今週行われている米男子ツアーのメモリアルオープンで、スティーブ・ストリッカーが06年製のアイアンをキャディバッグに入れてプレーする、とPGAツアーが伝えた。そのニュースを聞きつけたギアライター・高梨祥明が感じた、ゴルフクラブのルールに関する疑問とは何か!?

13年前のアイアンを再投入。エースアイアンが決まるまでの暫定処置。

スティーブ・ストリッカーがメモリアルトーナメントで使用すると報じられたアイアンは、2006年モデルのタイトリスト755フォージドである。なぜ、13年前のアイアンを今、引っ張り出してきたのか? ことの経緯を要約すると次のようになる。

画像: Jonathan Wall on Twitter twitter.com

Jonathan Wall on Twitter

twitter.com

ストリッカーは長く愛用していたタイトリスト 710 AP2(2009年モデル)から、最新の718 AP2(2017年モデル)に変え、今年のシニアメジャー大会を制した。しかし、いまひとつシャフトとヘッドのコンビネーションに納得できていなかったため、その前に長く使っていた710 AP2に装着されていたシャフトを抜き、718 AP2に挿れてみた。しかし、使用アイアンからのリシャフトだったため先端が一部番手で曲がっており、使用することができなかったのだという。

画像: 2017年のマスターズでのひとコマ。この当時の使用アイアンは名器710AP2。そこにKBSシャフトが装着されているのがわかる(撮影/姉崎正)

2017年のマスターズでのひとコマ。この当時の使用アイアンは名器710AP2。そこにKBSシャフトが装着されているのがわかる(撮影/姉崎正)

それなら同じシャフトをメーカーから取り寄せて挿れたらいいと思うが、この曲がってしまったシャフトは6〜7年前に限定的に作られたKBSのプロトタイプで、在庫が全くないものだったというのだ。そこで、急遽、そのまま使える手持ちのアイアンとして白羽の矢が立ったのが、13年前に使っていた755フォージドだったというわけである。新しいヘッドも悪くないが、相性のいいシャフトを見つけるには、まだまだ時間がかかる。それが決まるまでの苦肉の策ということだ。

ストリッカーがヘッドはもちろんのこと、アイアンのシャフトにものすごくこだわりがあるプレーヤーだということを示す、エピソードである。

使うほどに丸くなる溝のエッジ。それでもオールドアイアンは使用不可!?

13年前のアイアン。新しいクラブにいち早くスイッチするのが美徳(義務?)のような現在のツアーでは、珍しい事態ではある。しかし、アイアンカテゴリーにおいて、米男子ツアーではMB(マッスルバック)がいまだに“主流”である。

それを考えれば、ヘッド形状的にはハーフキャビティに属する755フォージドを引っ張り出してきた選手がいたとしても、何もおかしくはない。狙った距離をきちんと打つ、というアイアン本来の役割を重視した時に、現在の先進アイアンが追い求めている“飛距離アップ”は無用の進化であるからだ。

問題があるとすれば、そうした今も十分使える過去アイアンを、使い続けることができない現状があることだ。それはプロの競技では2010年から導入されている、新溝ルールの影響である。

新溝ルールとは、ロフト25度以上のクラブ全般に適用される、フェースの溝のエッジのシャープさ(溝の幅・深さ)を定めたルールのこと。基本的にはバックスピンが多くかかるウェッジの角溝(彫刻スコアライン)を規制するために改定されたルールなのだが、ロフト25度以上のクラブと規定されているために、アイアンやユーティリティもその対象になってしまう。

これが前述の通りプロの競技では2010年から、2024年からは正式なゼネラルルールとして我々一般ゴルファーが使うクラブにもこのルールが適用されることになっているのである。

ストリッカーがバックヤードから引っ張り出してきた755フォージドも、この新溝ルールに照らせば、競技で使用することはできないモデル。しかし、ストリッカーは自分自身で2011年にUSGAによる溝チェックを受けており、使用可の承認を得ていたために、今回その現品に限って使用しても問題ないのだそうだ。

ちなみに、彼はスペア的に同じアイアンセットを保有しているが、これらはUSGAのチェックを受けていないため、使用できないという。

この情報が掲載されていたPGATOUR.COMには、ストリッカー使用の755フォージドの写真がアップされていたが、長年ツアーで使用されたことでフェース面は傷だらけ、当然溝も減り、エッジの角も磨耗で丸くなっているように見えた。とてもこれによって問題になるようなバックスピンがかかるとは思えない。新品だったとしても、プレス鍛造で溝を入れている時代だ、ルールで使用不可とするような過度なスピンがかかってしまうとは思えない。

しかし、現状では、2009年12月31日までに生産されたロフト25度以上のクラブについては、競技で使おうと思えば、いちいちその溝が新溝ルールに則ったものであるかを確認しなければならないし、多くの場合、使用不可となってしまうのだ(※多くのゴルフメーカーではすでにホームページに適合、不適合情報を掲載しており、2009年以前に生産されたモデルでも使用可の場合もある)。

改めて、10年以上前のアイアンを使用不可とするゴルフルールとは何だろうかと思う。気に入ったアイアンを使い続けられないルールとは、誰のためにあるだろうか。問題の溝の形状など、一発でもバンカーから打てば砂を噛んで磨耗し、丸くなる。気に入って数年間も使えばなおさらだ。使い込むほどに問題になるようなバックスピンはどんどん生み出せなくなる。それでも、新溝ルール下で作られていなかったならば、使用不可となってしまう可能性が高いのである。

個人的にはいまだに、このルールは2010年1月1日以前に生産されたアイアンについては「対象外」としておくほうが良かったのではないかと思えてならない。その理由は繰り返しになるが、使えば使うほどバックスピンはかからなくなっていくからだ。

使い慣れた道具を使えなくするルールとは、なんだろうか。私は競技に出ないから関係ない、多くのアマチュアはそう思うかもしれないが、これは試合のルールではなく、ゴルフのルールなのである。それゆえに2024年からは全ゴルファーがその対象となる。

私の手元にも、好きで集めた古いアイアンがたくさんある。しかし、おそらくそのどれもが新溝ルールには合致していない。私は競技には出ないが、ルール不適合となって以降はこれらのアイアンは使用しないと思う。相手もある。違反クラブでは、気持ち良くラウンドできそうにないからだ。

ご存知の通り、ゴルフルールは今年、より簡便でシンプルな方向にその一部が改正された。ルールは考え方一つで改めることができるのだ。「2009年以前のアイアンはすべて新溝ルールの対象外とする」。心のどこかでゴルフ協会からそんな追加修正が発表されることを祈っている。かっこいい昔のアイアンをルール違反の“ゴミ”としたくないのである。

This article is a sponsored article by
''.