2013年にプロ転向し、6年の時を経てウェルズファーゴ選手権でPGAツアー初優勝を果たしたマックス・ホーマ。彼の優勝までの軌跡を、PGAツアー海外ツアー取材歴20年、現在も毎月海外ツアー取材に出向いているゴルフエディター・大泉英子が語る。

「マスターズに出るのが夢だったが、現実になるとは思ってもみなかった」

過去、ローリー・マキロイ、リッキー・ファウラーなどPGAツアー初優勝者を4人輩出してきた「ウェルズファーゴ選手権」だが、今年新たにもう1人の初優勝者が加わった。マックス・ホーマだ。どんなPGAツアー通のゴルフファンも、「彼の名前くらいは聞いたことはあるが、どんな選手かは実際よくわからない」というのが正直なところではないだろうか? 

画像: ウェルズファーゴ選手権でPGAツアー初優勝を遂げたマックス・ホーマ(写真/Getty Images)

ウェルズファーゴ選手権でPGAツアー初優勝を遂げたマックス・ホーマ(写真/Getty Images)

彼はアマチュア時代、アメリカの大学ゴルフの頂点に位置し、世界屈指のエリートアマチュアの試合として知られる「NCAAディビジョンⅠ選手権」で個人優勝を遂げた経験を持つ。PGAツアーで活躍中のアン・ビョンフンとはチームメンバーだったそうだ。

彼は、その輝かしい勲章を引っさげて2013年にプロ転向したものの、鳴かず飛ばず。過去6年間で優勝したのはウェブドットコムツアー2勝のみで、PGAツアーには68回出場したうち、トップ10入りはわずか3回。昨年まではウェブドットコムツアーとPGAツアーを行き来する日々を送っていたが、この度ようやく彼のゴルフ史に、PGAツアー初優勝の文字が刻まれたのだった。

「夢のようだよ。シード権を取れる日が来るなんて思わなかったんだから。それがやっと実証されたんだ。家族にとっても、11月に結婚するフィアンセにとってもすばらしいことだ。いつもは言葉にするのは得意な方だけど、今日は何も言葉がない。安定した仕事が保証されているというのは素晴らしいことだね」

マスターズ直前の「バレロテキサスオープン」でツアー初優勝したコーリー・コナーズも同様のことを語っていたが、「出る試合が保証されていて、しかもどの試合に出るかを自分で選ぶことができる」というのはプロゴルファーにとっては、何事にも変えがたい幸せだ。

そして「ツアー優勝するプレッシャー」ではなく、「試合に出る権利を得るためのプレッシャー」から解放されたことにより、自分のリズムを作りやすく、試合で優勝するための準備をきちんと行うことができる余裕も生まれる。シード権のない選手は、マンデークオリファイトーナメントを受けて上位数名の中に残るか、他の選手の出場具合によって、自分のランキングまで出場権が降りてくるかどうかを待つという、他力本願なストレスのたまる環境にも耐えなければいけないからだ。

ホーマは今回の優勝で2020〜2021年シーズンまでのシード権を確保した上、来週、ベスページ・ブラックで開催される「全米プロ」、来年の「マスターズ」など、メジャーで戦う権利も得られた。その他、シード選手の中でも出場できる選手が限られる「メモリアルトーナメント」、「セントリー・トーナメント・オブ・チャンピオンズ」などにも出場できる。

過去、アマチュア時代に1度だけ全米オープンに出場したことはあるが、予選落ちに終わっている。「マスターズに出るのが夢だったが、そんなことが現実になるとは思ってもみなかった」と、今回の優勝がもたらしてくれた大きな特典を喜んだ。

2年前、年間獲得賞金200万だった男が1試合で1億5800万円を手にした

そんな彼も、今から2年前はゴルフ人生の中でも最大のピンチだったといってもいいかもしれない。PGAツアーで1年を通じてプレーできたものの、予選通過したのは17試合のうちたったの2試合。稼いだ賞金額はたった1万8008ドル(約200万円)である。彼は「トーナメント中に稼いだ賞金額よりも、月曜日のプロアマでもらうギャラの方が高かったと思うよ」と冗談交じりに記者に語っていたが、200万円など、飛行機代やホテル代、キャディへの報酬などを支払ってしまえばたった3〜4試合でなくなってしまうような額だ。

だがそんな中、さすがに彼も「ゴルフが嫌になった時期があった」という。しかし、どんな状況であれ両親から学んだ「絶対にあきらめない」「自分で苦難を克服する」のモットーを忘れなかった。そして自分の右腕に、「過酷」の文字を敢えてタトゥーで入れ、2年前の苦しかった時期に何度もこの「過酷」という文字を見ながら、困難を乗り切っていったのである。実際、彼をよく知る人たちからは、「逆境に強い」と言われているそうだ。

そんな「不屈不撓」の男が、ようやくプロ入り6年目にして初優勝。世界ランクも417位から102位にジャンプアップし、全メジャーやWGCイベントに出場できるトップ50入りも現実味を帯びてきた。そして、優勝賞金1億5800万円をゲット。1年間苦戦して、200万円しか稼げなかった2年前とはまさに天と地ほども違う。今季も16試合中、半分は予選落ちなので、決して安定しているとは言い難いが、マキロイやガルシア、ローズらの追撃を退けて、優勝できたという大きな自信は生まれたはずだ。

優勝後の記者会見中、ある人物から電話が入り、会見は中断された。ドジャースの監督を長年務めていた野球界のレジェンド、トミー・ラソーダ氏(91歳)だ。彼は親日家で、野茂英雄と契約して頻繁に登板させた監督として日本でも非常に有名になった人物だが、ドジャースの大ファンというマックス・ホーマは彼に会い、「自分を信じろ! 君が優勝できたら、その時は連絡する」と激励されていた。

その約束通り、お祝いの電話をかけてきたラソーダ。球界のレジェンドがわざわざ電話をくれたのだから、ホーマも相当嬉しかっただろう。ラソーダのアドバイスにもあった「自分を信じること」「技術の鍛錬」「不屈不撓の精神」の3つの柱をしっかり軸に据えて、今後も粘り強く頑張り続けて欲しいと思う。

画像: 「音」でスウィングが磨かれる!?飛距離を伸ばすクラブ逆さまドリル教えます~小澤美奈瀬~ www.youtube.com

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