日本にはリンクス地帯はないが、リンクスに近い地帯があるというのはマナー研究家の鈴木康之。自身の著書「脱俗のゴルフ」からエピソードを紹介。

ゴルフは難しい 難しいからゲーム

ジ・オープン開催コースの一つ、ロイヤル・バークデールを友人のチャールスと訪ねました。彼の紹介が過大だったのでしょう、セクレタリーのマイク・ギリアートが自ら同伴してもてなしてくれました。

せっかくの機会なのに私のヒヤリングはゴルフのハンディで言えば三〇台のレベル。マイクの解説を半分聞き取れたかどうかというもったいなさ。

ハウスに近い十番ホールのティから高齢メンバーのビルが加わりました。下肢が衰えて思うように飛ばないようでしたが、ダフらず曲げずで、とんとん進みました。

あらかじめ断わりがあり、いつも先にパットをし、続けてやってカップインし、グリップエンドの吸盤で拾い上げ、拾うとグリーンを下り、手引きカートを引いて先に次へ向かうというやり方でした。

いいショットをした後で、歳を聞きました。八十半ばかなと見受けられていたのですが、返ってきたのは七十六でした。まだ若いじゃないか。

あるティでの待ち時間に、ビルが背後から「日本にはいくつコースがあるか」と聞いてきました。私が「トゥ・タウザン...」と答え始めると、チャールスが「違う。ネイチャーコースがいくつあるかと聞いているんだ」と助けてくれました。

ネイチャーコース? 私が戸惑っていると「リンクスのことさ」と。

日本にはお国のようなリンクス地帯はない、そのかわり、シーサイドではなく、リバーサイドにリンクスに近い地帯がある、と答えましたが、不用意なことに河川敷の英語が出てこなかったのです。

画像: 河川敷コースこそ、日本の「ネイチャーコース」と言えるかも

河川敷コースこそ、日本の「ネイチャーコース」と言えるかも

帰国して和英を調べたところ「洪水用平地」のような英語になってしまいます。そうには違いないけど、嬉しい呼び方ではない。リンクスのことなら、英語のことならこの人だと、永井淳(編注:翻訳家、2009年没)さんに尋ねました。「リバーベッド(河床)リンクスってのはどうかな」と教えてくれました。

リンクスコース=ネイチャーコースという等式は言われるまでもない正解です。しかもネイチャーコースとは嬉しさがこみ上げてくるではありませんか。

このあとビルは並んで手引きカートを引きながら、「パークランドコースよりリンクスコースのほうがわたしは好きである。君と同じように。ゴルフはリンクスで遊ぶために考えられたものである。リンクスにはさまざまな困難がある。ゴルフは元来難しいゲー ムである。難しいからゲームなのである」というようなことをよく聞き取れないしわがれ声で話してくれました。

「名著『リンクスランドへ』といい、『王国のゴルフ』といい、このバークデールといい、 リンクスにはゴルファーの格好をした哲学者がそこいらじゅうにいる。

十四番を終えると、ビルは手を振ってまた近づいたクラブハウスへ戻って行きました。マイクが解説してくれました、「ビルはたいそう大きな病気をした。退院してから毎日来て、はじめは練習グリーンだけだったけれど、いまはハウスに近い十番から十四番までを回っている。この五ホールがビルのロイヤル・バークデールなんだ」と。

「脱俗のゴルフ 続・ゴルファーのスピリット」(ゴルフダイジェスト新書)より。

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