優勝争いにも顔を出すなど、マスターズに向けて順調な調整ぶりが印象的なタイガー・ウッズ。そんなタイガーの故障から実戦復帰までをサポートしたのは、実績のない若手コーチだった。タイガーを支えたクリス・コモと親交のあるゴルフスウィングコンサルタントの吉田洋一郎が、その取り組みについて紹介する。

40歳のコーチがタイガーに伝えたこと

タイガーに2014年末からスウィング再生を託されていたクリス・コモと私は、共に教えを受けたヤン・フー・クォン教授を介してここ数年親交を温めてきました。現在40歳のコモと同年代ということもあり、ツアー会場だけではなく食事を共にする機会などにも恵まれ様々な話を聞くことができました。

コモは米国ティーチング界では若手に分類されるものの、20歳になる前からコーチに転身したためコーチ歴は20年と長いキャリアを誇ります。当初は(デビッド・)レッドベター理論を学んだようですが、その後多くのコーチのもとでさまざまなスウィング理論を吸収していきます。

さらにはバイオメカニクス(生体力学)を研究するヤン・フー・クォン教授のもとで、筋力の依存度を抑えて効率よく力を生み出すスウィングづくりを学びました。

画像: クリス・コモ(左)とヤン・フー・クォン教授(中央)。多くのスウィング知識と生体力学などのスウィング以外の知見が、今のタイガーのスウィングにつながっている

クリス・コモ(左)とヤン・フー・クォン教授(中央)。多くのスウィング知識と生体力学などのスウィング以外の知見が、今のタイガーのスウィングにつながっている

多くのスウィング理論に加え、スウィング以外の知見を得たことで、コモはプレーヤーの身体に最も合った方法を提示するというタイプのコーチになったのです。

タイガーがこれまで師事してきたハンク・ヘイニーやショーン・フォーリーは、理想となるスウィングの形に近づけていくタイプのコーチでした。それぞれ理想とするスウィングの特徴は異なりますが、タイガーの類まれなる運動能力により、それぞれの型に適応していきました。

しかしそれは体への負担を大きくすることでもあったため、腰やひざといった関節に大きな負担を強いる事になり、結果として長期のリハビリが必要となる故障を抱えました。

そんなタイガーが、身体に合わせたスウィングを見つけてくれるコーチを選んだのは、今後のキャリアを考えた上でもごく自然な事だったでしょう。

現在はコンビを解消。コモの目的は達成されるか!?

リハビリ期間が長く表舞台にあまり出てこなかったことや、コモ自身がタイガーとのコミュニケーション内容を口外していないことから、指導内容の詳細を正確に知る事はできません。

ただ、復帰後のタイガーのスウィングは以前とはまったく別の動きとなっています。スウィングが変わったことによって飛距離が伸び、ヘッドスピードは57.75m/sを記録しています。

以前のスウィングとの最大の違いは、スウィング中の内力と外力のバランスが変わったことです。タイガーはプレーンや体の動きを重視し、クラブをリリースしない打ち方をしていました。

しかし現在は、クラブをリリースすることで地面反力の力を最大限生かす打ち方となっています。この地面からの反動の力(地面反力)を効率よく使う動きはクォン教授も推奨しており、コモの影響を大きく受けたと思われます。

画像: クラブをリリースして地面反力を最大限に使う(写真:ザ・ホンダクラシック2018)

クラブをリリースして地面反力を最大限に使う(写真:ザ・ホンダクラシック2018)

タイガーはスウィング改造によって「内力から外力」への出力の切り替えを行い、飛距離だけではなく、体への負担を少なくする事ができたのだと思います。

しかしタイガーは、本格復帰の直前の昨年12月にコモとのコーチング契約を解消しました。契約の解消に際してタイガーが「これからも親友であり、手助けになりたい」と述べたように、関係悪化が原因ではなかったようです。

「身体が不完全な状態で、ベストパフォーマンスを出すためのスウィングづくり」という、これまでのタイガーのコーチとは違った課題に取り組んだコモ。バイオメカニクスの要素をタイガーのスウィングに注入したという点は、コーチングの広がりという点でも大いに評価できるでしょう。

しかし本当の意味でコモの目的が達成されるのは、今のスウィングでタイガーがメジャー優勝を勝ち取った時です。そして怪我の再発を抑えながら第一線で戦い続ける事ができれば、今後40歳を超え、復活を目指す選手たちのひとつの道しるべのようなものになるでしょう。

そして、バイオメカニクスによって復活したタイガーの活躍が加齢やケガで飛距離減に悩むアマチュアに希望を与えることでしょう。

コモは現在ジェイミー・ラブマークという有望選手のコーチしています。新しい芽をどのように育てていくのか、そちらの手腕にも注目をしたいところです。

写真/姉崎正

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