最近のレッスンのキーワードとして用いられる「地面反力」。これがなぜ飛ばしに有効なのか、スポーツ・バイオメカニクスの世界的権威、ヤン・フー・クォン教授によれば、筋肉などによって生み出される「内力」に加え、外部からの「外力」も使えるからだという。クォン教授と吉田洋一郎プロの共著「驚異の反力打法~飛ばしたいならバイオメカ」より、「内力」と「外力」についてご紹介。

「内力」と「外力」はどう違うのか

「反力」を理解するためには、まず「内力」と「外力」についてイメージを膨らませる必要があります。「内力」と「外力」を理解するために、まず「系」という考え方を理解しましょう。「系」とは、物理学的宇宙において解析の対象として選ばれた部分のことで、解析の対象として考えている物体の境界となります。

たとえば、もしゴルファーの動きにだけ興味があるのであれば、ゴルファーの体を「系」と考えます。一方で、もしゴルファーとクラブ、まとめて興味がある場合は「ゴルファー・クラブ系」として考えます。

したがって、「系」に対して「内」と「外」という言葉が使われています。もしゴルファーの体が「系」として選択されている場合は、クラブは外部の物体であり、クラブから手に加わる力は「外力」となります。

一方で、「ゴルファー・クラブ系」においては、クラブは「系」の一部であるため、手とクラブの間で働く力は「内力」となります。つまり、「系」は観察者の解析の意図によって変わるのです。

「系」の部分間で加わる力は「内力」で、「系」に対して外部の物体から加えられる力は「外力」となります。ゴルフにおいて体を「系」と考えた場合は、筋力などによって自分の内側から生み出される力は「内力」と考えられます。

画像: スウィングスピードを高めるために必要な「内力」は、筋力や手首のコック・アンコックといった関節の動きがメインになる。これらを磨くには、膨大なトレーニングや練習量が必要になる(写真は2018年のWGCブリヂストン招待)

スウィングスピードを高めるために必要な「内力」は、筋力や手首のコック・アンコックといった関節の動きがメインになる。これらを磨くには、膨大なトレーニングや練習量が必要になる(写真は2018年のWGCブリヂストン招待)

キャスターつきの椅子に座った状態で目の前の壁を押すと、椅子は後ろに下がっていきます。これを例にすれば、壁を押す腕力が「内力」で、押した壁から押し返される力が「外力」ということになります。ゴルフスウィングにおいては、「重力」や「遠心力」、そして「地面反力」が「外力」の代表的なものと言えるでしょう。

「内力」は体のある部分を、他の部分を犠牲に(減速)することによって加速することはできますが、全身を加速することはできないので、ゴルフスウィングでクラブヘッドのスピードを上げるためには、ただ「内力」に頼るだけでなく、「外力」をうまく利用することが重要になります。

たとえば、通常の地面の上でボールを投げる場合と、氷上で投げる場合を比較してみましょう。氷上で投げる動作を行うと、足に対して氷から加えられる「外力」は、摩擦が不十分なため、あまり大きくならず、足は滑ってしまいます。

一方で、通常の地面では、十分な摩擦が存在するため、大きな「外力」を体に与えることが可能となります。どちらの場合も「筋」は「内力」を生成していますが、地面でボールを投げた方が動作中に大きな地面からの「外力」を利用することができるので、ボールのスピードは速くなります。

「筋力」+「反力」が飛距離アップの方程式

「地面反力」は体の回転運動を生じ(加速)させるうえで重要な役割を果たしています。

ゴルフスウィングは正面から(前額面で)見ると、体の周りをクラブが「身体重心」を中心に回転しています。しかしスウィング中は、姿勢や体の向きが変化し続けていきますので、実際の幾何学的な回転の中心をピンポイントで示すことは難しいのです。

「地面反力」が体の動きに及ぼす全体的な影響について考える場合は、「身体重心」を体とクラブの回転運動における回転の中心として考えます。ここで、上向きに働く「地面反力」が、体の回転運動を加速して、ヘッドスピードを加速するうえで重要な役割を果たします。

具体的には、ダウンスウィングからインパクトにかけて、回転軸=体の重心よりも左側(正面から見て右側、重心よりも目標寄り)に、「地面反力」による上向きの力を加えるのです。回転する物体の端を押して、その回転を後押しするイメージです。これによって回転運動は加速され、ヘッドスピードが上がって飛距離が伸びるのです。

画像: ジャスティン・トーマスをはじめ、プロたちは内力だけでなく外力(地面反力)も取り入れてヘッドスピードを上げるため(写真は2018年のWGCブリヂストン招待)

ジャスティン・トーマスをはじめ、プロたちは内力だけでなく外力(地面反力)も取り入れてヘッドスピードを上げるため(写真は2018年のWGCブリヂストン招待)

ゴルファーは「筋」の力(内力)を使って、自分の体を意識的に動かそうとしますが、「筋」の力だけでは大きなヘッドスピードを生み出すことはできません。「筋」の力に伴って大きな「地面反力」が働いたときにだけ、ヘッドスピードは最大になります。これは、「内力」だけでは全身を加速することができないからです。「内力」によって体のある部分が加速されると、体の他の部分は減速されてしまうのです。

「外力」が働けば、より大きな加速を得ることができ、しかも減速を抑えることもできます。スウィングの回転運動は、自分の筋力=「内力」がメインエンジンになりますが、それには限界があります。「内力」による回転に地面からの反力=「外力」を使うことでプラスアルファの力を生み出し、回転を加速し、ヘッドスピードをアップさせるのです。

「驚異の反力打法~飛ばしたいならバイオメカ」(ゴルフダイジェスト社)より

撮影/姉崎正

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