有名コーチであり、レギュラーツアーにも挑戦を続けるプロゴルファー・中井学。実は中井は、昨年ツアーで生き残るためにクラブ契約をフリーにして、“自腹”でオーダークラブを作る決断をした。決断から半年。ゴルフライターの高梨祥明がその過程を追った。

「7番みたいな大きさのショートアイアン」を作ってみたかった

中井学(46歳)は、2015年にプロテストに合格した中年ルーキーである。もともと明快なスウィング理論とコーチング技術で高い評価を受けていたが、プロゴルファー(競技者)としての実績は、ない。生半可では生き抜けないプロツアーに出る決意をした時、彼が選んだのはゴルフクラブにおける契約を“フリー”とすることだった。

「それまで契約していただいていたピンのクラブに不満があった、ということではないんですよ。契約フリーになることでもちろんピンも使えますし、他メーカーのモノも、場合によっては古いモノだって使えるようになる。40代半ばでプロとなり、自分なりに勝負できる年数を考えた時に、迷っているなら一度“自由”に道具選びをしてみたくなったのです」(中井)

アイアンについては、自身がもっともゴルフに打ち込んだ大学時代に使っていた、ミズノ「MP-14」の感触が忘れられずにいた。そこで、ずっと行きたかったミズノの養老工場(ミズノテクニクス社)に赴き、クラフトマンに思いのたけを話して、完全なるパーソナルアイアンを作ることにしたのだ。契約フリー、当然、費用はすべて自腹である。

画像: ミズノのクラフトマンと話し合いながら、ずっと思い描いていた理想のアイアンを作ってみた

ミズノのクラフトマンと話し合いながら、ずっと思い描いていた理想のアイアンを作ってみた

中井が養老でオーダーした内容は、だいたい次の通りである。

ベースモデルは、「ミズノプロ118」。
ヘッドの形状は、「MP-14」に近づける。
ショートアイアン(#8〜PW)を小さく、7番アイアンに近い大きさとする。

形状は「MP-14」の外形プレート(金属でできた型紙のようなもの)そのものが養老にあり、難なくクリア。難しいのは7番みたいな大きさのショートアイアンだが、こちらもベテランクラフトマンが削りながら、マスターヘッドをその場で確認することで、希望通りのカタチ、大きさに仕上げることができた。

画像: 中井に届いたアイアン。契約フリーだからこそできる自分だけのオーダークラブだ

中井に届いたアイアン。契約フリーだからこそできる自分だけのオーダークラブだ

「ゴルフクラブの操作性は、グリーンに近づくほどよくならなければいけない。でも、アイアンは短くなるごとに大きなヘッドになっている。操作性が悪くなっているじゃないか! と、ずっと思っていたのです。せっかく契約フリーになったのですから、この際、その疑問も含め試してみようと思ったのです」(中井)

その時点では正解かどうかなんてわからなかった。やってみたいことを、とにかくやってみる。それが2017年の秋のことだった。

小さいショートアイアンは意外に飛んでしまう!? 中年ルーキーの誤算と気づき

ヘッドを小さく削ったショートアイアン。もちろん、市販ヘッドのショートアイアンを削っただけでは、単に軽い小さいアイアンになってしまうが、今回はあらかじめ重たいヘッドを用意。それを小さく削り込むことで、重量を適正に仕上げている。このあたりがミズノ養老の素晴らしさである。さて、その完全カスタムアイアンを半年以上使い込んだわけだが、中井の評価はどうなのだろうか?

「正直言うと、小さいショートアイアンは狙いよりも飛んでしまいます。スピンが減って飛んでしまう感じです。扱いやすさ、とくにラフからの抜けのよさは抜群。でも、とくに試合のグリーンだとスピンが足りないように感じる。ある意味、狙い通り。誤算もあったという感じですね」(中井)

もともと「ミズノプロ118」は、マッスルバックでヘッドの下部が分厚いモデル。小さく(上を削る)すればさらにソール部が重たくなり、それによって低重心化が促進されてしまう。それがバックスピンを減らしてしまい、思ったより飛んでしまう理由だと考えられた。

画像: 8番アイアン。上の一般市販モデルと比べ、かなり小さいのが中井モデルの特徴

8番アイアン。上の一般市販モデルと比べ、かなり小さいのが中井モデルの特徴

「スピンを増やすために、シャフトを変更するのはアリかなと思っています。ただ試合を重ねてみると操作性だけでなく、ミスに対する寛容性を考えることも必要だと痛感。とくに緊張した場面でクラブがどう見えるのか。そういうことも含めて一筋縄ではいかないのがアイアン選びだと改めて感じています」(中井)

今後は、このミズノアイアンの調整を行いつつも、これにこだわらず広い視野で様々なアイアンを打ってみたいという。契約フリーの立場であるからこそ選択肢は無限、そこに迷いも生じるはずだ。それでも“やれずに悶々としているより、やって納得したほうが次に進める”。中年ルーキーはそのために自由の道を選んだのだ、と俄然ヤル気なのである。

撮影/富士渓和春

This article is a sponsored article by
''.