グリーン上でカップに向かって狙いを定め、その通りに打とうと構えた刹那「もうちょっと右を狙ったほうがいい気がする……」とゴルファーを惑わす雑念を、ツアー30勝のレジェンド・倉本昌弘は「心」と呼ぶ。どうしてもその「心」が出てきてしまう場合、プロは“技術”で対応するというのだが、果たしてその方法は? 自身の著書「本番に強くなるゴルフ」から教えてもらおう。

プロは迷う心に技術で対応する

グリーン上で「心」に惑わされず、最初に狙ったとおりに打つためには、プレショットルーティンを済ませたら速やかに打つ練習をしておくことが大切ですが、そういう練習をしていても、アドレスした途端に、迷う「心」が出てきてしまうこともあります。ケースにもよりますが、そんな時プロは技術で対応します。

たとえば、下り傾斜のとき、「ここは打ち過ぎたくない」という「心」が出てきたら、いつもより球を少し右に置いて打つ。すると、ロフトが立って、インパクトのときに球が地面に押しつけられるぶん、ほんの少し転がりが悪くなり、打ち過ぎを抑えられます。

逆に、上り傾斜で「ここはショートしたくない」という「心」が出てきたら、いつもより球を少し左に置いて打つ。するとアッパー軌道になってオーバースピンがかかりやすくなるぶん転がりがよくなって、ショートのミスを抑えやすくなるのです。

画像: 打ち過ぎたくないときはボールを少し右に置いて打つ(左)ショートしたくないときはボールを少し左に置いて打つ(右)

打ち過ぎたくないときはボールを少し右に置いて打つ(左)ショートしたくないときはボールを少し左に置いて打つ(右)

どんな急な下りだろうが、迷う「心」が出てこないときには、普通に打てばいい。でも、「心」が出てきてしまったら、もうミスが出やすい状態になっているわけです。だから、そのざわついた心を落ち着かせるために技術を使う。

実際には、球の位置を変えただけで、転がりが大きく変わるということはありません。ただ、そうすることで、「転がりが変わるんだ」「ミスを防げるんだ」と思って打てることが大切なのです。そう思うことができれば心を整理した状態でストロークしやすくなる。

他にも、アドレスした時に、「なんだか左に引っかけそうだな」という「心」が出てきたときには、いつもよりほんの少しハンドアップにして打つ。そうすると、手首の動きを抑えられるとともに、わずかにヒールが浮いて球がつかまりにくくなるぶん、左へのミスが出にくい。

逆に、「ここは右へ押し出すミスだけはしたくない」という「心」が出てきたら、いつもより少しハンドダウンに構えて打つ。するとわずかにトゥが浮いてつま先上がりと同じような状態になり、球がつかまりやすくなって、押し出すミスを防ぐことができる。左右のミスが「嫌だな」という気持ちに対して、そのミスが出にくい構えをすることで、心を落ち着かせるのです。

画像: 引っかけたくないときにはわずかにハンドアップ(左)押し出したくないときにはハンドダウンする(右)

引っかけたくないときにはわずかにハンドアップ(左)押し出したくないときにはハンドダウンする(右)

ただし、こういう技術というのは、あくまで普段から練習していて、本番で使うときに心と体が拒否反応を起こさないことが大切です。理屈を頭でわかっていても、経験不足の技術や、恐怖感を伴う技術は体が拒否するので本番では使えません。

たとえば、ひとつの技術を誰かに教えてもらい、それを練習場でやってみたらできたとします。すると、多くの人は「もうわかった」「できた」と言って、そこで練習をやめてしまう。でも、1回くらいできたといって、そこで練習をやめてしまうと、次にその技術を使おうとしたときに恐怖感が生まれ、体が拒否反応を起こしてミスが出る。

「心」が体を邪魔するのは、結局は経験不足や恐怖が原因です。そういうものを取り除くためには、わかったと思っているようなことでも繰り返し続けていくことが大切なのです。

「本番に強くなるゴルフ」(ゴルフダイジェスト新書)より

撮影/岩井基剛

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