プロが使ういわゆるツアーボールとアマチュアゴルファーが使うディスタンス系ボールはなにが違うのか? プロたちがディスタンス系ボールを使わないのは何故なのか? ギアライター高梨祥明が考察する。

バラタからウレタンへ。スピンが入るカバーの系譜

プロが使うゴルフボールは、90年代前半までは合成ゴムの一種であるバラタをカバーに採用したもの(糸巻き構造)がスタンダードで、そのあと95年にタイトリストの『プロフェッショナル90/100』がウレタンアイオノマーカバー(糸巻き構造)で登場すると、バラタ同等のアプローチスピン性能とロングショットでの低スピン効果で飛距離も出ると話題沸騰。プロデビュー当時のタイガー・ウッズも『プロフェッショナル90』を使用、マスターズを初制覇すると一気に時代の寵児となっていった。

2000年のシーズン後半になると、タイトリスト『プロV1』の初代モデルがツアー供給され始め、ナイキに移籍したタイガー・ウッズもナイキ『ツアーアキュラシー』を使い始めたことから、プロ使用ボールの主流は、完全にウレタンカバー/ソリッド構造に。一斉を風靡したバラタカバー/糸巻き構造ボール時代は終焉を迎えたのだった。

画像: 同じウレタンカバーを採用しデータ上は同等のバックスピンがかかっているNEW プロV1(左)とNEW プロV1x(右)だが、打ってみるとたしかに感触的な違いを感じる

同じウレタンカバーを採用しデータ上は同等のバックスピンがかかっているNEW プロV1(左)とNEW プロV1x(右)だが、打ってみるとたしかに感触的な違いを感じる

プロ使用球というのは面白いもので、各時代、男子・女子・シニアに使用モデルに偏りはない。米ツアーの男子選手も日本の女子選手も全く同じように、例えばタイトリストなら『プロV1』、『プロV1x』のどちらか。

ブリヂストンなら『TOUR B X』か『TOUR B XS』。スリクソンなら『Z-STAR』か『Z-STAR XV』のどちらかから使用球を選んでいるのだ。しかし、男子選手と女子選手、またシニア選手ではヘッドスピードも違うと思うが、なぜ、同じボールでいいのだろうか? ボールフィッティングの専門家に聞いてみた。

グリーン周りのアプローチに、ヘッドスピードの差は出る!?

回答してくれたのは、タイトリスト本社でボールフィッティング担当し、世界各国でエディケーション活動も担当しているマイケル・リッチ氏だ。

「ゴルフボールの選択基準は人によって様々だと思いますが、タイトリストの場合は、まずグリーン周りで使いやすい、スピンコントロールできるボールであるか、ということを推奨ボールの第一条件にしています。なぜなら、よりよいスコアで上がるためには、アプローチでなるべくカップの近くへ寄せておくべきだと考えるからです。2メートルより1メートル、1メートルよりも30センチのほうが1パットで切り抜ける可能性が高くなるでしょう?」(リッチ氏)

たしかにアイアンのパーオン率は急に上げられない。パットも簡単に入るようにはならない。それなら、たとえグリーンに乗らなくても、カップ近くに寄せやすいボールを選んでおく。寄せワンが決まればもちろん、スコアがよくなるわけだ。

「では、ここで考えてみてください。50ヤード以内のアプローチで、男子と女子、またシニアでヘッドスピードの大きな違いが出ると思いますか? コントロールショットの範疇です。そこにパワーの差は生まれないのです。つまり、スピンコントロールでき、フィーリングがよく、寄せやすいゴルフボールというのは、性別や年齢を問わず変わらないものなのです」(リッチ氏)

アプローチショット程度のクラブスピードであれば、ボール内部のコアの違いによる変化もあまりないという。この領域で最も弾道結果に影響するのが、ボールのカバーだというのだ。

