成田美寿々や川岸史果らトッププロを指導するプロコーチ・井上透は、20年以上ジュニアゴルファー育成に携わる中で「海外のジュニアゴルファーはマナーが悪い」という声を選手から聞くことがあるという。国が違えば、当然文化や考え方も違う。日本と海外のゴルフマナーに対する認識の違いについて、改めて考えてみよう。

世界と日本のジュニアゴルファーのエチケット&マナー

毎年世界ジュニアに引率していますが、初めて出場するジュニアゴルファーから「海外のジュニアゴルファーはマナーが悪いですね……」という感想を聞く事があります。具体的な理由はいくつかありますが、それは表面的なことで、問題の本質は、外国人と日本人の価値観の違いからくる「正しいマナー」に対する認識の違いなのかもしれません。

ともあれ、ここではゴルフのマナーという具体的な点からのみ見ていこうと思いますが、日本人代表選手の彼らから最も多く聞かれる声は、先にホールアウトしてもピンを持たずにさっさと次のティグラウンドに行ってしまう事です。

日本人ゴルファーの感覚から言うと、これは明らかにマナー違反になります。日本ではジュニアゴルファーには必ず、先にホールアウトした選手がピンを持ち、最後の選手がホールアウトした後にピンを戻すように指導します。

画像: 日本人ジュニアは、先にホールアウトしたら旗竿を持ち、元に戻すのが“当たり前”(写真は2018年のトヨタジュニアゴルフW杯)

日本人ジュニアは、先にホールアウトしたら旗竿を持ち、元に戻すのが“当たり前”(写真は2018年のトヨタジュニアゴルフW杯)

もちろん、日本代表になるほどの選手ですから、ゴルフ経験は豊富で、マナーやエチケットも自然に身についていますから、彼らから見れば、そういった当然の事をせずにさっさと次のティグラウンドに向かう外国人選手の姿はマナー違反に感じたようです。

しかし、こういった行為はアメリカのジュニアゴルファーでは一般的な事だそうです。私が聞いたところによると、アメリカのジュニア協会では、先にホールアウトした選手は次のティグラウンドに行って、前の組がいないようであれば先に打つように指導しているようです。

その為か、本当に多くのジュニアゴルファーは先にホールアウトしてもピンを持ちませんし、次のティグラウンドで打つ順番も守りません。彼らは、プレーのスピードを重視し、ごくごく合理的な時間の使い方をしているようです。

これは、確かに「プレーファスト」の観点から考えれば至極合理的ですが、同組のプレーヤーを気遣うスタイルの、言ってみれば「日本式ゴルフ」を覚えたゴルファーからすればマナー違反に感じます。

また、海外に行くことで、日本のジュニアゴルファー独特なマナーも改めて感じることがあります。それはスタート前のコースへの一礼です。この一礼、成田美寿々プロはトッププロになった今でもスタート前の習慣で行っています。

日本代表の多くの選手が行っている、日本人ジュニアゴルファーしかやらない「儀式」です。私なりに、何故、日本だけこのような慣例ができたかを考えると、ジュニアゴルフの世界においては、ゴルフを教育の一環と捉え「ゴルフ道」を指導しているからだと思います。

それは、「武道」から来ている考え方なのかもしれません。「礼に始まり礼に終わる」、それは日本人の持つ美徳の表れとも言えるように思えます。ですからこのスタートホールでの、脱帽しての一礼は、日本人として、見ていてとても清々しく感じる動作です。

日本人ジュニアのプレーは海外のジュニアより早い

話は変わりますが、日本では「最近のジュニアゴルファーはプレーが遅い」と言われています。しかし世界ジュニアに行くと日本のジュニアゴルファーのプレースピードは他の海外のジュニアよりもかなり早いことがわかります。こういった習慣を持ったジュニアゴルファー達がプロになっていくと思うと、ヨーロピアンツアーでスロープレーの罰則が強化された事も頷けます。

スロープレーの主な要因は、選手がルーティンワークを徹底している為、打つまでの作業が増えている事や、ヤーデージブックなどのデータが増えてしまった結果、ショットを決断するまでの時間がかかるようになった事が考えられます。

このように日本と世界では多くのギャップがあります。それは深く考えると文化論として扱えるほどのテーマかもしれません。ゴルフを通して見えて来る日本人の価値観や美徳があり、それはまた別の国にはその国で良しとされているやり方があり、興味深いものだと思います。そして日本のジュニアゴルファーには世界に誇れるエチケット&マナーを身につけて、堂々と世界でプレーしてもらいたいと思います。

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