先週の「日本プロゴルフ選手権」で6年ぶりの勝利となった谷口徹と、「ほけんの窓口レディース」で逆転優勝を果たした鈴木愛。この二人の共通点といえば、なんと言ってもパッティングの冴えだろう。そして、両選手のパッティングには超一流のパット巧者に見られる共通点が存在すると、統計学的データ分析の専門家であるゴウ・タナカはいう。さっそく解説してもらおう。

データ的にも、谷口徹は日本で一番パッティングが上手い男だった!?

先週の男女ツアーの勝者である2人の勝負強さは際立っていた。とくに最年長優勝記録を更新した谷口徹選手の後半のパッティングには驚かされた。自らも奇跡というほど、神がかっていたように見えた。ただ、入るには理由がある。鈴木愛選手のパッティングの上手さの秘密については以前記事にしているが、谷口選手にも鈴木選手と同じように超一流のパット巧者に共通するものがあった。

画像: 「日本プロゴルフ選手権」で藤本佳則とのプレーオフ2ホール目でバーディパットを決めた谷口徹(撮影/姉崎正)

「日本プロゴルフ選手権」で藤本佳則とのプレーオフ2ホール目でバーディパットを決めた谷口徹(撮影/姉崎正)

それは、パッティングに使う時間だ。パターフェースの中心をボールにセットアップしてからインパクトするまでの時間が3.5秒以内、もしくはボールに対峙してからインパクトまでに9秒以内に打つというのが、超一流のパット巧者に見られる共通点だ。データ、理屈からみて私は3.5秒以内のほうをより推奨している。

鈴木選手の場合は後者の9秒ルールの方にあてはまるが、谷口選手の場合は前者の3.5秒に当てはまる。これは、脚をいつのタイミングで揃えるかで3.5秒以内、9秒以内で分かれてくる。鈴木選手は、最初にパターフェースをボールにセットし、その後に脚を揃えるため時間を要する。タイガー・ウッズ、ジョーダン・スピースなどもこっちのタイプだ。

ただ、細かいことをデータ、科学的な観点から見ると、パターフェースのあとに脚をセットするのはあまりオススメできない。フェースの向きがパッティングにおいて最も繊細で重要な部分であり集中力を要するからだ。その繊細な部分をセットしたあとに、土台となる脚を動かしたり、足踏みするというのはセットアップした方向が微妙にずれる可能性があるからだ。鈴木選手、タイガー・ウッズなどはそのズレが出る可能性を、ボールに線を引いてパターフェースを合わせることで減らしていると言えるだろう。

谷口選手は、脚を先に決め最後にパターフェースをボールにセットアップする。これは私がパッティングに関して超一流と考える4人の選手(ルーク・ドナルド、アーロン・バデリー、グレッグ・チャーマーズ、ブラント・スネデカー)と同じルーティンだ。そして優勝を決めた最後のバーディパットも3.3秒で打てている。その他の大事なクラッチパット(編集部注:勝負どころのパット)も3.3秒で、安定して3.5秒パッティングを満たしている。

画像: 「ほけんの窓口レディース」の最終ホールでバーディを決め優勝した鈴木愛(撮影/岡沢裕行)

「ほけんの窓口レディース」の最終ホールでバーディを決め優勝した鈴木愛(撮影/岡沢裕行)

今まで谷口選手のパッティングを意識して見ていなかったので過去のランキングを見てみた。なんと1995年から2017年までの23年間で平均パット数でトップ10から外れたことが3回しかない。そしてその間に4回も1位を獲得している。日本ツアーとはいえ、ここまで安定したパッティングの成績は見たことがないレベルで高い水準を保っていると言える。谷口選手はおそらく日本で1番パッティングがうまいと言っていいのではないだろうか。

パッティングとはもっともシンプルな動作だけに、コントロールできると思いがちだがパッティングの結果ほど制圧するのが難しいものはないと私は考えている。なぜなら、空気抵抗だけでなく、芝目、傾斜が絡んでくるからだ。ゴルファーがコントロールできるのは距離感と打ち出しだけである。後はグリーンのみぞ知る。そこへのリスペクト、諦め、開き直りがパッティングの鍵となる。

人間の基質、特に我々日本人は丁寧にやることが文化の一つだ。長く時間をかけたものが尊く美しいという考えが根底にある。この思考はパッティングにはあっていない。データは顕著にそれを示している。丁寧にグリーンを読むのは良いだろう。ただ、完全に読み切るなど不可能なのだ。できることに徹する、そして直感を信じる。決めたら打つ、迷わない。直感とは経験の蓄積からのひらめきだ。

リズムを変えることは難しいことだが、スウィングを変えるよりはよほど楽なので、練習してみたらいいだろう。はじめは早いリズムに無理やり打たされている感覚になるだろうが、そのリズムになれたときに必ず結果が出はじめるので是非パッティングに悩む人はやってもらいたい。

データから確実に言えるパッティングで大事なことは2つ。リズムとパターフェースの向きである。とにかく悩まず早く打つこと、そして細かいことは気にせず、狙ったラインにパターフェースをしっかりあわせてそこに打ち出すことだ。

よく頭を動かすなというレッスン書などがあるが、これも間違っている。ストローク・ゲインド・パッティング(編集部注:パッティングのスコアへの貢献度)のデータができてからもっとも安定したパッティングパフォーマンスをしているルーク・ドナルドは、思いっきりルックアップして打っている。

画像: ルックアップしながら打つルーク・ドナルド(写真は2013年のダンロップフェニックス、撮影/有原裕晶)

ルックアップしながら打つルーク・ドナルド(写真は2013年のダンロップフェニックス、撮影/有原裕晶)

ジョーダン・スピースもショートパットでは打ち出しのターゲットラインを見ながら打っている。世界の他の名手もルックアップが早い選手が多い。当然頭の正しい動かし方というのがあるわけだが、私がここで言いたいのはあまり細かいことに縛られて動きを固くしてはいけないということだ。集中力のすべてはパターフェースの向きに使うべきなのだ。

日本プロで圧巻のパフォーマンスをだした谷口選手のパッティングルーティンはお手本そのもので非常に参考になるので、見てみるとよいだろう。

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