先週開幕した「トラベラーズ選手権」を制したのはチェズ・リービー。11年ぶりとなる優勝を挙げ、ツアー通算2勝目を掴んだ。彼の優勝までの追跡を、ツアー取材歴20年のゴルフエディター・大泉英子が語る。

「いかにピンに対していいアングルで狙える場所にボールを置けるかが重要だ」

カンザス生まれのチェズ・リービーが、トラベラーズ選手権で11年ぶりにツアー2勝目を挙げた。ルーキーイヤーに初優勝した08年RBCカナディアンオープン以来3983日ぶりの勝利。先週の全米オープンでは同じくカンザス出身のゲーリー・ウッドランドが優勝したが、リービーの調子も上々で3位タイに入賞。最終組の一つ前でブルックス・ケプカとのラウンドだった。

「ここしばらくショットの調子がよかったんだ。パットの調子もいいよ。先週の全米オープンでも調子はよかったんだけど、ただ入らないだけだった。ボギー回避率の数値がとてもいい。これが僕のゴルフのカギなんだけど、ボギーを叩かなければ、優勝のチャンスはある」

3日目のプレーでは、バック9で2ホール以外は全てバーディを奪取し、28をマーク。ツアー会場で28を出したのは初めてだという。そして彼のいう通り、4日間を通してボギーを叩いたのはたったの3つだけ。いかにリービーのゴルフが安定しているかがわかる。

「僕は330ヤードを飛ばすような選手ではないから、フェアウェイキープしなければならないが、いかにピンに対していいアングルで狙える場所にボールを置けるかが重要なんだ」

画像: 11年ぶりに優勝を挙げたチェズ・リービー(写真は2019年の全米プロゴルフ選手権/姉崎正)

11年ぶりに優勝を挙げたチェズ・リービー(写真は2019年の全米プロゴルフ選手権/姉崎正)

チェズ・リービーは175センチ、73キロと米ツアー選手の中では比較的小柄。日本人には親しみを持てる体格だ。平均飛距離は286.5ヤードでツアー157位と飛ぶほうではないが、フェアウェイキープ率は75.13%でダントツのツアー1位である。

なぜこんなにショットの精度が高い彼が、今まで11年間も優勝できなかったのか、という疑問もわくが、彼は高校時代に負傷したひざに完治することのない痛みを抱え、その上2014年には左手首を故障し、ボールをまったく打てなかった時期があるのだ。長期に渡り、腕やヒジ、手首などにギブスをはめ、クラブにすら触ることができない日々もあったという。

彼の過去の経歴を見てみると、プロ転向後にウェブ・ドット・コムツアーを転戦し、PGAツアーのシード権を08年に獲得し、ルーキーイヤーに初優勝を遂げているものの、ケガで公傷制度を使って出場していたことがなんどもあり、また、自身のプレーの不調により、何度かシード落ちを経験している。シード確保のために、今まで綱渡りのような人生だったのだ。

だから、今回の優勝で2021年までシード権が確保されたのは彼にとって大きい。ここ数年、コーチのマーク・ブラックバーンとのスウィング作りが成功して、ショットの精度やプレーの安定感も確かに上がっているようだ。全米オープンの開催コース・ペブルビーチは決して飛ばし屋有利のコースではなかったことも、リービーの自信を取り戻すのに好都合だった。

ローリー・マキロイは「優勝しても予選落ちしても、次の週はまた新しい別の1週間。好不調を引きずることはない」と語っているが、リービーの場合は違う。昨年、ゲーリー・ウッドランドとのプレーオフに破れたWMフェニックスオープン直後のAT&Tペブルビーチプロアマで、彼は2位に入っている。好調の波が持続するタイプなのだ。

プロ転向後、ようやく安定した成績が継続的に残せるようになってきたリービー。この優勝でフェデックスカップランキングも12位に上がり、世界ランクも30位に浮上した。今後はフェデックスカップ最終戦のツアー選手権に出場し、年末のプレジデンツカップにタイガー・ウッズ主将のもと、チーム入りを果たしたいという目標がある。

「今までなんどもケガをして、ゴルフが不調だった時期が長く続いたが、そのおかげで忍耐力や、人生とは何か、ゴルフとは何かということが正しく見ることができるようになった」

苦難を乗り越えながら培った経験やものの考え方、精度の高いスウィング……リービーのこれまでの苦労は決して無駄にはならないだろう。今後の明るい展望に期待したい。

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