昨年はリードを本命と予想。契約フリーとなったことで候補から外していた
優勝したパトリック・リードですが、僕は実は昨年優勝候補の本命に挙げていました。1年予想が早かったのは残念ですが、昨年本命に挙げ、今年本命から外したのには理由があります。それが、クラブの変更です。
というのも、2008年から2016年までのマスターズは、14本すべてを同一メーカーに揃えた選手が勝つ、というデータがあったんです。昨年までキャロウェイとクラブ契約を交わしていたリードは、ロブウェッジを除いた13本をキャロウェイで統一しており、ほぼこれに当てはまりました。
その上で、ドライバー、アイアン、アプローチ、パッティング、突出した部分はないかもしれないけれど、すべてがハイレベルで穴がない点から、昨年はリードを本命に挙げたのでした。
2017年のマスターズでは、リードの勝利とはなりませんでしたが、14本すべてを当時の契約先であるテーラーメイドに揃えたセルヒオ・ガルシアが勝ちました。ゴルフの総合力が問われるマスターズでは、「ワンブランド」の優位は揺るがない。そう感じたのを覚えています。
そして迎えた2018年のシーズンを、リードはクラブ契約フリーで臨むことになりました。これが、今回リードを本命から外した理由です。そして、ご存知の通り、リードは「メーカーがバラバラの14本で勝利した選手」になりました。
リードのバッグには、ピンのドライバー、ナイキとタイトリストのフェアウェイウッド、キャロウェイのアイアンが2種類、アルチザンというテキサス州のクラブメーカーとタイトリストのウェッジ、そしてオデッセイのパターが入れられていました。この中で、私が注目したのはドライバーです。
リードが今回使用したのは、ピンのG400LST。今週の国内男子ツアー開幕戦で同じくクラブ契約フリーの私が使用するのと、まったく同じヘッドです。使用者なのでよくわかりますが、このクラブは“つかまらない”ドライバー。言い換えれば、右に行きやすく、左に行きにくいクラブです。
さて、リードは本来ボールを左に曲げてコースを攻めたいドローヒッター。なのですが、今回、ドローの幅は極めて少なく、ほぼストレートの弾道でオーガスタを攻めていました。オーガスタはドローヒッターが有利とはよく言われることで、実際にドローのほうが攻めやすいホールのほうが多いのは事実です。
しかし、近年は選手の飛距離が飛躍的に伸びたことも影響し、「ドローが攻めやすい」だけでなく「ドローがかかりすぎるとノーチャンス」という風にも言うことができるようになってきています。実際、最終日の15番で、リードのティショットはドローがキツくかかり、セカンドでグリーンを狙えませんでした。つまり、ドローは諸刃の剣なんです。
そこでリードは、つかまらないドライバーを手にすることで、自らのドライバーを“ほぼストレート”にし、それによってティショットのストレスをかなり減らすことに成功していました。
実はリードは、今年に入ってテーラーメイドの「M3」ドライバーを使用していました。このクラブは、G400LST同様に低スピンで左にいきにくいクラブですが、どちらかというと敏感で“変化球”が打ちやすい、操作性が高いクラブ。それに対してG400LSTは鈍感で“真っすぐ”が打ちやすい。どちらがいいとか悪いとかではなく、マスターズで自分はどんなゴルフをするのか、それに合わせてクラブを選んでいる印象です。
もちろん、ドライバーだけではありません。テレビ中継を見ていて思ったのですが、アイアンのライ角が標準より明らかにフラット。ライ角をフラットにすることで、ボールは左に行きにくくなるんです。そして、パターも同じようにフラットに調整していたように見受けられました。つまり、メーカーこそバラバラになったものの、“左にいかない”という一点においては見事に14本が統一されていたわけです。
2008年から2017年まで、ちょうど10年間続いた「マスターズでは、14本のクラブを同一メーカーで揃えた選手が勝つ」という伝統は、リードが打ちやぶりました。そして、リードは「左にいかない」というコンセプトで14本を見事に統一していました。自分の好みだけでなく、球筋、そしてコース戦略までを総合してクラブを選ぶ重要性を、改めて感じさせてくれた、リードの優勝でした。