PGAツアーのプレーオフ最終戦「ツアー選手権」を制し、年間王者に輝いたロリー・マキロイ。マキロイはなぜどんなコースでも活躍できるのか? ゴルフスウィングコンサルタントの吉田洋一郎は、その理由が今年の全英オープン開催コースをラウンドしてみて、骨身にしみたというのだが……。

リンクスのゴルフはほかのコースのゴルフとはまったく違う

PGAツアー最終戦のツアー選手権を制し、2018-19シーズンの年間王者に輝いたロリー・マキロイ(北アイルランド)。飛距離(313Y、2位)と完成度の高いスウィングを武器とするマキロイはシーズン中にコンディションの好不調で成績が下降することはありますが、コースとの相性が悪くスコアを崩すというシーンはほとんど見られません。

PGAツアーだけでなく今週開催するBMW PGA選手権などの欧州ツアーにも参戦し、トップ選手の中でもコースへの適応力は随一と言っていいでしょう。

画像: 米欧問わずに活躍しているマキロイ(写真は2019年の全米オープン 撮影/有原裕晶)

米欧問わずに活躍しているマキロイ(写真は2019年の全米オープン 撮影/有原裕晶)

私がマキロイの活躍を見てこう感じたのは、今年の7月、全英オープン後のロイヤルポートラッシュGCでラウンドする機会を得たからです。

私がウェア契約を結んでいるヒューゴ ボスが全英オープンのスポンサーをしている縁で、最終日の翌日に試合会場でラウンドをすることができました。取材などでは何度か全英オープンの会場に足を運んだり、セント・アンドリュースなどのリンクスコースをラウンドしたことはありますが、メジャーのトーナメントセッティングでのラウンドは初めて。そこで出会ったのは、これまでに経験をしたことのない状況でした。

画像: メジャーのトーナメントセッティングでセント・アンドリュースをラウンドした吉田

メジャーのトーナメントセッティングでセント・アンドリュースをラウンドした吉田

リンクスはフェアウェイ、グリーンともに固く締まっていると言われます。そもそもの土壌が固いのと、常に強風にさらされているため、土が水分を含みにくくなり固くなっていく……と、いう知識は頭に入っていたのですが、実際にプレーをしてみるとその影響はかなりのもの。ショットではこれまで経験したことのないランが出ます。

2番パー5でキャディ(HC2の地元の男子大学生)に残り270ヤードのラフからのセカンドショットを5番アイアンで打つように言われました。半信半疑で打つとグリーンオン。かなりのフォローとはいえ通常5番アイアンは200ヤードを打つ番手のため、70ヤードも先にボールがあるとは想像もしていませんでした。アスファルトほどではありませんが、少し柔らかい踏み心地のフローリングくらいの固さはあります。

グリーン周り、そしてグリーン上もその固さは続くため、アプローチはバリエーションを求められます。グリーン周りから手前の受け傾斜にボールをぶつけて勢いを落とす「ワンクッション」を入れるアプローチショットでは、ファーストバウンドが前に跳ねてクッションどころか加速すらしているように見えました。そのためグリーン手前50ヤードからパタ-で寄せるホールもありました。ウェッジはバウンスが跳ね返り使いづらくスピンも入りづらいので、パターの出番が圧倒的に多くなります。

画像: グリーン上も固く、アプローチはバリエーションを求められる

グリーン上も固く、アプローチはバリエーションを求められる

グリーン面は冬の凍ったグリーンでプレーしているようなイメージです。グリーン面も受けていないので、余計に止めるのが難しくアイアンショットでピン付近にボールがキャリーしてもグリーンオーバーするなど、日本ではナイスショットのはずのボールがミスショットになる状況でした。

もうひとつ、リンクスの特徴といえば風です。風向きや強さが常に変化し、風力も日本の比ではありません。台風のときに外に出ているほどの強さでボールをさらい、叩き落としていきます。

この状況で飛距離を出すには、やはり低いつかまったドローボールが一番。高いフェードは影響を強く受け、コントロールが困難です。

またテレビでは広く平らに見えるのですが、コースに立つと細かい傾斜が多く存在します。グリーン面もいわゆるポテトチップスのようになっており、読み切るのが非常に困難です。

画像: ロイヤルポートラッシュのグリーン面はポテトチップスのようになっており、読み切るのが非常に困難だと吉田はいう

ロイヤルポートラッシュのグリーン面はポテトチップスのようになっており、読み切るのが非常に困難だと吉田はいう

多くの技と想像力を求められる過酷な状況に打ちのめされ、今まで経験してきたゴルフとはまったく別の競技のように感じました。

失敗が経験となり引きだしを増やす

マキロイをはじめとしたリンクスの育ちの選手たちは、小さなころからこのように対処しきれない過酷な外的要因の環境の中でプレーをしています。

マキロイを幼少期から長年指導しているマイケル・バノンの指導を間近に見てきたというティーチングプロのジェフ・ラウリーはマキロイの強みは幼少期から培った状況対応能力だと言います。

「マイケル・バノンがローリーに教えてきたことをずっと見てきましたが、様々な状況に対処できるような指導をしていました。特にチップショットで異なる状況から寄せワンをとる練習をよくさせていましたね」

豪快なドライバーや美しいスウィングに目が向けられがちなマキロイですが、リンクスのタフな状況を克服するために想像力を働かせ技術の引き出しを増やしていったのです。その状況対応力こそが、いまでもフィールドを選ばず活躍ができる力になっていることは間違いありません。

画像: リンクスのタフな状況を克服するために技術の引き出しを増やしていったマキロイ。とくにチップショットで異なる状況から寄せワンをとる練習をしていたという(写真は2019年の全米オープン 撮影/有原裕晶)

リンクスのタフな状況を克服するために技術の引き出しを増やしていったマキロイ。とくにチップショットで異なる状況から寄せワンをとる練習をしていたという(写真は2019年の全米オープン 撮影/有原裕晶)

残念ながらマキロイは68年ぶりに開催された地元北アイルランドでの全英オープンで故郷に錦を飾ることはできませんでした。

スタートホールのパー4で痛恨の「8」をたたいたマキロイのプレーを見ていましたが、地鳴りのような歓声がプレッシャーになりミスを繰り返したのかもしれません。初日は79と出遅れ、2日目は65と惜しくも1打足りずに予選落ちとなったものの、雨風が吹き荒れる悪天候の中での怒涛のバーディーラッシュを展開したマキロイに16歳でロイヤルポートラッシュGCのコースレコードの61を出した凄みを見ました。

地元で期待されながら予選落ちした悔しさをバネにPGAツアー最終戦で見事なゴルフを展開したマキロイ。10月に千葉県で行われるZOZOチャンピオンシップ出場のため来日します。ヨーロッパやアメリカともまた違った日本のコースを、どのように攻略するか楽しみです。

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