ブリヂストンで13年間、ナイキで15年間を過ごし、現在はキャロウェイに在籍するボール開発の専門家・ロック石井。彼は、かつてボール担当者としてタイガー・ウッズと密接な関係にあった人物。そんな石井に、タイガーのボール選びの秘話を聞いた。

2008年の全米オープンがターニングポイントだった

現在、ツアーではボールの低スピン化が進み、トッププロが打った場合のドライバーでの最適弾道は「打ち出し角12度、スピン量2200回転/分」が理想値となっているという石井。その上でボールには初速が求められ、アプローチでのスピンは打ち方で補うのが世界の最先端だと教えてくれた。

画像: タイガーはどんな風にボールを選んできたのか?(写真は2018年の全米オープン 撮影/岡沢裕行)

タイガーはどんな風にボールを選んできたのか?(写真は2018年の全米オープン 撮影/岡沢裕行)

一方で、アイアンに関してはたとえば6番では5000〜6000回転/分くらいとプレーヤーによって幅があり、最適値というよりは、人によって理想値が違うようだ。ただ、やはり低スピン化の影響はあり、それによってボールは以前よりも“曲げにくく”なっている。

「色々な選手の弾道を比べたら面白いと思いますね。弾道のコントロールといえばタイガーですが、以前のタイガーはターゲットに対して空中に9つのエリアをイメージしてそこを通すように打ち分けていました。その弾道の幅が広いんです。最近の選手にフェードやドローを打ってもらっても曲がりの幅は狭い。ボールとクラブの進化でそうならざるを得ないんですね。中にはボールをもっと曲げたいという選手もいますが、最終的には曲げないゴルフになってくると思います」(石井)

ボールの曲がりが少なく、低スピンだからこそ、最近のPGAツアーの選手はドライバーを「マン振り」する。そうしてもボールにスピンがかかり過ぎず、しっかり飛ばせるからだ。「スピンを欲しがるタイガーの使用ボールでも、昔に比べたら(スピンが)少なくなっているでしょう」と石井は言う。クラブに対する強いこだわりを持つタイガーだが、ボールに対する感性も言わずもがな極めてシビア。タイガーは、どんな風にボールを選んできたのだろうか。

「タイトリストのプロフェッショナル(糸巻きのバラタボール)のときは打ち出し角8度で3500回転とか、そういう世界でした。下からせり上がる弾道じゃないとダメ。それをウレタンカバーのソリッドボールでは2500回転の11度から12度に(変えてもらった)。当時の弾道計測器やビデオ、様々なデータを見せて、このボールのほうが飛ぶし風にも強いと話しましたが、やっぱりせり上がる弾道じゃないと、となかなか納得してもらえませんでした。それでも3カ月くらい話を続けていたらだんだん理解してくれて使ってくれるようになりました。懐かしいですね、20年前になります」(石井)

石井によれば、タイガーがさらに「スピンを落とすボール」に変えたのが2008年。今年マスターズに勝つまで、長く「タイガーが最後に勝ったメジャー」と呼ばれ続けたトーリパインズでの全米オープンの直後のことだ。

画像: 2008年の全米オープンの直後から「スピンを落とすボール」に変えたという(写真は2008年の全米オープン 撮影/岩井基剛)

2008年の全米オープンの直後から「スピンを落とすボール」に変えたという(写真は2008年の全米オープン 撮影/岩井基剛)

「『周りの連中が自分より飛ばしている』といって、スピンの入らないボール、彼の表現でいうと“硬いボール”に変えたとき、彼のゴルフが乱れましたね。飛距離を追求して、強みであるアイアンやグリーン周りの良さを落とすことになってしまいました」(石井)

デビュー以降、2002年まで飛距離ランクトップ5を下回ることがなかったタイガーだが、デビュー当時から10ヤード近く伸ばしているにも関わらず、2007年には飛距離ランク12位タイまで後退している。

タイガーも、「飛ばしたい」という思いを当たり前だが持っている。孤高の存在であるタイガーが、その一点だけでもちょっと身近に感じられる、そんなエピソードだ。

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