ほとんどのゴルファーがキャディバックに14本のクラブを入れているが、1ラウンドで14本すべて使うというゴルファーは少ない。ハーフセット主義者のゴルフマナー研究家・鈴木康之の流儀を、自身の著書「脱俗のゴルフ」から紹介。

ハーフセットならミスをしたって気持ちは前向き

週末の早朝、地下鉄駅の階段を、か細いお嬢さんが真新しいフルセットのゴルフバッグを担いでよろけながら上がっていきました。見るからにピッカピカのゴルフ一年生。しかし私の目には初々しいより、あらまあ可哀そうに、と映りました。ここまでの支度に彼氏か会社の上司か、せめてショップの店員が、「あなたにはハーフセットで十分。 十四本は要りませんよ」と言ってあげなかったとは、みんな罪な人たちです。

ものの本によると、これでも減らした結果の十四本なのだそうです。一九二九年にスチールシャフトが公認されてクラブの開発が盛んになり、七・五番アイアンとか四・五番アイアンなどと細分化が進み、これらを持ち揃えたがる人が続出しました。

兄事しているゴルフ博学、藤岡三樹臣さんに教えてもらいました。全米・全英両アマのダブル連覇を果たしたローソン・リトルはウッド五本、パターを含むアイアン十八本、左打ち用を含むウエッジ八本、合計なんと三十一本! 総革製のバッグで、雨傘、雨衣、ボールは数ダース。ゆうに三十キロは超えたはずだと言います。キャディたちが怒ってストライキをやっても不思議はありません。

一九三〇年代になって、後にR&Aのルール委員長になったトニー・トーランスと米国のボビー・ジョーンズが話しました。ジョーンズが「あなたはバッグに何本入れているか」、トーランスは「十二本」と答え、ジョーンズは「私は十六本」。そこで間をとっては十四本を適正本数とした、と、『GOLF A Celebration of 100 years of the Rules of Play』に記されているそうです。中を取ったわけです。ゴルフの歴史とは、こんなものなのです。

このときに球聖ジョーンズには「ならば私も十二本にしましょう、パターを入れて一ダース。少ないほうが面白い」と、その時歴史が動いたとなったはずの一言を言ってほしかった。じつにどうも残念です。

長く英国に住んでいた藤岡さんは「一九六〇年代だけど、競技に出るような人でもせいぜい十二本。ふつうのゴルファーは七、八本だったな」と言います。

私がだいぶ前にハーフセット主義者になったのは、人一倍練習に励んでいる割にパーオン率のあまりの低さにいまさらながら呆れたからです。十ヤード刻みの道具を十四本備え持っているのに、ほとんど十ヤード刻みに打てません。プロでさえ本番ではピンハイにピタピタと打っていません。

一五〇ヤードなら私は七番アイアンです。ところがたいていは前後左右にぶれます。つまりミスです。ミスした落胆とアプローチで寄せなくてはというプレッシャーとを抱えて歩いて行くことになります。気持ちが不健康です。

画像: 我々アマチュアゴルファーには14本もいらないのかも

我々アマチュアゴルファーには14本もいらないのかも

いまは七、五、三番アイアンを抜いていますから八番を使います。届かなくて当たり前です。六番だとオーバーします。マッチプレーの目の前の相手のように七番がないのだからこれで当然だ、ミスじゃない、と気持ちが健康的です。七番を使ったアイツだってピタリじゃないじゃないか。よーし、寄せてやろうじゃないかと意欲的に歩けます。

プロを見ていても、成績のいい人は結局、アプローチとパッティングのいい人ではありませんか。フルセットのジャスト主義はしくじるとマイナス志向になり、アバウト主義はしくじってもプラス志向になります。たまにですが、六番アイアンを短く持ってピタリと七番の距離を打てたときの、鼻腔のヒクヒク感はたまりません。

というわけで、バッグを軽くしたら頭まで軽くなりました。オフィシャル・ハンディキャップは年間に小数点一桁の範囲で上下するだけでいまのところ保たれています。

道具というものは本来が多機能なものです。シンプルなものほど多機能です。使いこなしでいろいろに使えます。クラブは大は小を兼ねます。本数に関しては逆に道具と頭の使いこなしで少は多を補います。モノにこだわるということは、あれもこれもとたくさんを持つことではありません。

九本に慣れっこになると、人様の重たそうなフルセットを見て、ご苦労なこったと思います。大きなお世話になりますから、その先は黙っていますけれど。

神津善行さんのゴルフエッセイのある一編に大笑いしました。倉庫で古いゴルフセットに出会って思い出します。それは最初に買ったフルセットです。買って帰って来たとき、ゴルフをなさらないお母上に「なんで同じ物をこんなに何本も買ってきたの」と叱られたそうです。

「脱俗のゴルフ 続・ゴルファーのスピリット」(ゴルフダイジェスト新書)より。

撮影/坂井秀樹

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