米メディア「Golf.com」の伝えるところによれば、アメリカでは今、選手たちのパフォーマンスを測る新たな指標の研究が進んでいるという。それは「プレッシャー下での実力」。いわば、選手のメンタル力、集中力、勝負強さなどを指標化しようというのだ。もしそれが実現した場合、ゴルフの世界はまた変化するのか? 

マーク・ブローディという人物をご存知だろうか。コロンビア大学ビジネススクール教授で、従来のドライバー飛距離、パーオン率、パット数という指標よりも、より選手のパフォーマンスを可視化できる「ストローク・ゲインド」という指標を考え出した人物だ。

ストローク・ゲインドとは、たとえばティショットやグリーンを狙うショット、グリーン周りにパッティングといったそれぞれのストロークのスコアに対する貢献度を算出する指標。

たとえば、1ラウンド平均パット数は少なければ少ないほうがいいに決まっているが、パーオンした場合とパーオンを逃してアプローチで寄せた場合では、後者のほうが当然パット数は減る。ゆえに、1ラウンドの平均パット数は、それ単独ではパットの巧拙の指標としては不十分。ストローク・ゲインドの場合、パットのパフォーマンスだけを純粋に評価できるというわけだ。

そして今、ブローディが新たに生み出そうとしているのがプレッシャー下でのストローク・ゲインドという新たな指標というわけだ。

Golf.comの記事の中で“主役”になっているのがジョーダン・スピース。2016年のマスターズ、スピースは10番、11番ホールで連続ボギーを打つと、12番のパー3で信じられないことに2度池に入れ、優勝争いから一気に脱落している。このようなことがなぜ起こるのかを知るために、プレッシャー下でのパフォーマンスの指標が必要だというわけだ。

画像: 2016年のマスターズ12番ホールで起きたスピースの2連続池ポチャ。極度のプレッシャー下ではプロでもこういったミスが起きてしまう(写真は2016年のマスターズ 撮影/姉崎正)

2016年のマスターズ12番ホールで起きたスピースの2連続池ポチャ。極度のプレッシャー下ではプロでもこういったミスが起きてしまう(写真は2016年のマスターズ 撮影/姉崎正)

自身もラウンドレッスンの際、受講者のストローク・ゲインドを算出するというゴルフスウィングコンサルタントの吉田洋一郎はこの新しい試みをこう評価する。

「非常に面白い試みだと思います。プロの世界でいえば予選を通るかどうかのプレッシャーと優勝争いのプレッシャーは異なりますし、たとえば賞金シードがかかっているとか年間王者が見えるとか、立場が違えば感じるプレッシャーも異なるので計測自体は難しいと思いますが、マーク・ブローディのことだから、きっとなにかいい方法を見つけてくれるんでしょう」(吉田、以下同)

では、実際にプレッシャー下での選手たちのパフォーマンスが可視化された場合、それはゴルフ界にどんな影響を及ぼすのだろうか。

「たとえば私は生徒さんのラウンドを見ながらストローク・ゲインドの数値を計算するのですが、私が客観的に見たのとデータでは、異なる結果が生じます。私が『この生徒さん、今日はパットがいいな』と思っていても、データ上は実はよくなかったりする。これがパフォーマンスを可視化する良さで、数字が出るからこそ、対策をすることができるんです」

つまり、今まで可視化されてこなかった「勝負強さ」あるいは「メンタルの弱さ」が統計的データとして可視化されることで、メンタルトレーニングや、米国で一般的になりつつあるパフォーマンスコーチングによってそれを克服することも可能となってくるというわけだ。

画像: 勝負強さといえばタイガー・ウッズ。トリプルグランドスラム(4大メジャーを3回ずつ勝利)がかかった全米オープンのプレーオフを制した時はガッツポーズも飛び出た(写真は2008年の全米オープン 撮影/岩井基剛)

勝負強さといえばタイガー・ウッズ。トリプルグランドスラム(4大メジャーを3回ずつ勝利)がかかった全米オープンのプレーオフを制した時はガッツポーズも飛び出た(写真は2008年の全米オープン 撮影/岩井基剛)

「それに、テレビ中継も変わると思いますよ。何人かで優勝争いをしている最中に、『この選手はプレッシャーにめっぽう強い』なんていうデータが出てきたら、面白いと思います」

吉田いわく、プレッシャーがない状況とプレッシャーがかかっている状況では、ゴルフというスポーツは「まったく別物」になる。それに対策を打つことができるのは、アマチュアゴルファーにとってもメリットになるだろう。

海の向こうで研究が進むプレッシャー下でのパフォーマンス指標。それが完成し、アマチュアゴルファーにも有効だとなれば、「ボギーでもベストスコア更新」という18番ホールで大叩き、といったゴルファーなら誰もが一度は経験するであろう悲しい体験が少しは減る……かもしれない。

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