マナー研究家・鈴木康之は、日本にもスコットランドに多い「9ホールコース」がもっとあっていいはずという。自身の著書「脱俗のゴルフ」からエピソードを紹介。

おらが村さは 九ホールで十分

スコットランドでは九ホールのコースによく出くわします。マッセルバラのオールドリンクスのようなゴルフ史の中の名門コースもあり、プレー代を袋に入れて投函するだけの無人フロントの田舎コースもあります。試しにゴルフマップの定番、カートグラフィック社の地図で数えてみました。載っている全四五六コース中九ホールが一三七もありました(編注:刊行当時)。

たまたま一九六一年の高畑誠一さんの著書を読んでいたら、当時の米国の数字が載っていました。十八ホールコースが二、六二六であるのに対して九ホールコースがなんと三、三八五もあり、しかもその約半数がメンバーシップとあって驚かされました。

日本はどうでしょう。全部で約二、五〇〇コースと言われていますが、ゴルフ場ガイドで探してみたら、九ホールコースは九十しかありませんでした。少な過ぎます。ゴルフ場適正地の少ない日本には九ホールコースがもっと数多くあっていいはずです。

しかし数えながら、東京や大阪周辺には比較的少なく、各地方に点在している印象が強く、いささか嬉しい気持ちにもなりました。

私には「おらが村さの九ホールコース」という理想像があります。ゴルフが日常もっと近場で、もっと手軽に安く、もっと頻繁に、もっといい加減に楽しめたら理想的です。いい加減にという意味は、前々から日を決めて、丸一日潰すというゴルフばかりではなく、朝の散歩代わりに四ホール、ひょいと腰を上げて夕飯前に子どもや孫と三ホール、という日常化したゴルフが定着すると、ゴルフする者はもっと幸せになります。時代はそういうニーズが増えていく趨勢にあります。

わが国では十八ホールでないと売り物にならないため、相当無理して造成した十八ホールコースが沢山あります。当然のことながら経営的にも辛そうです。いっそのこと、トリッキーでナンセンスな十八ホールを、人気呼ぶこと間違いなしの堂々たる九ホールに改造、余った土地は別に生かすなり、宅地にするなり、という計画はどうでしょう。

画像: 雲仙ゴルフ場のようにツーグリーンで攻め方が変わると同じホールでも違う景色にみえる

雲仙ゴルフ場のようにツーグリーンで攻め方が変わると同じホールでも違う景色にみえる

九ホールでも繰り返せば十八ホールです。羽幌オロロンCCのように同じホールでも違うティから三〇ヤード以上も長さを変え、日本海の風で違うホールになるように工夫したコースもあります。雲仙ゴルフ場のようにツーグリーンで攻め方が変わるところも少なくありません。根室GCでは朝露たっぷりの気候にも恵まれ、コース管理を三人で賄っていると言っていました。

日常のゴルフには噴水池もビーチバンカーも華美なクラブハウスもいりません。手軽さと低廉がほしいのです。

マッセルバラのオールドリンクスは十四世紀にプレーの記録があるコースで「世界最古のプレーイングゴルフコース」と誇らしげです。さらには一八七〇年に七ホールから九ホールになった説明文の中に、私にはこれもまた誇らしげな一言に思える「全九ホール」という表現があります。「十分な九ホール」とも読み取れます。

英米のアマチュアゴルファーにとって、九ホールコースは半端なコースではまったくないのです。

「脱俗のゴルフ 続・ゴルファーのスピリット」(ゴルフダイジェスト新書)より。

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