全米オープンでは勝利こそ逃したものの、強さを示したブルックス・ケプカ。今世界のゴルフ界で最もホットな男の横顔を、海外ツアー取材歴20年のゴルフエディター・大泉栄子が記す。

リーダーボードから消えないケプカは「ゴキブリみたい」!?

開場100周年を迎えたペブルビーチでの全米オープンでは、ゲーリー・ウッドランドがメジャー初優勝を果たしたが、2位には最近メジャーで最もホットな男、ブルックス・ケプカがきっちりランクイン。先月の全米プロに続き、今季メジャー2連勝とはならなかったが、今年のメジャー3試合で、マスターズ2位、全米プロ優勝、全米オープン2位とこの上ない成績を残している。もし今回優勝すれば、2017年にエリンヒルズで初優勝して以来の全米オープン3連覇となり、1905年にウィリー・アンダーソンが記録した3連覇に並ぶところだった。だが、惜しくも3打差でその夢は潰えた。

画像: 全米3連覇には至らなかったが、メジャーへの強さを遺憾なく見せつけたブルックス・ケプカ(写真は2019年の全米プロゴルフ選手権 撮影/姉崎正)

全米3連覇には至らなかったが、メジャーへの強さを遺憾なく見せつけたブルックス・ケプカ(写真は2019年の全米プロゴルフ選手権 撮影/姉崎正)

「このこと(3連覇)は1年前から考えていた。毎日そのことを考えているという記事か何かを読んだが、実際はあまり考えないようにしていたんだ。ウィリー・アンダーソンについては、面白い話がある。去年、僕たちがスコットランドにいたときに、彼が昔住んでいた家か何かの建物に彼の名前が書かれているのを見たんだよ。最高だったね。でも実際は彼のことはよく知らないんだ」

もし3連覇を達成すれば114年ぶりの快挙。ケプカは連日60台をマークし、「これ以上ないくらい、全力を尽くした。いいプレーをしていたんだけど、ただ今週はそういう(優勝する)運命じゃなかったんだ。自分の思い通りにプレーもしていたけど、時々どんなにいいプレーをしていても、優勝できない時もあるよね」と語っていたが、たしかにウッドランドを除いては、連日60台の好スコアをマークしていたのはケプカだけ。

69、69、68、68と60台のスコアを4日間出しながらも全米オープンで優勝できなかった初のプレーヤーとなり、昨年のシネコックヒルズ最終日に記録した68というスコアを入れると、5ラウンド連続で60台を記録している全米オープン史上初のプレーヤーにもなった。優勝できなかったにも関わらずなお、このような前人未到の記録を樹立しているところが、メジャー男にふさわしいエピソードである。

そんなケプカに対して、他のライバルたちはどのように思っているのか。フロリダの近隣住人であるリッキー・ファウラーは「彼は大きな試合で、ここぞという時にやり遂げる方法を知っている」といい、最終日、3つスコアを伸ばして7位タイでホールアウトしたアダム・スコットは「大きな大会でパフォーマンスを発揮する“レシピ”を絶対にわかっていると思う」という。

そして最終日に同組でプレーしたチェズ・リービーは「彼と月曜日に一緒に練習ラウンドをしたが、今日のプレーは先週の月曜日のプレーとまったく同じ。どんなステージだろうとどんな状況だろうと、違いはゼロなんだ」と語っている。そしてもっとも滑稽だったのはザンダー・シャウフェレのこの一言。「彼はゴキブリみたいだよ。消えない(リーダーボードの上位からいなくならない)んだから」

メジャーの大舞台になると必ずリーダーボードの上位に顔を出し、消えない存在。そして、確実に優勝争いに加わり、他をパワーと正確性で圧倒しながらやっつけていく危険な存在だ。ゴキブリのようにしつこく、サイボーグのように淡々と表情を変えずにアタックしてくるケプカ。

本人は自身のことを至って普通の人間だと思っているようだが、他の選手からすれば、何かを超越した存在として目に映っていることだろう。どんな状況でも動じることなく、目の前のやるべきことを確実に遂行し、目的を達成する超人。最強だった頃のタイガーは、ケプカ以上の超人だったことは間違いないが、彼らのメンタルの強さには共通点はあるのか? 実はこの2人、メンタルコーチに心理学者のジオ・バリエンテを付けている。

画像: 2人を指導するメンタルコーチから見ても、「タイガーとケプカの思考は似ている」と言う(写真は2019年のマスターズ 撮影/姉崎正)

2人を指導するメンタルコーチから見ても、「タイガーとケプカの思考は似ている」と言う(写真は2019年のマスターズ 撮影/姉崎正)

「彼らの思考はとても深い。それは彼らのスピーチや言葉の使い方、態度や信念などに現れている。心理学的に言うと、ブルックスは最もタイガーっぽい選手だね」

バリエンテが言うには、ケプカにとってゴルフはもともと「オヤツのようなもの」だったという。曽祖父も父も野球選手であり、幼少の頃から野球に親しんでいた彼にとって、父のように野球選手になることが夢だった。そんな彼にとって、ゴルフは野球ほど真剣にやろうとするスポーツではなく、「2番目に好きな子とデートするようなものだった」と米国ゴルフダイジェスト誌の記者に語っている。

もともとケプカにとっては「野球ほど真剣にやらなくてもなんとかなるスポーツ」だったのだろう。そして、人生の生業を野球選手ではなく、プロゴルファーに絞った時に、ゴルフに必要な技術力と体力を徹底的に身につけようとしたのだと思う。

きっと彼なら、米国の下部ツアーなどに出ながら、PGAツアー選手へと昇進する道もあっただろうが、あえて彼は様々な環境でプレーする必要のあるヨーロピアンツアーに身を置き、不慣れな環境でいろいろな経験を積みながら自身を鍛錬し、将来大舞台で活躍できるように、コツコツと技術や精神力の強さを築き上げてきたのだ。

来月には今年最後のメジャー「全英オープン」が控えている。1951年以来、2回目の北アイルランド・ロイヤルポートラッシュでの開催となるが、彼のキャディのリッキー・エリオットは、ここポートラッシュで生まれ育ち、ゴルフを学んだローカルボーイ。ほとんどの選手たちにとって未体験コースである状況の中、コースを誰よりも熟知しているキャディを持つケプカは、最強の武器を携えてメジャー5勝目に挑む。

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