「バルスパー選手権」の2連覇を達成したポール・ケーシー。同大会の前週に開催された「ザ・プレーヤーズ選手権」では予選落ちを喫したが、会場に残り黙々と練習していたという。そのワケとは?海外ツアー取材歴20年、現在も毎月海外ツアー取材に出向いているゴルフエディター・大泉英子がケーシーの素顔を語る。

予選落ちした会場に居残り、練習場の隅っこで黙々とボールを打った

いつも上位にはいるが、その割に優勝回数が少ないーーそのような選手の筆頭に挙げられるのが、ポール・ケーシーだろう。そんな彼が1年ぶりに優勝。昨年、9年ぶりに米ツアー優勝を果たした「バルスパー選手権」で2連覇である。

今大会は19年間続いているが、初めて連覇を果たしたのがケーシーだ。この優勝により、フェデックスカップランク4位、世界ランクでは11位に浮上。この週はキャディのポンチョにニックネームや自分のSNSのハンドルネームなどをつけることができたが、ディフェンディングチャンピオンが選んだのは「The Champ」。まさにその名の通り、再びチャンピオンになることができたのだった。

「去年とは全然違う感じだよ。2連覇を果たせてすごくいい気持ちだ。今までプロになって大会を連覇したことがなかったから、すごくやりたかったんだよね。今日はダスティン・ジョンソンとの最終組でのプレーだったけど、それも楽しみにしていた。世界ランク1位を相手に戦ってみたかったから。ファンたちが僕にもダスティンにも声援を送ってくれて楽しかったよ」

ケーシーはその前週、プレーヤーズ選手権で今年度2回目の予選落ちを喫していた。たいていプロたちは、予選落ちをするとコースを後にして自宅に帰るか、次の試合会場に向かうのが常だが、彼はプレーヤーズ選手権が開催されているTPCソーグラスに居残り、黙々と練習していたという。

画像: 大会初2連覇を果たしたポール・ケーシー(写真は2018年の全米プロゴルフ選手権 撮影/姉崎正)

大会初2連覇を果たしたポール・ケーシー(写真は2018年の全米プロゴルフ選手権 撮影/姉崎正)

「先週はひどいプレーぶりだった。だから予選落ちのあと、土・日に一生懸命練習に励んだ。TPCソーグラスでね。日曜日、ロリー(・マキロイ)はプレーヤーズ選手権に勝とうと練習場でウォーミングアップしていたけど、僕はできるだけ隠れるように端のほうで練習していたんだ。でも彼は遠くから『PC(Paul Caseyの略)が練習場の端っこで練習しているのは何で?』というような目つきで僕のほうを見ていた。寒くて雨が降っている中、予選通過もしていないのに練習していたのは僕一人だったからね。それだけ今週、いいプレーをしたかったからなんだ」

ケーシーによれば、TPCソーグラスは好きなコースなのだが、なぜかいつもうまくいかないという。リズムもおかしくなり、つい打ち急いでしまうため、いいショットが打てないのだそうだ。先月のAT&Tペブルビーチプロアマではミケルソンと優勝争いをし2位、今月初旬のWGCメキシコ選手権では3位タイに入賞するなど、決して調子は悪くはなかったが、ショットメーカーのケーシーでも相性の悪いコースはあるのだろう。

優勝争いを演じているマキロイがウォーミングアップする一方で、一人黙々と雨の中を練習していたケーシーにしてみたら、惨めな気持ちにもなったかもしれないが、バルスパーでの連覇に備えて虎視眈々とボールを打ち続けた彼の執念が、こうして優勝を呼び寄せたのかもしれない。

過去、ケーシーは世界で17勝を挙げているが、アメリカでの優勝は2009年シェル・ヒューストンオープンで初優勝を挙げた後は、なんと9年後の18年バルスパー選手権まで勝ち星がなかった。その間、ケガを患い、離婚もし、いろいろなことが彼の人生に起こったという。だが、最後の6〜7年には再婚し、子供も生まれて家族ができ、徐々に光を取り戻していった。そして試合に臨む心持ちも、3〜4年前よりももっとリラックスした状態で、自信を持ってプレーに臨むことができるようになったという。

また、ポール・ケーシーといえば、「ステディなプレー」が身上だが、それにこだわることもやめたそうだ。それまでは絶対に予選落ちしないタイガー・ウッズを見てきただけに、「予選落ちはよくないもの」と受け止めてきた。だが、今のツアーで活躍するロリー・マキロイやダスティン・ジョンソンらは予選落ちをしてもいいから、もっとアグレッシブに、というスタイルをとっていることに気づき、自分ももっとアグレッシブに攻めていいんだ、予選落ちをしてもいいから、もっと優勝がしたい、と思うようになった。

その結果、去年の米ツアー2勝目が生まれ、今回の2連覇が生まれた。ケーシー自身も「たぶん先週、予選落ちをしてよかったんだろうね」と優勝後に語っている。

41歳のケーシーは、プライベートでもプレースタイルでも変化を遂げ、進化し続けているが、一方で変わらないところもある。茶目っ気たっぷりで、サービス精神が旺盛な点だ。私はいつも、選手たちのバッグに目を光らせ、何か新しいプロトタイプは入っていないか? とチェックするのが常だが、彼は自分からクラブを取り出し、「ほら! 新しいクラブだよ! 写真に撮りなよ」といって持ってきてくれるのだ。

きちんと時間を割いて丁寧に説明してくれるケーシーは、私にとっては大事な取材要員の一人。彼もそれをよくわかっているので、私が何か彼に聞いたり、やってもらいたいことがあると、ニヤリと笑って「今日は何をしてほしいの?」と言ってきてくれるのがありがたい。時には「真剣に練習に集中しているから、話しかけるなオーラ」を出すこともあるが、長年に渡り、彼にはとても感謝している。

今年日本で開催されるPGAツアーにも参戦の意思を示しており、来日の際には「アキバカート(以前はマリオカートと呼ばれていた)」に乗ってみたいと無邪気にはしゃぐケーシーだが、彼の来日を楽しい思い出にすべく、私も何かしら恩返しができれば、と思う。

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