「パットは『マイナスロフト』でインパクトするのが正解」という、日本獣医生命科学大学の濱部浩一教授が発表した理論に興味を持ったのは、成田美寿々や川岸史果などツアープロを多数指導する井上透コーチ。パットの研究家と、プロコーチの第一人者が熱い議論を交わすこと約2時間。果たして「マイナスロフト」は本当に“正解”なのか!?

そもそも“転がりの良し悪し”の定義とは何か?

井上透(以下、井上):「みんなのゴルフダイジェスト」に掲載されていた、濱部教授の「パットのインパクトは『マイナスロフト』が正解」という記事を拝見して、指導者の立場として何か選手にフィードバックできないかと思い、今回足を運ばせていただきました。さっそくですが、濱部先生のおっしゃる「転がりがいい」とはどういう意味か、そこからお教えいただけますか?

濱部:私の言う「いい転がり」とは、“60センチまでの順回転数の多さ”です。パターで打たれたボールは、転がらずにスリップしたり、あるいは最初に逆回転してから順回転する場合があります。なるべくそうならず打った後すぐに順回転に移行し、数多く転がるものを「転がりがいい」と定義しているんです。また、60センチ地点に到達した時間のバラつきも1000分の1秒単位で見ています。

その結果、マイナスロフトで打った場合にもっとも「転がりがいい」という実験結果が得られたんです。今までの常識では、ボールがバウンドするという理由からマイナスロフトは“ありえない”とされてきました。しかし、実際に検証してみるとマイナス8度まではほとんどバウンドしませんでした。

井上:なるほど、濱部教授のおっしゃる「転がりの良さ」の定義は理解しました。ただ、我々コーチからすると、最終的に“カップに入るか入らないか”ということが大事です。「ボールの回転数の多さが、カップイン率の高さに直結する」という検証はされているのでしょうか?

画像: パターの実験器具だらけの濱部教授’(写真右)の実験室。ここ

パターの実験器具だらけの濱部教授’(写真右)の実験室。ここ

濱部:傾斜や凹凸など様々な要素があるグリーンで、インパクト直後にボールが飛んでから回転した場合、第一着地点の衝撃は常に一定ではないため、距離や方向性のバラつきが起こります。そのような不確定要素に影響されずにカップインするには最初から転がすということが大事で、実際に試してみても、マイナスロフトでインパクトした場合のほうが転がりが良く感じられます。ただ、グリーン上で器具を使っての実験はまだ行っていないため、そこは今後の課題です。

井上:たとえば、下りのフックやスライスラインなどでは、最初から地面に接地したボールだと勢いが少ないので、曲がりがきつくなってしまうように感じます。それどころか、ちょこっとボールを浮くような転がりのほうが、ラインに乗せやすいんじゃないかという感覚があります。そういうことについて先生はどのようにお考えですか?

濱部:実験していないので分かりませんが、ヘッドのパワーが芝などに邪魔されず、ロスなくボールに伝わらなければタッチ(距離感)が出ません。距離感が出ないと、とくに曲がるラインは入りません。そして、それには軌道とロフトが重要になってきます。ほんの少し触る程度のパットになってくるとロフト云々よりも、フェースの向きとライ角のほうが大事になってくると思います。実際に実験を芝の上でやってみなければわからないというのが正直なところですね。

井上:濱部先生のいう「いい転がり」とカップインが連動するのかを立証するためには、傾斜やラインなどを考慮するためかなりのテストが必要になってきます。最後は実際のグリーンでカップに入るかということです。世界トップレベルの選手のパットをスーパースロー動画などで検証しても、結局ラインの読みなどが影響してしまうので、そのレベルにもなるとボールの回転と関係ないんです。上手い人は“平均的にこうだ”というのはありますけど、ボールの回転やストロークの良し悪しは世界的にも検証されていなくて、全然分かっていないものなんです。今分かっているものは、あくまでも“上手い人の平均値”だけなんです。

「マイナスロフトはこれまでのパット理論が一変するかもしれない」by井上透

井上:実際にマイナスロフトで打ってみましたが、元々、フィル・ミケルソンの真似とかをして、遊びの中でマイナスロフトで打った経験があるので、打ったときの違和感はありません。もし、今日から教科書が「ハンドファーストで打つのが正解」と改訂されても、僕は違和感なく打つことができます。でも、マイナスロフトはダメっていう先入観がありますよね。

濱部:マイナスロフトはダメだよっていうのが昔からありましたよね。しかし、それは昔のクラシカルなパターでのことです。今のパターは昔に比べるとパターも重くなってきているし、フェースもツルツルではなくてインサートが付き厚くなるなど進化しています。

画像: ミケルソンのインパクト図。強いハンドファーストが特徴だ

ミケルソンのインパクト図。強いハンドファーストが特徴だ

井上:まず、パターのデザイン通りに構えるというマニュアルからして、マイナスロフト(ハンドファースト)で構えることはないですよね。ですから実は、「マイナスロフトが正解」という記事を見たときに、「これ教科書の1ページ目を否定するようなことだよね」って思いました。

でも実際に打ってみると、“マイナスロフトで当たった”という感覚というものはなくて、“ハンドファーストで当たった”という感覚があります。恐らく、ロフトの角度よりも手の位置による感覚のほうがはるかに大きいのではないかなと思います。手の感覚はどちらも芯で当たっていて悪くないんですよ。

画像: マイナスロフトを巡るディスカッションを終え、互いの連絡先を交換した両者。さらなる発見があるかも!?

マイナスロフトを巡るディスカッションを終え、互いの連絡先を交換した両者。さらなる発見があるかも!?

濱部:私はパターのデザイン自体も変えるべきなのかと思います。池田勇太などパットの上手い選手もハンドファーストで構えていますが、ハンドファーストだと予め腕の筋肉に力が入るので、始動の際のもたつきを軽減しクラブが腕と一緒に上がりやすい効果があると思います。

井上:ロフト角が何度で当たっているかまではわかりませんけど、ハンドファーストで打ったときのほうが転がりが明らかにいいです。上りの届かないようなロングパットの時には、普段から何気なくハンドファーストで打っていますし、技術的には“アリ”だと思います。恐らく、ほとんどのプロがいつも同じ構えではなくて、上りの届かなそうなパットの時にはハンドファーストにしているのではないでしょうか? 逆にほんの少し触れればいい程度の下りのパットだとハンドファーストは怖いですよね。どんなラインでも同じように打てばいいってワケじゃない。

濱部:上りと下りに関してはあきらかに打ち方が違いますよね。上りだとハンドファーストのほうがいいと思います。

井上:最後に、パットの研究というものは世界的にもまだまだわかってないことだらけで、欲しいデータを手入れることができない状態です。ですので今後、濱部教授と一緒にパットのデータを解析できたらなと思います。

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