ゴルフ場のランチというとプレーフィーに含まれているものもあれば、追加料金を支払うメニューもある。マナー研究家・鈴木康之はいつからどうして今日のように過食のゴルフになってしまったのでしょうかと話す。自身の著書「脱俗のゴルフ」からエピソードをご紹介。

美食と満腹はゴルフに似合わない

我孫子GCが開場したのが昭和五年。英国でゴルフを覚えてきた朝日新聞の大記者、 杉村楚人冠(そじんかん)が町長にゴルフ場建設をすすめたのがきっかけだそうです。手賀沼の自然を愛した我孫子の住人で、随筆集に「湖畔吟」があります。

そこに「たうもろこし」という一編があります。当時、停車場前の本郷屋という店がゴルフ倶楽部の食堂を引き受けていました。ある日そこの主が「こんどの日曜、お昼ご飯に玉蜀黍(たうもろこし)を出したら、失礼に当たるでしょうか」と顔を窺います。楚人冠は「それはみんなに喜ばれるだろうよ」と答えました。

この土地の人たちは人が良過ぎる、そのことを知っていた楚人冠は、些か懸念するところがあり「金は必ず取るのだぞ」と言い添えました。その日曜日にクラブへは行けず、後日行って本郷屋に尋ねると、案の定「玉蜀黍は非常な好評で、皆さんがとても喜んでくださいました」。「ところで、金は取ったろうな」と確かめると、首を横に振ります。 楚人冠が「なぜ取らぬ」と叱ると、これまた案の定です、「あんなものは畑にいくらでもあるもの。お金は戴けません」。

その主と、その良き時代に頭が下がります。その頃のゴルフ場の食堂には華美がなく、 メニューもシンプルで、リーズナブルなものであったに違いありません。私たちのゴルフはいつからどうして今日のように過食のゴルフになってしまったのでしょうか。

たった九ホール歩いただけで(乗用カートかも)「飯にしよう」はないでしょう。それもフランス料理気取りの高額ランチや、洗面器ほどの丼から具がはみ出す超高カロリー 超高料金のラーメンに至っては、出すほうにもオーダーするほうにも、まだ懲りないのですか、と呆れます。

画像: 9ホール歩いた後の昼食は、意外とおにぎりくらいで十分なのかも(撮影/村上悦子)

9ホール歩いた後の昼食は、意外とおにぎりくらいで十分なのかも(撮影/村上悦子)

後半の第一ショットにミスが多いのはお腹が膨れるから当然だ、とは多くの専門家が指摘するところです。来たときより体重が増えて帰るようなゴルフは困ります。

千葉の新君津ベルグリーンCC(旧グリーンラブ)では、おにぎりを注文したら、それからおばちゃんがおひつの熱いご飯を握り、ぱりぱりの海苔で巻いてくれました。これ二個にお味噌汁がついて五百円也。おにぎりが大きめなので、うちは夫婦で一個ずつ。一人二五〇円也になります。いまは厚焼き玉子やシラスおろしがついて六三〇円になっ ているようです。

トレーの上げ下げはプレー同様セルフですから、ここの食堂にはウエイターもウエイトレスもいません。シャンデリアもカーペットもテーブルクロスもありませんが、これら一式を揃えると、もう二つ三つ小皿と小鉢がのってきて千円になるでしょう。

さて、玉蜀黍の話に戻ります。後日、事務所のスタッフが楚人冠に言いました、「美味しかったです。お代わりがほしかったけれど、でも遠慮しました。お金を取ってくれないので」

人々が控えめに控えめに、寡欲の美学を持って生きていた時代でした。「昔は良かった」 と偲んでいるだけでは駄目。そろそろ私たちも考えませんと。

「脱俗のゴルフ 続・ゴルファーのスピリット」(ゴルフダイジェスト新書)より。

This article is a sponsored article by
''.