欧州ツアーと南アフリカツアーが共催する「南アフリカオープン」でルイ・ウーストハイゼンが3年ぶりの勝利を挙げた。復活優勝までの苦悩と軌跡を、海外取材豊富な元ゴルフ誌編集長が語る。

1903年に第1回大会が開催され、南アフリカ最古のトーナメントと言われるナショナルオープン「南アフリカオープン」で、ルイ・ウーストハイゼンが今大会初優勝。通算9勝目を遂げた。2016年ISPSハンダ・スーパー6以来、約3年ぶりの勝利。ホールアウト後のインタビューを受けている最中、思わず歓喜の涙を流したが、いつも冷静で淡々とプレーする彼には珍しくエモーショナルな瞬間だった。

2010年、セントアンドリュースで開催された全英オープンで初出場・初優勝を飾り、彗星の如くゴルフ界に現れたウーストハイゼン。178センチと世界のトッププロの中では比較的小柄だが、太い腕っぷしから放たれる強く真っすぐな弾道は世界のトッププロたちからも賞賛され、世界ランク3位のダスティン・ジョンソンもそのスウィングの美しさ、リズムの良さを認めるほど。すきっ歯で、まるでアメリカのアニメ映画「シュレック」の主人公のような風貌であるが、アダム・スコットに次ぎ「美しいスイングの持ち主」「ベストスウィンガー」であると評価が高い。

画像: PGAツアーを中心に活躍する南アフリカ出身選手、ルイ・ウーストハイゼン(写真は2018年のマスターズ 撮影/姉崎正)

PGAツアーを中心に活躍する南アフリカ出身選手、ルイ・ウーストハイゼン(写真は2018年のマスターズ 撮影/姉崎正)

そんな彼は、2010年の全英オープン優勝を皮切りに、2011年全米オープン9位、2012年マスターズ2位(プレーオフ)、2015年全米オープン、全英オープン2位、2017年全米プロ2位など、メジャーの大舞台で活躍が目立つようになった。しかも、アメリカVS世界選抜のゴルフの祭典・プレジデンツカップの常連で、2013年以来毎回出場し、チームのポイントゲッターとして活躍している(残念ながらチーム優勝は98年以来、1度もない)。

だが、2016年欧州ツアーのISPSハンダ・スーパー6以来、彼は勝利に見放されていた。今年の全米プロでは、背中痛のため棄権。あれだけ安定感のあったウーストハイゼンが、世界の表舞台で活躍できなくなっていた理由は背中の痛みにあったのだ。

「ずっと怪我に悩まされていたが、そういう時も家族や友達が励ましてくれた。今日は(勝って)とても特別な日になるか、ショックで立ち直れない日になるかのどちらかになるとわかっていたけど、もし勝てば全英オープンと南アフリカオープンの両方を勝った数少ない選手の一人になれる。こうして勝てて、両方に勝った選手として名を刻むことができてとても光栄だ。完璧だよ!」

全英オープンで優勝した時も涙はなかったように記憶しているが、しばらく勝ちに見放され、怪我に悩まされて、さすがのウーストハイゼンも「このまま勝てないのだろうか?」と自信を失うこともあったに違いない。優勝直後のインタビューでは珍しく涙を流し、言葉に詰まる瞬間もあった。自国開催のナショナルオープンで、地元のゴルフファンや友人に見守られて優勝できたことは、来年の活躍に向けて最大の薬になったに違いない。

ちなみに、ここ最近、南ア勢の活躍があまり芳しくない。一時はプレジデンツカップの世界選抜メンバー12人のうち5人が南アの選手ということもあったゴルフ強国(*注釈参照)だが、来年のプレジデンツカップの世界選抜メンバーの現在のスタンディングを見てみても、南アフリカオープンで優勝したことで一気に順位を挙げたウーストハイゼンが4位に入っているほか、日本ツアーで活躍しているショーン・ノリスが6位につけているのみにとどまっている。過去2大会を共に戦ってきたブランデン・グレース、シャール・シュワーツェルらは上位10名の中に名前はない。今回のウーストハイゼンの復活優勝に触発されて、再びシュワーツェル、グレースら実力者たちが「よし、自分も!」という気持ちで試合に挑めるかどうか。

画像: マスターズ優勝経験のあるシャール・シュワーツェル(写真右)もここ最近勢いがない(写真は2011年のマスターズ 撮影/姉崎正)

マスターズ優勝経験のあるシャール・シュワーツェル(写真右)もここ最近勢いがない(写真は2011年のマスターズ 撮影/姉崎正)

来年の12月には、南アのボスであり、ジュニア時代から世話になっているアーニー・エルスがキャプテンを務めるプレジデンツカップが、98年大会で唯一世界選抜チームが優勝を遂げたロイヤルメルボルンで開催される。主将エルスのために優勝カップを20年ぶりに何が何でも奪還するには、エルスへの忠誠心が強い弟子たちの出場が不可欠だ。

(*アーニー・エルス、ブランデン・グレース、ルイ・ウーストハイゼン、シャール・シュワーツェル、リチャード・スターンの5人。2013年大会にて)

最後に余談になるが、南アのゴルフメディアに関するこぼれ話。

2004年シネコックヒルズで行われた全米オープンで、南アのレティーフ・グーセンが優勝。ほか、南ア勢では9位タイにアーニー・エルス、13位タイにティム・クラークが入賞した。連日、エルスやグーセンら優勝争いに加わる南ア勢の囲み取材がホールアウト後に行われていたが、ある米国人記者が次のような質問をした。

「もし南アの選手が全米オープンに優勝したら、自国でも大きくニュースで取り上げられるのか?」

それに対して苦笑いを浮かべながら答えていたエルスの言葉を今でも思い出す。

「これだけ記者やカメラマンたちがいても、南アからきてるメディアは一人もいないんだよ(苦笑)。推して知るべしだろうね」

一方日本人メディアは、たった1人か2人の選手の出場でも、30人近くの報道陣が集まる。南アのゴルフメディア事情とは対照的で、思わずこのエルスの言葉に笑ってしまった。たしかに海外ゴルフ取材歴20年の私でも、海外メジャー、PGAツアーの試合で南アの記者やカメラマンに会ったことがない。きっとサッカーやラグビーなどのスポーツが盛んな国なので、スポーツ記者もそれらの取材に人材が取られているのだろうが、ゲーリー・プレーヤーを始め、メジャーで勝てる優秀なプロゴルファーをあれだけ輩出しているにも関わらず、一人としてゴルフの取材に来ている南アメディアを見ないのは不思議な感覚である。

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