開幕直前の全米オープン。日本勢の選手たちが着々と準備を整えるなか、そのキャディたちもまた“勝つための準備”を進めていた! 月刊ゴルフダイジェスト誌のツアー担当・ケンジロウが、松山英樹の強さを支えるエースキャディ・進藤大典に密着レポート。

キャディがコースを一人で歩く理由とは……?

こんにちはケンジロウです。

サウサンプトンのシネコックヒルズGCからお届けしております。USオープンの練習ラウンド水曜日が終わりました。今日は雨降りの一日でしたが、日本勢の松山英樹、小平智、秋吉翔太、星野陸也らそれぞれみっちりと練習をし、準備万端という様子でいよいよ明日のメジャー初日を迎えます。

悲願のメジャー制覇に向けて難コースのシネコックを松山英樹はどのように迎え撃つのか?

月曜日にエースキャディの進藤大典さんにコース攻略の話を聞きに行ったところ、「これからコースチェックに行くので、一緒に行きませんか?」とお誘いを受け、私も一緒についていくことにしました。

画像: 松山英樹(右)のエースキャディ、進藤大典(左)

松山英樹(右)のエースキャディ、進藤大典(左)

いったい進藤さんはコースのどんなところをチェックするのか?

練習ラウンドでコースをしっかりと見ているので、「そんな作業いらないのでは?」と思いがちですが、進藤さんをはじめとした各選手のプロキャディたちは選手のいないところでコースを念入りにチェックして、バッグを担ぐプロが一打でもスコアを縮められるような努力をしているんです。

「基本的にコースチェックはヤーデージブックと照らし合わせながら18ホール行います。まずティグランドではティのセンターに立って、“どこに打ったらいいか”のラインどりを確認します。もちろん入れてはいけないバンカー、ラフなどをヤーデージブックを見てチェックします。今のヒデキ(松山プロ)は風がなかったらドライバーで290~300ヤードのキャリーが出ますから、その地点のハザードを越えるか越えないかをしっかりチェックしておかなければいけません。それとランが出れば320ヤードぐらいいくので、突き抜けてラフにいかないかなどを細かく見ておくんです」

画像: ヤーデージブックと照らし合わせながら18ホールを細かくチェックしていく

ヤーデージブックと照らし合わせながら18ホールを細かくチェックしていく

10番ホールのティグランド上でそのように説明してくれた進藤さんは、「僕が2打目地点のフェアウェイに行って手を上げるので、ティグランドから写真を撮ってくれないですか?」と言い残して2打目地点に向かって走っていきました。

言われるがままにフェアウェイの左サイドで進藤さんが手を上げたときにティグランドからパシャリと撮影、そして右サイドに移動して再び手を上げたときにパシャリ。

私も急いで2打目地点に行っていったい何のためにやったのかを聞くと、「ティショットが左右どのラインまでがセーフかの確認です。このシネコックみたいにアメリカはティショットの落としどころが見えないコースが多いんです。この写真を見てもわかりますが10番ホールなんかは思っているより右サイドに打っていかないといけないんですよ。あとでその写真送ってくださいね」と進藤さん。

画像: フェアウェイ右サイドで手を挙げた瞬間にパシャリ。赤丸の中にいる進藤キャディのいる位置までがセーフ

フェアウェイ右サイドで手を挙げた瞬間にパシャリ。赤丸の中にいる進藤キャディのいる位置までがセーフ

進藤さん、点にしか見えないですけどね(笑)。

でも確かにティグランドから見た景色だと、フェアウェイの落としどころが見えません。尾根を越えた向こうに落としどころがあるんですが、尾根を越えると右に向かって傾斜していて、ティショットをフェアウェイの左サイドに打っていくと突き抜けてラフにいく可能性が高い。フェアウェイの右サイドかもしくは右のバンカーの上でもセーフなんです。

むむむ……、ここまで細かくチェックするんですね。

そして2打目地点でグリーン周りの“行ってはいけない箇所”をチェックするのはティグランドと同じ。ときおりヤーデージブック上のマンホールの数字が間違っていたりするので、そこも欠かさずチェックしておきます。

「同じヤーデージブックをヒデキも持っているので、ヒデキが試合中に間違いに気づいたときに、『それ間違っているよ』と即座に言えることが大事。事前に調べていなくて、試合中に数字の間違いがわかると違うマンホールに行って数字を確認しなければなりませんからね。そうなると手間が増えて、ヒデキが2打目に対して考えられる時間が減ってしまいます。1打1打に集中してもらいたいので、余計な時間を減らす意味でも事前のチェックが大事なんです。僕もその場に行って焦らなくていいですからね」

そしてグリーンに向かって歩いていき、グリーン上に乗ると再びヤーデージブックを開いて、ある個所からティグランド方向を振り返りました。

いったい何をしているんですか?

「予想されるピンポジに立って2打目地点を振り返っているんです。基本的なことですけど、2打目をどこから打つのがいいか、どこから打てばこのピンに寄せやすいかを確認しているんですよ。ピンポジによって2打目のベストな位置は変わりますから、4日間の予想ピンポジから振り返ってひとつずつチェックします」(進藤さん)

“グリーン(ピン位置)から逆算して攻め方を考える”。PGAツアーの難しいコースでも、やはりコースマネジメントの基本は変わらないんですね。そしてグリーン上ではボールを3球転がして傾斜の度合いを測りつつ、ヤーデージブックにメモをとります。

細かく測って、試合中に松山選手にどのぐらい切れるかを伝えるんですか?

「基本的に聞かれるまでは自分からは言いませんよ。聞かれたときにいつでも答えられるように準備しているんです」

まさに縁の下の力持ち。

その後も18ホール時間をかけてコースをなめ回すようにチェックした進藤さん。こうした陰の努力が松山英樹の強さを支えているんでしょうね。

コースチェックを終え、最後に今週のシネコックの優勝スコアを聞いたところ即座に「8アンダー」と答えた進藤さん。一日2アンダーペース。コースをつぶさに見たからこそスコアが出ないことを肌で感じたんでしょう。

撮影/岡沢裕行

This article is a sponsored article by
''.