた。そんな藍のスウィングの最大の特徴といえば、“ゆっくりテークバック”。その秘密に迫った父・宮里優氏の著書「そうか!『ゆっくり上げる』から、強いんだ。 」(ゴルフダイジェスト新書)を、今こそ紐解いてみよう。

ゆっくり上げるからこそ、しっかりと体を回すことができる

ゆっくりテークバックの「やり方」に関してですが、始動では構えたときの右肩に向かって、左肩を横回転させていくイメージを持つといいでしょう。バックスウィングの途中で左肩は自然に下がってきますが、イメージ的には高さは変えず、横(水平)に回すほうがおすすめ。

試してもらえるとわかりますが、左肩をしっかりと移動させながらクラブを引くと、テークバックは自然とゆっくりになるものです。

そして、左肩を右肩に向けて横回転させていくには、背骨側に軸をイメージすることが欠かせません。背骨に直径30センチくらいの太めの丸太を背負って、その丸太に沿って肩が回っていくイメージといったほうがわかりやすいでしょうか。軸に沿って体が回れば、多少頭の位置がズレて見えても、首根っこは動いていないので、スウィング軸は微動だにしません。

もっといえば、テークバックでグリップが右腰の真横にきて、シャフトが地面と平行になった時点で、すでに背中の面は飛球線の方向近くまで向いていなければなりません。そこまで上体は回っていなければならないのです。そこからさらに、トップが完成する間にもう一段階、体は回っていきます。

画像: 体を大きく回してスウィング(写真:2017年サントリーレディス 初日)

体を大きく回してスウィング(写真:2017年サントリーレディス 初日)

ゆっくりテークバックするからこそ、このように体を大きく回すことができるのです。それに対して、一気にクラブを上げるタイプの人は上半身の移動が少ないため、左足に重心が残る、いわゆるリバースピボットになりやすい。ゆっくり上げることには、体を回しやすくする効果とともに、リバースピボットを防ぐという意味合いもあるのです。

以上のように、ゆっくりバックスウィングを上げることでトップが決まり、腕の余計な動きが抑えられ、軌道が安定してくるという様々なメリットが得られます。と同時にヘッドスピードも上げやすくなるのです。

ヘッドよりグリップの動きが重要

さらにもうひとつ見逃せないのが、クラブがプレーンに乗りやすくなるという点です。正しいプレーンにクラブを乗せてスウィングすることは、ゴルフで一番大切といっても過言ではありません。プレーンに乗せる。言葉にするとやさしいですが、実行するのは実に難しく、ダウンスウィングに入ってから正しいプレーンにクラブを振り下ろそうとしても、その段階ではすでに手遅れ。

正しいプレーンにクラブを乗せるためには、ゆっくりテークバックすることと、もうひとつコツがあるので、それも覚えておいていただきたい。そのコツとは、始動の30センチを意識してゆっくり、真っすぐ、低く引いていくこと。

スウィング中、フォローの形は目で確認できますが、バックスウィング中はボールを見ているわけですから、どのようにクラブを上げているか、実際の動きを目で確かめることは不可能です。自分のイメージと、実際の動きには10倍ほどのギャップが出ると考えてもいいほど。テークバックとは、それだけ誤差が生じやすい部分なのです。

画像: 最初の30センチは真っすぐ上げる(写真:2017年サントリーレディス 練習日)

最初の30センチは真っすぐ上げる(写真:2017年サントリーレディス 練習日)

だからこそ、テークバックの始動は、クラブがどこを動いているかはっきりと確認できるくらいゆっくり上げるのが正解なのです。このとき、先ほど説明したように小手先ではなく、左肩を右肩の位置に向けて横回転させるように動かすイメージを持てば、手元は一切使わずに、肩の回転だけでクラブを上げることができます。

ゴルフスウィングにおいて、私はヘッドよりもグリップが大切だと考えています。だからこそ、バックスウィングでもヘッドの動きよりグリップの動きを優先しています。

バックスウィングではまず、左肩からクラブヘッドを結んだ1本のラインを同時に始動させる意識で、グリップを体の真横、右腰の位置まで引いていきます。その際のポイントは、あくまでゆっくり、両腕の三角形を崩さずに動かすこと。グリップが右腰まできた時点で、後方から見て左肩、左腕、シャフトが一直線上に並び、飛球線に対して平行になっていればプレーンから外れていない証拠です。

簡単そうに聞こえるかもしれませんが、やってみるとこれがなかなか難しい。難しいからこそ、ゆっくりと丁寧にテークバックすることが重要になるのです。

繰り返しになりますが、藍はツアーでは飛ぶほうではありません。それでも勝つことはできる。世界NO.1になれるのです。その理由のひとつが、ゆっくりテークバックが生み出す正確なショット。狙った場所にボールを運ぶというゴルフの基本ができていれば、飛距離で負けても勝負には勝てる。藍のゆっくりテークバックを実践すれば、手打ちに悩むアマチュアの方も、正確性がアップするだけでなく、飛距離アップにもつながるはずです。

写真/姉崎正、有原裕晶

※「そうか!『ゆっくり上げる』から、強いんだ。 」(ゴルフダイジェスト新書)より

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