渋野日向子が全英女子オープンを勝った背景にはなにがあるのか。男子ツアーの大ベテラン藤田寛之と、日本女子プロゴルフ協会会長の小林浩美のコメントから、スマイル・シンデレラを生んだ“土壌”を考えた。

世界レベルの選手が国内にいること、同世代の勢いがあることの意義

渋野日向子はなぜ全英女子オープンに勝てたのか。まず思い浮かぶのは青木翔コーチとともに作り上げたショット力に、パット力。そして、プレーにおいての思い切りの良さ、いつも笑顔でいたこと、ショットとショットの間に好きなお菓子を食べて上手にリラックスできたこと……そういった要因も大いに考えられる。

画像: AIG全英女子オープンを制した渋野日向子(写真はニチレイレディス 撮影/大澤進二)

AIG全英女子オープンを制した渋野日向子(写真はニチレイレディス 撮影/大澤進二)

ここでは、それに加えて、現在の女子ツアーの環境面を含めて考えてみたい。まず登場してもらうのは、ベテラン男子プロの藤田寛之だ。8月5日、快挙から数時間後に開催されたヤマハゴルフの新製品発表会の会場で、渋野の勝利に関して藤田はこう語ってくれた。

「今のJLPGA(国内女子ツアー)は世界のNO.1をとったシン・ジエ選手のような選手が来ている。そして、黄金世代やプラチナ世代といった勢いのある選手もいます。ハイレベルなベテランに若手の選手がぶつかって、打ち破って結果を出そうとしている今の女子ツアーの戦いって、レベルとしてはかなり高いんじゃないかと思います」(藤田)

画像: 渋野日向子(写真右)の帰国記者会見で笑顔の小林浩美日本女子プロゴルフ協会会長(写真左)

渋野日向子(写真右)の帰国記者会見で笑顔の小林浩美日本女子プロゴルフ協会会長(写真左)

男子ツアーと異なり、女子ツアーは国内ツアーでも世界で戦えるだけの腕を磨ける状況にあることが渋野の勝利の背景にはあるのでないかと藤田は分析する。ツアー改革を進めてきた小林浩美日本女子プロゴルフ協会会長は、こう胸を張る。

「(昨年渋野が主戦場としていた)ステップアップツアーを2日間テレビなし、ギャラリーなしから3日間にしてギャラリーを入れ、テレビも生放送に。レギュラーツアーも4日間競技を増やすことで、戦い方・技術力・精神力、そして体力も(高めることができる)。レギュラーもステップもそういう(競技日数を増やすスポンサーの)協力があって、ツアー全体に効果が発生。(その中で)まず最初に渋野さんが結果を出してくれました」(小林)

ステップアップツアーは世界ランクの対象ではなかったが、3日間競技にすることでランクの対象に。レギュラーツアーで戦えなくても世界の中に自分のレベルを位置づけることができるようになったのも、世界を視野に入れたときにポジティブな影響となっていると小林は言う。

画像: 国内女子ツアーのレベルを語る際に必ずと言っていいほど名前が挙がるのがシン・ジエ。元世界ランク1位で米ツアー賞金女王経験者で、彼女のプレーから学ぶ若手は多い(撮影/大澤進二)

国内女子ツアーのレベルを語る際に必ずと言っていいほど名前が挙がるのがシン・ジエ。元世界ランク1位で米ツアー賞金女王経験者で、彼女のプレーから学ぶ若手は多い(撮影/大澤進二)

シン・ジエはこのステップアップツアーが世界ランク対象となることに対し、日本女子プロゴルフ協会の公式サイトにこうコメントを寄せている。

「(前略)ステップ・アップ・ツアーから徐々にランキングを上げて行けばレギュラーツアーにもその影響力がプラスになり海外ツアーに参加出来るチャンスが多くなるでしょう。多くの選手達が世界的な舞台に挑戦して行く入り口になると思います」

少なくとも今後の選手たちは、たとえ主戦場がステップだとしても、つねに世界を意識することになるだろう。なにしろ、去年まで“ステップアップツアーの選手”だった渋野が世界のメジャーを獲ったのだから。

そしてもちろん、渋野が藤田も指摘する黄金世代の一員であることも大きな要因だろう。

「もともとジュニア時代に(勝)みなみちゃんが勝って、(新垣)比菜ちゃんもプロになってすぐ勝った。これがみんな同じ世代で、ポーンと活躍した強い人がいて『私もやりたい!』ってなる。みんな負けん気も強くて。黄金世代の選手にもそれ以外の選手にも、ツアー全体に作用しているし、勢いも活気もある」(小林)

画像: 2014年、15歳293日の勝みなみは史上最年少で勝利を挙げる。黄金世代の物語はこの日からスタートしたと言っても過言ではない(撮影/岡沢裕行)

2014年、15歳293日の勝みなみは史上最年少で勝利を挙げる。黄金世代の物語はこの日からスタートしたと言っても過言ではない(撮影/岡沢裕行)

韓国では、1998年にパク・セリが全米女子オープンで優勝したことでゴルフ熱に火がつき、パク・セリキッズと呼ばれる1988年生まれを中心とした世代(シン・ジエがまさにこの世代)が世界で活躍。その次の世代も含めて女子ゴルフ界の一大勢力となり、その後のわずか約20年の間に30近いメジャータイトルを獲得するに至っている。

10年後、渋野の快挙と笑顔あふれるパーソナリティに魅了されたシブコ・キッズが世界を席巻していてもまったく不思議ではないし、その前に渋野の活躍に触発された同世代(とは限らないが)が世界で大暴れということが起こってもこれまた不思議ではない。

渋野は突如現れた“特別な一人”なのか、あるいは、女子ツアーが脈々と世界に向けて積み重ねてきた石組みをよじ登って世界に届いた“最初の一人”であり、その後ろには多くの選手たちが次は私だと列をなしていくのか……来年、そしてそれ以降の女子メジャーが、楽しみで仕方ない。

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