2015、16年と2年連続賞金女王に輝いたイ・ボミを筆頭に、日本女子プロゴルフ界で韓国人選手が活躍する姿が目立っている。ツアーコーチとして成田美寿々や川岸史果などを指導している井上透コーチは、KLPGAツアーの制度と充実したスタッツ分析が優秀な選手を輩出し続けられる理由だという。一体、何が違うのか? さっそく、教えてもらおう。

パク・セリのメジャー制覇がツアーのレベルアップの起爆剤となった

今回は女子プロゴルフ界を席巻しているKLPGAツアー(韓国女子ツアー)についてご紹介したと思います。先週の日本女子ツアーの開幕戦「ダイキンオーキッドレディス」でもKLPGA出身のイ・ミニョン選手が勝負強さを発揮し、優勝を果たしました。また、今年から日本ツアーに本格参戦したキム・ヘリム選手も9位タイと実力を発揮しました。

まずは、この2人の韓国ツアーでの成績を紹介しましょう。イ・ミニョン選手は25歳にして韓国ツアー4勝の実力者。しかも平均ストロークでも常にトップ5に入る実力者でした。また、キム・ヘリム選手は2017年のKLPGAツアー賞金ランキング3位のトップ選手です。

すでに、日本ツアーには2006年から3年連続でKLPGAツアー賞金女王を獲得したシン・ジエ選手を筆頭に、2010年KLPGAツアー賞金女王のイ・ボミ選手や、2011年、2012年の賞金女王であるキム・ハヌル選手が参戦しています。 こう見ると現在、日本ツアーで大活躍している韓国人選手はKLPGAツアーのトップクラスの選手だったことが改めてわかると思います。

画像: 日本ツアーで2年連続賞金女王を獲得したイ・ボミや昨シーズン賞金ランク4位だったキム・ハヌルもKLPGAのトップ選手だった

日本ツアーで2年連続賞金女王を獲得したイ・ボミや昨シーズン賞金ランク4位だったキム・ハヌルもKLPGAのトップ選手だった

KLPGAツアーのレベルが一気に上がるきっかけは、1998年にパク・セリ選手が全米女子オープンで優勝してゴルフブームが巻き起こったことに端を発しています。これにより「パク・セリキッズ」と呼ばれるシン・ジエ選手(88年生まれ)、イ・ボミ選手(88年生まれ)、アン・ソンジュ選手(87年生まれ)らの世代が台頭することになりました。

KLPGAの急速なレベルアップを検証するために、KLPGA、USLPGA(米女子ツアー)、JLPGA(日本女子)ツアーの平均ストローク1位と50位の数値の推移をグラフ化しました。

図を見ると、1998年時点でKLPGAツアーの賞金ランキング1位の平均ストローク(水色の線)でもUSLPGAツアー賞金ランキング50位(紫色の線)の選手にも劣っていることがわかります。

しかし、USLPGAツアーやJLPGAツアーに多くの優秀な人材が流出してもKLPGAツアー全体のレベルは上がり続け、2017年にはJLPGAツアーの平均ストローク50位(赤い線)の選手をKLPGAツアー平均ストローク50位(オレンジの線)が上回る(平均ストロークが良くなる)結果になりました。

画像: 日本ツアー(青と赤)、米女子ツアー(緑と紫)がゆるやかな右肩下がりなのに対し、水色とオレンジの韓国ツアーの平均ストロークがこの20年で急激に下がっているのがわかる(画像提供:井上透)

日本ツアー(青と赤)、米女子ツアー(緑と紫)がゆるやかな右肩下がりなのに対し、水色とオレンジの韓国ツアーの平均ストロークがこの20年で急激に下がっているのがわかる(画像提供:井上透)

このグラフを見る上でKLPGAツアーの平均ストローク1位が乱高下するのは、トップの選手がKLPGAツアーに常駐せずに活躍するとすぐに海外に活躍の場を移すことが理由です。従ってKLPGAツアー50位の平均ストロークのほうがツアーのレベルをそのまま反映していると考えられます。

また、KLPGAツアーはすべての選手が韓国人なのに対して、JLPGA、USPGAツアーでは多くの韓国人選手が含まれています。このデータからも圧倒的な韓国勢の強さを感じる事ができます。

スタッツの充実が、レベルアップのひとつの理由

それではなぜ、KLPGAツアーからこのような優秀な選手が輩出されるのでしょうか。いくつかの理由が考えられますが、あくまでのKLPGAツアーの施策という点で考えると、ひとつは選手を育成する仕組みにあります。

KLPGAにはKLPGAツアー、ドリームツアー(日本のステップアップツアー)、ジャンプツアー(3部ツアー)の3部制を引いており、これは世界でもKLPGAにしかない仕組みです。これにより多くの若手プロが試合の場を与えられ強化に繋がっています。

それ以外にもKLPGAツアーのスタッツ(部門別データ)の充実もあります。JLPGAツアーでは2017年からスタートしたディスタンス計測を、KLPGAツアーでは2008年から始めていました。また現在でもKLPGAツアーでは、JLPGAツアーにはない細かいデータが集計されています。これにより、コーチがより適切な指導を選手に行なうことができることが、レベルアップの一助になっていると考えられます。

画像: スタッツ(部門別データ)の項目が充実しているKLPGAのHP。これもレベルアップにつながる要素だ(画像はKLPGAの公式サイト)

スタッツ(部門別データ)の項目が充実しているKLPGAのHP。これもレベルアップにつながる要素だ(画像はKLPGAの公式サイト)

現在、KLPGAツアーはトップ選手育成の「虎の穴」といった立場ですが、KLPGAツアーが行っているインターナショナルQTなどを見ると外国人選手の誘致をしたいという思惑を感じます。KLPGAツアーが「虎の穴」ではなくワールドツアーの一翼を担う日が来るかもしれません。

写真/大澤進二

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