ゴルフクラブのフェース面とスコアリングライン(スコアライン)という溝が刻まれている。基本的には、フェース全面ではなくヒッティングエリアのみに施される場合が多いが、例外もある。フェースの先っぽなど、「さすがにそこには当たらないだろう」という部分にも刻まれた溝。そこには深〜い歴史があった!?

元々はフェースのトウ部で“ハイ・ロブ”を打つミケルソンのために作られた?

米国フロリダ州・オーランドで開催されたPGAショー(ゴルフ用品の見本市)でもお披露目されていたが、テーラーメイドの新しいウェッジ「ミルドグラインド ハイトウ ウェッジ」を見て驚いた。フェース全面にスコアリングライン(溝)が入っているのだ。これを開発したテーラーメイド社パター&ウェッジ担当シニアディレクターのビル・プライス氏は、「全面スコアリングラインにすることで、深いラフからでも安定したボールコントロールが可能になる」としているが、ギア好きの読者のみなさまなら、これを見た瞬間にアレレ? と思ったはずである。

画像: DJやラームもバッグに入れるテーラーメイド「ミルドグラインド ハイトウ ウェッジ」(画像はテーラーメイドのプレスリリースより)

DJやラームもバッグに入れるテーラーメイド「ミルドグラインド ハイトウ ウェッジ」(画像はテーラーメイドのプレスリリースより)

そう、全面スコアリングラインウェッジといえば、キャロウェイがフィル・ミケルソン用に開発した「マックダディ・PMグラインド」が先駆者である。これを開発したロジャー・クリーブランド氏は、こういっている。

「フィルはグリーン周りでとても高いロブ・ショットを打つ。この時のヒッティングエリアは、フェースのトゥ側ギリギリ。従来ウェッジでは溝が切られていないエリアを使って、ボールをリーディングエッジからトレーリングエッジに向かって滑らせるようにしているんだ。だから、通常は必要のないトゥ側まで溝が必要なんだ」。

画像: 2015年に発売されたマックダディPMグラインド

2015年に発売されたマックダディPMグラインド

テーラーメイドの「ミルドグラインド ハイトウ ウェッジ」も、基本的にはロフト60度のモデルが全面スコアリング仕様。やはり、ハイ・ロブを打つ場合、ミケルソン的に打つテクニシャンがいるということだろう。

“全面スコアラインウェッジ”を見てゴルフクラブの歴史に思いを馳せる

全面スコアリングライン。なるほど、テーラーメイドがキャロウェイのマネしたのね〜という感じの原稿になってしまったけれど、ゴルフクラブの開発史はそんな単純なものではない。振り返ればたいてい類似のゴルフ道具を見つけることができる。全面スコアリングラインも例外ではない。

写真3の全面スコアリングラインになった5番アイアンは、今から17年も前に発売されたアイアンである。メーカーは、テーラーメイド。モデル名は『バーナースーパースチールアイアン』だ。

画像: 写真3テーラーメイド『バーナースーパースチールアイアン』。2000年に登場。バブルシャフト時代の最終モデルだ

写真3テーラーメイド『バーナースーパースチールアイアン』。2000年に登場。バブルシャフト時代の最終モデルだ

このモデルは3番アイアンからSWまですべてが全面スコアリングラインだった。こうなってくると、なんだキャロウェイがテーラーメイドのマネしたのか! ってことになるだろう。でも、こんなクラブもあるのだ。フェースのトウの丸みに沿うように入れられたスコアリングライン。「トップフライト・プロフェッショナルアイアン」(スポルディング社、写真4)、1970年製である。

画像: 写真4:スポルディング「トップフライト・プロフェッショナル」(1970年製)。48年前のデザインも、今となれば斬新で最新感がある!?

写真4:スポルディング「トップフライト・プロフェッショナル」(1970年製)。48年前のデザインも、今となれば斬新で最新感がある!?

さかのぼれば、常に先駆者が見つかる。それが長い歴史を誇るゴルフ道具の奥深さであり面白味だ。原稿を書きながらウイルソン社でデザインド・バイ・アーノルド・パーマーなどを手がけた伝説のクラフトマンを取材した日のことを思い出した。彼はこういった。

「今のエンジニアはかわいそうだ。なぜなら、新発想だ! と思っても、それはたいてい誰かが遥か昔にトライしている既存のアイデアだからだ。確かに、製法や構造は新しいかもしれない。でも、発想自体は私たちの時代やそのまた先人たちが考えたことと同じなのさ」(ボブ・マンドレラ氏)

この先も昔のアイデアが見るも新鮮で、新発想のように登場することはあるだろう。昔は受け入れられなかったアイデアが、今のゴルファーにはフィットする、そんなことも多いはずだから。逆にいまは常識のように語られている考え方も時間とともに疑問視され、原点回帰していくこともあるかもしれないとも思う。なにが正解であるかなんてわからないのだ。この30年、ゴルフクラブは大きく変わった。しかし、それは長いゴルフの歴史からすれば、ほんの突端で起こった些細な出来事だ。私たちは先人たちの掌の中で一喜一憂しているにすぎない、そんなことを思った。

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