近年は道具の進化と科学的なトレーニング、計測機器の出現によりドライバーの飛距離は伸長傾向にある。PGA(米男子)ツアーの平均飛距離が300ヤードをゆうに超える時代に、290ヤードに満たない(289ヤード)ながら一線級で活躍をするのがマット・クーチャーだ。クーチャーの強さの秘密をゴルフスウィングコンサルタントの吉田洋一郎がひも解く。

昨年の全英ではスピースとデットヒート

今週、メジャー3戦目の全英オープンが始まります。昨年はジョーダン・スピースとマット・クーチャーが最終日、最終組で優勝争いを演じました。両者ともにコントロール性を武器にするショットメーカーだったのは偶然ではないでしょう。

画像: 昨年の全英ではジョーダン・スピースと優勝を争い、2位となったマット・クーチャー(写真は2017年の全英オープン)

昨年の全英ではジョーダン・スピースと優勝を争い、2位となったマット・クーチャー(写真は2017年の全英オープン)

全英オープンが行われるイギリスのリンクスコースは、強い風と硬い地面が特徴です。1日の中に四季があるとも言われ、状況は刻々と変化します。ドーンというストレートボールのビッグドライブでオートマチックに打てる選手より、状況に応じてシビアにボールをコントロールできる選手にアドバンテージがあるのです。

結果は、16歳年下のスピースに軍配が上がりましたが、タフなコンディションの中で粘りのゴルフを展開したクーチャーにも称賛の声がかけられました。

“地面反力”を使わずにアプローチ感覚でスウィングしている!?

今年40歳になるクーチャーのスウィングを、バイオメカニクス(生体力学)の専門家であるヤン・フー・クォン教授が分析をしました。

クォン教授は切り返しで地面を踏み込んだ際に生じる反動の力(地面反力)をスウィングに取り入れることを提唱しています。少し前までは、こうした目に見えない「力」を生かすレッスンは非常に困難でした。概念的には理解できるものの可視化ができないため、どのように体を動かせば、目に見えない力を最大限活用できるかがわからなかったのです。

しかし計測機器の発達で、スウィング中にどこでどれくらいの大きさの力が生まれるかがわかるようになってきたのです。PGAツアーのプロのスウィングを計測すると多くの選手が切り返しで地面を踏み、その反動の力を使って肩を高速に回転させクラブを加速させていることがわかりました。今や地面反力は、力の出し方の大きなトレンドになっていると言えるでしょう。

しかしクォン教授がクーチャーのスウィングを計測したところ、地面反力を効果的に使えていないことがわかったのです。地面反力の最大値で比べると、プロの平均は体重の1.62倍ですが、クーチャーは体重の1.28倍しかありませんでした。

地面方向への踏み込みが弱いクーチャーは、体の回転力が小さいため手の動きでヘッドを加速させていました。手首の角度のリリースを早くしてヘッドを加速させるのです。

画像: マット・クーチャーは手首の角度のリリースを早くしてヘッドを加速させている(写真は2017年の全英オープン)

マット・クーチャーは手首の角度のリリースを早くしてヘッドを加速させている(写真は2017年の全英オープン)

手元の動きを使ってヘッドを加速させても、地面反力ほどの大きな力は出ません。しかしリリースを早くすることでインパクトゾーンが長くなり、ミスの確率が減るというメリットがあります。身長193センチ、体重88キロで元々飛距離が出るクーチャーにとって、ボールをコントロールすることを重視した「アプローチ感覚」のスウィングと言えるかもしれません。

PGAツアーで近年増えている、ストレートで距離の長いホールでは不利になりますが、距離が長くなく、かつショットの落としどころがピンポイントなホールでは、クーチャーのようなショットの正確性が大きな強みになります。不惑となったクーチャーが正確性を武器に初のメジャータイトルを奪取できるか注目です。

撮影/姉崎正

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