ゴルフクラブを構えた際の見た目のことを、俗に「顔」という。とくに“顔談義”が盛り上がるのがアイアンで、ゴルファーが二人集まればアイアンを構えて「これはいい顔だ」「これはイマイチ」と盛り上がるもの。でも、そもそも「いい顔」って一体なんだろう? 業界屈指のギアオタクが考えた。

アイアンの「いい顔」って?

みなさん、こんにちは。クラブ大好き店長の小倉です。先日お店で何人かの常連さんとこんなやりとりがありました。

常連Aさん「そろそろアイアンを買い替えようかと思うんだけど、なんかお勧めのアイアンある?」
小倉「Aさんにはこのアイアンが良いと思いますよ」
常連Aさん「どれどれ? お~いい顔してるじゃない!」
常連Bさん「俺にも見せてよ……いや~俺はこの顔好きじゃないな」
小倉「Bさんには、こっちのアイアンが好みだと思いますよ」
常連Bさん「そうそう! こういう顔のほうが良いねぇ!」

この二人はいつも贔屓にしていただいている常連さんたちで、スウィングの傾向はもちろんゴルフを始めてからどんなクラブを使ってきたかなどもお聞きしているので、私はこの二人の「好み」を大体把握していました。だからそれぞれにとっての「いい顔」をおすすめすることができました。

クラブの形状、「顔」にこだわる方は上級者に多い気がします。アドレスした時にどう見えるか? ただそれだけのことなのに、人によっては「顔が好みじゃないと気持ち悪くて打てない」なんて言う人もいます。そもそもゴルフクラブに対する「いい顔」ってどんな顔のことでしょうか。

ゴルフクラブのいい顔とは、簡単に言うと「良い結果をイメージさせる形」かどうかです。人によってスウィングが違うので良い結果を生む形は異なりますし、どんな弾道を良い結果と認識するかによっても変わってきます。もっとざっくり言ってしまえば「好み」で終わってしまうのですが……。

画像: みなさんも「好きな顔」はありますか?(撮影/有原裕晶)

みなさんも「好きな顔」はありますか?(撮影/有原裕晶)

上級者やプロの好む良い顔とは、今まで数多くのクラブを打ってきた経験から「こういう顔のアイアンは自分のイメージする弾道が打ちやすい」顔のことを指している場合が多いです。ヘッドの形状は性能を映します。とくにアイアンは操作性やつかまり具合などが濃いめに形状に出るので自分のイメージにそぐわない形状をしていると直感的に気持ち悪さを感じるのだと思います。

一番わかりやすいのがグースネックでしょうか。グースネックのアイアンは、リーディングエッジが後方に下がるので、ヘッドがターンする時間が稼げるためにボールのつかまりが良くなります。上級者やプロは、このネックが自分のイメージするヘッドの挙動や飛んでいく弾道に影響を与えるのを知っているから、選ぶ人が少ないのです。

アイアンの顔に黄金比はない

ちなみに、人間の「美しい顔」には黄金比というものがありますよね。誰が見ても「美しい」と思うという顔。アイアンの顔には誰もが美しいと思うような黄金比はないみたいです。とはいえ、クラブの顔も人間と同じで流行りがあって時代によってモテる顔が違います。メーカーによってはいい顔と言われるクラブをデータ化して他のモデルの参考にしているところもあるようです。

ただ、ゴルフを長くやっている人でもこれから始める人でも、いびつな顔のアイアンは判断がつきます。構えてみるとなんだか違和感があるんです。クラブデザイナーの増田雄二さんによるとその違和感はバランスから来るとのこと。

バランスというのは、つかまり顔のやさしいアイアンならすべての要素がつかまる形、逃げ顔のアスリートアイアンならすべての要素が逃げる要素になってること。このバランスなんだそうです。ひとつでも性能や顔の方向性と違う部分が混ざっているとそれが「違和感」になるそうですよ。

ちなみに「つかまり顔」というのはトウ側のボリュームがあり、グースネックと相まってボールを包み込む形状をしているということ。対する「逃げ顔」というのはトゥとヒールに高さがあってつかまりすぎないイメージを持たせる形状のこと。こちらはトップブレードも真っすぐでシャープなイメージですね。わずかなトップブレードの丸みもつかまりそうなイメージの付与に貢献しています。

画像: 左がつかまり顔、右が逃げ顔のアイアン

左がつかまり顔、右が逃げ顔のアイアン

アベレージゴルファーの顔の好みは、最初に使ったクラブが強く影響します。最初にトップブレードが厚いアイアンを使った方は、トップブレードの薄いアイアンを持つと不安に感じやすいですし、反対に薄いアイアンでゴルフを覚えた方は、厚いと鈍重なイメージを持ってしまうといった感じ。ネックの形状やフェース長の長さもそれに当てはまります。

アベレージゴルファーの場合、まったくボールに当たらない状態からそこそこ当たるようになるまで使ったクラブが、一番成功体験が多いからなのだろうと個人的には分析しています。

最近のクラブは、異素材を使って重心位置を調整したモデルがたくさんあります。アイアンは根本的な形状が変わっていないのでまだまだ形が性能に影響する部分は残っていますが、ドライバーは可変式ウェートなどでヘッドの形状がクラブの性能と一致しないモデルがたくさん発売されています。

何が言いたいかと言うとドライバーは形状から性能をうかがい知ることができなくなってきているということ。アイアンはまだしもドライバーに関しては、こういう顔がイメージ通りの弾道が打てていたからと次も同じような顔のドライバーを選んでも同じようにはなりにくいということです。個人的には、これがドライバーを難しくしている一因なんじゃないかと思っています。

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