最近はキャディが帯同しないセルフプレーがスタンダードになりつつあるが、マナー研究家・鈴木康之はキャディにやってもらっていることのほとんどは自分でできることだという。自身の著書「脱俗のゴルフ」からある日のゴルフのエピソードをご紹介。

体が動かなくなるまでは、キャディさんに頼らないゴルフをしよう

朝あくびしながらトイレに入ろうとすると、背後から妻が大声で「お早うございます。今日一日お楽しみいただくにあたりお願いがございます」。びっくりして振り向くと、なんとキャディの格好をしています。「トイレは後続の家族を待たせないようスロープレーにお気をつけください。ちゃんと流して出てきてください」

世も末だと気を失いかかったところで悪い夢から覚めました。

前日のゴルフの悪影響です。名のあるコースでした。前の組が出ていくと、のどかな雰囲気を破っていきなりキャディが「お早うございます。今日一日......」の儀式を始めたではありませんか。「前の組と一ホール空けないでください。プレーを急ぐ時はバンカ ー均しはキャディにやらせてください。スコアカードはグリーンを出てからつけてください。そうしてハーフ二時間十五分で回ってください」ですと。マニュアル通りとはいえ、相手が悪い。

私たちの組の四人は前がいなければ二時間かからない早足揃い。その間にディポット跡もピッチマークも人の分まで直すという連中です。聞かされながら眉間に皺を寄せる者、笑い出すのをこらえる者。

画像: クラブを拭いてもらったり、持ってきてもらったり、ほとんどは自分でやればすむことだ

クラブを拭いてもらったり、持ってきてもらったり、ほとんどは自分でやればすむことだ

四人は阿吽の呼吸、キャディにお応えすべくいつもよりちょっとペースを上げました。ふだんキャディなしでやることの多い四人です。ボールを拭きに来ようとすればご無用と手で制し、ボールは置いたままで連続パッティング。バンカー均しは一度もやらせず、旗竿さえ二、三ホール以外持たせずに次のティへ向かわせる。キャディにカート運転しか仕事をさせないのですから、悪い客です。

昼過ぎのスタート前、キャディのK子さんは笑いながら頭を下げました。「遅いお客さんについてキャディマスターに叱られるのも辛いですけど、お客さんたちのような人たちにスタート前にあんな失礼なことを言ってしまって辛いです。すみません」

ゴルフは運動のためです。運動とは文字通り動くこと。甲斐甲斐しく心身を働かせ、できるだけ自分でやると、ふつうキャディにやってもらっていることのほとんどは省けることだと気づきます。

話をしてみれば、K子さんはスタート前のマニュアルにひそかに疑問を持ち、お客によってはたいへん失礼なことになりはしないかと心配を抱えつつやっている人でした。私たちは午後のハーフはペースをゆるめ、そのぶん午前中はマニュアルの陰に隠されていたK子さんの気さくな人柄とじつに愉快な会話術を交えて、笑い疲れるほど。一組五人のラウンドを楽しみました。

甲斐甲斐しく動けない体になり、歳になったら、キャディさんに甲斐甲斐しく面倒をみてもらいましょう。それまではキャディさんの世話にならないゴルフでせいぜい体を鍛えましょう。

自分でやればすむことのために、三千円、四千円というフィーはもったいない。キャディをつけるつけないは選択できるといいのですが。工夫できないものでしょうか。

「脱俗のゴルフ 続・ゴルファーのスピリット」(ゴルフダイジェスト新書)より。

撮影/姉崎正

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