打感が向上するとされ、80~90年代まで多くのプロモデルアイアンに採用されていた銅下メッキ。はたしてどんな効果があるのか、本当に打感は良くなるのか。ギアライターの高梨祥明が“銅下メッキ神話”の真相に迫る。

ゴルフクラブにまつわる神話。軟鉄鍛造は打感が本当にいいのか!?

ゴルフクラブには都市伝説というか、神話みたいなものが幾つも存在する。例えば、“軟鉄鍛造は打感が軟らかい”神話。確かにステンレスよりもS20C、S25Cといった炭素鋼のほうが素材自体も軟らかいため、そうした定説には信ぴょう性がありそうだ。しかし、某メーカーの開発担当者いわく、軟鉄マッスルと全く同じ形状のアイアンヘッドをステンレス鋳造で作り、米ツアーのトッププレーヤーに打ってもらったところ、ほとんどのプレーヤーは全く気づくことがなかったそうだ。

打感とはインパクトの衝撃でヘッドが振動することによって起こる2つの現象、【1】高周波振動が空気を震わせて生み出す「サウンド」、【2】低周波振動がシャフトを震わせ手元に伝わる「フィール」を合わせたものだといわれているから、同じ構造(フェースの厚み)ならば打感は大きく変わらない、というテスト結果は信用できるような気がする。

画像: ヘッド全体をカッパーメッキした上に、ニッケルクロームメッキを施す。これが“銅下”メッキである

ヘッド全体をカッパーメッキした上に、ニッケルクロームメッキを施す。これが“銅下”メッキである

アイアン、ウェッジにおける別の神話として、銅下メッキを施すと打感がソフトになる、というものもある。軟鉄鍛造ヘッドをメッキする際、まず銅メッキを施し、その上からニッケルクロームメッキを施す。そうすることで打感がよくなるのだそうだ。前述の打感=振動という説からいけば、ミクロの銅メッキ層が間に入ったところで、振動的に大きな変化が起こるわけではないだろうとも思うが、80年代から90年代までは多くのプロモデルアイアンに銅下メッキが採用されていたのは事実なのだ。

銅メッキすると2〜3gの重量増。打感ではなく重量調整が主目的

アイアンクラブで銅下メッキが採用された背景には、プロ用に小さく削ったアイアンヘッドの重量を調整する目的があったとされる。銅メッキをヘッド全体に施すことで、アイアンヘッドなら約2〜3グラム、ウェッジなら約3〜4グラムの重量アップが可能。鉛を貼ったりすると部分的に重たくなってしまうが、比重の高い銅でヘッド全体を均一に包むことで、ヘッドの基本設計を変えることなく重量アップが果たせるのだという。

しかし、単なる重量調整ということなら、打感云々という神話は生まれない。そもそもプレーヤーはニッケルクロームメッキの下に銅メッキ層があるなど知るよしもないからだ。いや、知るよしもないのは現代のプレーヤーであって、昔のプレーヤーは2層目の銅の存在をバッチリ知っていたとみるべきか。なぜなら、同じアイアンを長く使うことでフェースに打球傷、ソールにも擦過傷がつき、ニッケルクロームメッキ層の下から銅メッキ層が顔をのぞかせたからだ。練習場にも土打席なるものがあって、アマチュアレベルのプレー頻度でもアイアンヘッドには打球痕が残った。買い替えスピードが早く、人工芝マットからしか練習しない現代ではあまり見られない、ゴルフ道具のエイジングが昔はあったのである。

画像: 打球によってクロームメッキがはがれてしまったアイアン。今は中古ショップに行っても、こんなに使い込まれたアイアンを見ることはない

打球によってクロームメッキがはがれてしまったアイアン。今は中古ショップに行っても、こんなに使い込まれたアイアンを見ることはない

シルバーのクローム層の下から顔をのぞかせた、鈍色のカッパー層。これを多くの人が、なんとなく軟らかそうだと感じたのではないだろうか? 80年代、大ヒットしたアイアンにPINGのEYE2があるが、このモデルでもシルバーのステンレスヘッドよりも、硫化して自然に黒色化していくベリリウムカッパーヘッドのほうが、打感が軟らかいと評判になった。素材自体はベリリウムのほうが数段硬いのに、である。ポイントは、ヘッドの色だった。

打感はサウンドとフィールの掛け合わせ、と書いたが、こう考えていくと、「視覚効果」も無視できない3つ目の要素であるように思う。90年代になると、ウェッジの打球面のみを銅メッキやノーメッキにしたモデルが流行。それが今でも、メッキモデルよりノーメッキのほうが軟らかいという神話に繋がっている。百円玉(ニッケル)と10円玉(銅)なら、どちらが軟らかく感じる? それと同じことをアイアン、ウェッジでもやっているのかなぁと思う。

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