「パット・イズ・マネー」の通り、スコアを伸ばしたいならパットの上達は避けて通ることができない道。パットを専門的に研究している星谷孝幸氏は「フェースの素材で距離感が変わる」と言う。著書「入っちゃう!パットの法則」から自分の感覚に合ったフェースの素材の見つけ方をご紹介。

ディンプルがボールの方向性を乱す

「こんなデコボコなものを打って、ボールが真っすぐ転がるとは考えにくい」

実はこれが、私がパットの研究を始めようと思ったきっかけです。ボールの表面に施された無数のディンプルは、パットにどう影響するのか疑問に思いました。

ディンプルは、ボールをより遠くへ飛ばすために必要です。もしディンプルがなければ、ボールは揚力を得られず急降下。ボールには初速制限があるにしても、最近のボールの進化はディンプル(空力性能)の進化といっても過言ではありません。

しかし、パットに関していえば、プラスにはなりません。まず、方向性を乱します。ディンプルはくぼみですが、その端は角になっており、パターフェースのような平滑なもので打つと、接触箇所である角が「点」になり打ち出し角が微妙に変化するのです(ロングパットでは接触面がつぶれて接触箇所が「面」になるため、直進性は高まり方向性は安定する)。

画像: ボールの表面上にある無数のディンプル(くぼみ)には角がある。2メートルの距離をロボットを使って実験したところ、角に当たることによって10球に2~3球の割合で打ち出し角がバラつくことがわかった

ボールの表面上にある無数のディンプル(くぼみ)には角がある。2メートルの距離をロボットを使って実験したところ、角に当たることによって10球に2~3球の割合で打ち出し角がバラつくことがわかった

ロボットを使って実験したところ、毎回ではありませんがボールの打ち出しが1.4度ずれることもありました。これは、約2メートルのパットで約5センチも方向がずれることを意味します。直径10.8センチのカップの中央に向けて構えても、カップの端から入るか、場合によっては外れてしまうほどの値です。

このディンプルの影響を抑えるために、何が必要なのでしょうか。実験を重ねていくと、パターのフェース面の形状と硬さにポイントがあることがわかりました。

前出の実験は金属フェースを用いたもの、つまり、表面が硬いもので打ったときの数値ですが、軟らかいもので打てばボールの角の影響を吸収し、ディンプルの影響を抑えられ、真っすぐ打ち出すことが可能になったのです。

フェースの素材で打感は変わる。打感が変われば距離感が変わる

フェース面にはいろいろな素材が使われています。ヘッドと同じ素材のステンレス、アルミや銅のような金属系のもの、または樹脂インサートなど。それぞれ硬さが異なりますが、実際にはボールの初速はそれほど差がありません。

しかし、フェースの素材は打感の違いとしてプレーヤーにフィードバックされます。金属系は打ったときの振動を吸収しにくい素材なので、打感がダイレクトに伝わり硬く感じ、樹脂系は振動を吸収しやすい素材なのでソフトに感じる、という特性があります。

これがプレーヤーに影響を与えるのです。フェース面が金属系の場合、ボールが強く出る感じがするため、次第にインパクトが弱くなる可能性があります。かつて、打つと「ピーン!」と高い音がするパターがありましたが、昔の遅いグリーンならともかく、現代の高速グリーンで使うには少し怖い気がします。

対して樹脂系の場合、素材の特性によって打感が吸収されます。「減衰率」といいますが、これが高いと打ったときの音がしなくなります。音と打感は密接に関係していますので、樹脂系のほうがしっかり打てる、といえます。

これらを踏まえると、パットがショートしがちな人は、打感がソフトな樹脂系のフェース面を選ぶとしっかり打てるようになりますし、逆に打ちすぎる人は金属系のフェース面のものを使うことで、オーバーのミスが減る可能性が高い。このようにフェースの素材と距離感は切っても切れない関係にあるのです。

個人的には、心地良いマイルド感のあるフェースの方が、しっかり打てるようになるので、距離感がつかみやすいと考えています。

と言うと、「金属系はダメなのか?」と言われそうですが、必ずしもそういうわけではありません。

最近は、金属系のフェース面に溝が彫られていたり、「ミルド」といってらせん状の細かい削りが入っているものが多い。これにより、極端に言えば、面で当たっていたものが点の集合で当たるようになり、インパクト時のボールとフェース面の接触面積が減るために、例えばウレタンカバーのボールを打ったとしたら、ボールの感触が勝り、打感が軟らかくなるのです。

また、溝やミルドには、球持ちが良くなる効果も期待できます。フェース面に削りを入れることで、わずかですがフェースがボールに食い込み、接触時間が長くなるのです。つまり、インパクトでボールが一瞬つかまるようになります。

画像: パターの打感は、その物質が持っている「固有振動数」が関係している。この振動数が大きいものは高音を発し「硬い」、小さいものは音が静かで「軟らかい」ということになる

パターの打感は、その物質が持っている「固有振動数」が関係している。この振動数が大きいものは高音を発し「硬い」、小さいものは音が静かで「軟らかい」ということになる

私の実験では、アマチュアの方の多くがインパクトでフェースが1~2度右を向いて当たっていることが分かっているのですが、インパクトで一瞬つかまるようになれば、その誤差を緩和することができますし、オーバースピンをかけやすくなって転がりが良くなる効果もあります。もちろん、ディンプルの影響を吸収することも期待できます。

「入っちゃう! パットの法則」(ゴルフダイジェスト新書)より

写真/三木崇徳

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