「『プロV1・プロV1x』は全く同じウレタンエラストマーカバーを採用していますので、計測されるアプローチスピンの量はほぼ同じです。しかし、コアも含めた硬さのバランスなどが違うため、アプローチでの打ち出しの高さ、打球音、パッティングでの繊細なタッチなど、フィーリング面での違いが出てきます。どちらがイメージ通りなのか、安心できるのか。数値では表れない小さな違いですが、それはプロゴルファーや上級者でなくても、どんなレベルのゴルファーでも、打ち比べれば判断できることなのです。もちろん、これがウレタンカバーではないモデルなら、もっと違いが鮮明になります。フィーリングだけでなく、データ的にも大きな違いが出てくるため、これらをゴチャ混ぜにしてラウンドしていたら、狙って寄せることは難しくなるでしょう」(リッチ氏)

画像: 「常に同じボールでプレーしていないと、アプローチスキルは上がらない。スコアアップしたいならまずボールを決めて!」とマイケル・リッチ氏


「常に同じボールでプレーしていないと、アプローチスキルは上がらない。スコアアップしたいならまずボールを決めて!」とマイケル・リッチ氏

筆者は実際にボールフィッティングを受けてみたが、『プロV1・プロV1x』を【1】50ヤードのアプローチ 【2】7番アイアンのフルショット 【3】ドライバーフルショット で比べた場合、最もボールによる違い(トラックマン計測データ)が出なかったのが、【4】ドライバーのフルショットだった。感触的にもどちらでも構わない印象だった。

一方、感覚的な違いを感じたのが【1】50ヤードのアプローチだった。計測データにそれほどの差はないが、ちょっとした高さや弾き感の違いが気になった。どちらが好き?と問われたので、ここでは『プロV1x』と答えた。

リッチ氏が「ここを見て」と計測データを示したのが、【2】7番アイアンのフルショットデータだった。【1】50ヤードのアプローチの結果で選んだ『プロV1x』では、3球平均8000回転/分以上のスピンがかかっていたので、風の影響も受けやすく飛距離もロスしているだろうとのことだった。これを『プロV1』にすると3球平均7200回転/分にスピンが落ちた。ボールを変えるだけで800回転/分の差が出たのだ。

「ミドルアイアンを安定させる上では、『プロV1』の方がオススメですが、アプローチのフィーリングを最重要視すれば『プロV1x』。判断はもちろんあなた次第ですが、私としては数ラウンド『プロV1』を使ってみることを推奨します。使い続けることでアプローチの感覚が合ってくるはずです」(リッチ氏)

ツアープロたちもほぼ同じようにして、グリーン周りでの結果を重視しながら、各ショットカテゴリーにおいてボール選びで改善できるポイントがあれば、それを加味しながら使用ボールを選んでいるという。

フィッティングを通じて気づくことは、グリーンに近づくほど、経験からくる“慣れ親しんだ”感触や飛び方、転がり方が顕著になってくるということだ。男子・女子・シニアで活躍するツアープレーヤー、そして上級アマチュアのほとんどは、バラタ、そして近年ではウレタンといったスピンの入りやすいカバーを採用したボールでアプローチスキルを磨いてきた。スピンをかけることで思い通りに寄せていると言っていいだろう。

最新ボールの開発には、必ず、このアプローチでの“慣れ親しんだ”感触や飛び方、転がり方を変えずに、という約束が付きまとう。ドライバーショットで飛ぶようになっても、アプローチ感が変わってしまうようなボールには、1打を争うプロは見向きもしてくれないのだ。

豪快な飛ばしに脚光が集まるプロツアーだが、今も昔もアプローチ・パターがスコアメイクの生命線であることは変わらない。ゴルフゲームの本質とは何かいうことを、ツアープロたちのボール選びが教えてくれる。

画像: クラブがインサイドから降りるバックスウィングの上げ方【レッスン放浪記・鈴木真一プロ編①】 youtu.be

クラブがインサイドから降りるバックスウィングの上げ方【レッスン放浪記・鈴木真一プロ編①】

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