ゴルファーたるもの、身だしなみにまで気を使いたいもの。ゴルフマナー研究家・鈴木康之が著書『脱俗のゴルフ』に記した、日本オープン6勝、日本プロ4勝を挙げた伝説の名手・宮本留吉の“洒落者の流儀”をご紹介。

ゴルフは「普段着でできるスポーツ」なのだ

昭和の初めの十五年間、最も輝かしい戦績を残したという点でプロのいちばんの先達は宮本留吉プロでしょう。

その認識と責任感がご本人の中にも強くあったようです。アマチュアあってのプロという考えに徹していて、それを口にするため、宮本プロを煙たがる天狗プロが少なくなかったといいます。

日本オープン六勝、日本プロ四勝の戦績や、オーソドックスにして説得力豊かな技術論と同様に、宮本プロが語り、自ら示したゴルファーの心構えの部分を、もっと聞いておく必要があるように思います。幸い私の親しい友人、藤本元明さんは、宮本プロのレッスンを受け、クラブも作ってもらっています。『留さんの実戦ゴルフ』『グリーンから百ヤード』はいまでも目から鱗のレッスン書です。藤本さんはその余白にレッスンで耳に入れた宮本プロの要を得た言葉を、ブルーブラックの万年筆で丹念にぎっしり書き留めています。

宮本プロはおしゃれでした。ニッカーポッカーにハンチング、ネクタイをしてフロントホックのベストというのがお気に入り。晩年は眉毛が薄くなったため、眉墨を引いていたそうです。人の目を気遣ってのおしゃれでしょう。

画像: マナー研究家はおしゃれの代表として宮本プロを挙げた

マナー研究家はおしゃれの代表として宮本プロを挙げた

服装のエチケット六箇条も書き留められています。『一、赤セーター、赤チョッキは還暦になるまで遠慮すること』若いうちはその若さだけで十分動きが目立つのだから、という意味です。

『二、手拭い、ハンカチ類を腰などにぶら下げないこと』
『三、シャツは必ず襟をつけたものを』
『四、クラブハウスでは上衣、ネクタイ着用を義務づけているプライベート倶楽部があるので、紳士の身だしなみを』
『五、ブラウスはズボンの外にヒラヒラさせないこと。きちんと中に入れること』
四のような古風な作法が残っている時代から五のような裾出しゴルファーがいたとは驚きです。

『六、練習をする時から服装、身だしなみに気をつけること。良い習慣、センスも練習する必要がある』

ある時「藤本さんはたいへん熱心だけど、金と暇はあるかな」と訊ねられました。若い月給取り、答は簡単です。「だったらシングルになるのは諦めて、楽しむゴルフをだいじにしなさい」

会社勤めはとうにリタイア。暇はできたと思える昨今ですが、留さんの教えどおりハンディはシングル直前で足踏み。ゴルフ以外にも趣味が多くて、未だ暇がないのです。

藤本さんの楽しむゴルフは服装に表われています。ゴルフウェアなるものを持っていません。シャツもパンツもセーターも普段着です。「年金生活者にはゴルフウエアを買う余裕はないんでね」は表向き。野球やサッカーなどと違って、ゴルフは普段着でできるスポーツなのだ、の実践です。

普段着のラウンド姿がカッコいい。衣は着る人次第なのでしょうが、留さんの教え『センスも練習』のたまものなのかもしれません。

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