「アイアンはフォージド(鍛造)に限る!」というゴルファーは多いが、昨今の女子ツアーではその限りではない。フォージドアイアンの傾向として男子プロやトップアマなどは特に好んで使っているというイメージがあるが、その理由を読み解いた。

アイアンの製造技術が飛躍的に高まるなか、いまだフォージド(鍛造)人気は高い

みなさんこんにちは。ギアオタクショップ店長・クラブフィッターの小倉です。いや~アン・ソンジュ強いですねぇ。早くも今季2勝目を挙げ、絶好調です。彼女は、今シーズンからクラブをガラッと変え、ドライバーやウェッジなどは契約せず自由にクラブを選べるフリーな状態で契約はアイアンだけだそうです。

そんな彼女が使っているアイアンはミズノのミズノプロ518というモデル。軟鉄鍛造ヘッドのバックフェースに比重の軽いチタンをはめ込むことで、マッスルバックのメリットを持たせつつ、キャビティのような効果を狙ったアイアンです。

画像: アン・ソンジュの使用クラブミズノプロ518(写真/野村知也)

アン・ソンジュの使用クラブミズノプロ518(写真/野村知也)

このミズノプロ518のように複合素材を使ったアイアンは製造技術が年々高まっている現代では別段珍しいものではなくなってきました。軟鉄だけでなくステンレスやチタンを組み合わせたり、タングステンをウェイトとしてヘッド内に埋め込んだりと性能を高めるために様々な組み合わせが生み出されています。その最たるものが今流行りの飛び系アイアンですね。

しかしプロや上級者にはいまだに軟鉄鍛造いわゆるフォージドモデルが根強く愛されています。とくに男子プロは、非常に多くの選手がフォージドモデルを使用しています。なぜこれほどまでにフォージドモデルは愛されるのでしょうか? 今日はその理由を個人的な意見を交えてお話ししたいと思います。

「フォージド=軟鉄鍛造」ではなくなっている

フォージドモデルの定義は、やや曖昧です。鍛造はクラブを精製する際の製法のことで日本刀などと同じ製法。金属を叩きながら精製していくので気泡などが金属内に入りにくくなり、強度の高い製品が作れるのがメリットです。ゴルフクラブの「フォージド」の意味は、基本的にヘッドの素材が軟鉄のみで、製造方法が鍛造のモデルを指すことが一般的でした。

しかし近年では素材が軟鉄ではない素材で鍛造精製したモデルでフォージドと名乗っているモデルもありますし、ボディは鍛造精製した金属を使用し、フェースは他の金属に差し替えて溶接したモデルでもフォージドと名乗っているモデルもあります。ヘッドのどこかにひとつでも鍛造精製のパーツが使われていればフォージドと名乗る傾向がありますので、フォージドモデル=軟鉄鍛造という構図は成り立ちません。ここは誤解しないようにしてください。

フォージドモデルの共通項としては、「ライ角」「ロフト角」が調整できるという点があります。ネックを曲げることで調整しますが、鍛造製法されたヘッドだと金属内に気泡ができにくくなるため調整がしやすいのです。ライ角はベンディングバーという工具で挟み、テコの原理を利用してネックを曲げるのですが、気泡があると調整時に折れてしまうんです。

別の製法である鋳造ヘッドでもライ、ロフトを調整できるモデルも存在しますが、一般的ではありません。これはプロや上級者にとって大きなメリット。精密なボールコントロールを求められる彼らにとって自分の体型やスウィングによりクラブをフィットさせることは重要だからです。

画像: ライ・ロフト角を調整できるというのは大きなメリット

ライ・ロフト角を調整できるというのは大きなメリット

フォージドモデルのそれ以外のメリットは、どこにどの素材を使っているかで異なってきます。一体成型で軟鉄のみを使用したフォージドモデルは、ライ・ロフト角調整の他に打感などのフィーリング面が優れるといったメリットがあります。インパクト時に余計な振動や打音が抑えやすくなるためで、特にバックフェース裏の厚みがあるマッスルバックは、芯で打った時澄んだ打感がとても気持ち良いと感じやすくなります。

なぜ一体型フォージドモデルが上級者に好まれるのか

この一体成型のフォージドモデルは主に男子のプロや上級者に愛用者が多いです。その理由としては上記のメリットに加え、操作性の良いモデルが多いから。操作性の良いアイアンは別にフォージドモデルでなくても作れます。しかしプロや上級者に求められるフィーリング面に関しては、フォージドモデルが一番であり、ライ・ロフト角の調整をする前提で考えると他の製法で作るメリットがないのでほとんどそういったモデルは存在しません。

飛距離性能を重視するのなら他の製法も視野に入りますが、自分で飛距離が出せる男性には、それほどメリットにはならないため、一体成型のフォージドモデルが好まれるのです。ネックを含めたボディだけのフォージドモデルは、ライ・ロフト角調整がしやすいというメリットだけです。そのぶん異素材を使うことによって別のメリットを生み出しています。

フェースに異素材を使う場合は、反発係数を高めた飛距離性能とスウィートエリアの拡大など、ボディに異素材を使っている場合は、ソールに比重の重い金属を埋め込んで低重心化したり、前記したミズノプロ518のようにバックフェースに軽い素材を埋め込んでスウィートエリアの拡大を狙いながら、打感の向上などです。

画像: 日本人初のマスターズ制覇の期待がかかる松山英樹も、フォージドアイアンを愛用する(写真/岡沢裕行)

日本人初のマスターズ制覇の期待がかかる松山英樹も、フォージドアイアンを愛用する(写真/岡沢裕行)

まとめましょう。フォージドモデルには、種類がいくつかありますが、共通するのはライ・ロフト角調整が可能なことにより個々のスウィングや体型により細かく調整できるということ。軟鉄だけのフォージドモデルは、飛距離性能は他の製法に劣りますが打感や打音のフィーリング面、操作性の優れたモデルが多いので男子プロや上級者に好まれます。他の素材と組み合わせたモデルの多くは、ライ・ロフト角調整のメリットに加えて異素材を使用することで別のメリットを生み出している。

単にボールの直進性や打点のミスへの強さ、飛距離などを追求するなら、複雑な形状も作りやすい鋳造製法を採用したほうが良いものを作れます。操作性という性能だけでなく、フィーリング面という数値に表れない部分や、ライ・ロフト角調整などの機能によってより個々にフィットしたクラブが作りやすいというのが好まれる理由なのではないでしょうか。

ちなみに立場上、「自分にはどんなクラブがあってますか?」と聞かれることが多いのですが、腕前関係なく上達志向の強い方には、ほとんどの場合一体成型のフォージドモデルをお勧めします。ミスがミスにならないクラブを使っていると上達スピードは遅くなってしまいますからね。

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