AIG全英女子オープンでは土壇場の最終日のバックナインでスコアを伸ばして優勝。先日も8打差を大逆転と、「ここ一番」にめっぽう強い渋野日向子。その理由を、プロモ教えるメンタルコーチ・池努が分析!

成果目標ではなく行動目標にフォーカスする

先月の「デサントレディース東海クラシック」で渋野日向子選手が最終日に8打差から奇跡の大逆転優勝を果たしました。渋野選手のように「ここ一番」でいつも以上のハイパフォーマンスを発揮してしまう人はどんなメンタルでゴルフをやっているのでしょうか。今回の記事では「ここ一番」という本番でパフォーマンスを発揮するために必要なメンタルスキルについて紹介していきたいと思います。

一般的に人は「ここ一番」でパフォーマンスを出すことは簡単ではありません。それはなぜでしょうか? ひとつの大きな理由が大事な場面や試合になればなるほど「このホールで、または今日のラウンドで結果を出したい」と強く結果に対して考えすぎること。つまり、成果目標への強い意識がプレッシャーを生んでしまうことが挙げられます。

プロでもアマチュアでも常に「良い順位(評価)」や「良いスコア」などの結果はほしいものです。しかし、それらを強く意識し、「あの人が見ているから良いところを見せないと」、「結果を出せないとダメだ」と“強く”成果を意識すればするほど、どうなるでしょうか? 自分自身に置き換え考えてみればイメージできると思いますが、「成果目標」を強く意識することで不要なプレッシャーを自分の中に作り出してしまうのです。

画像: デサントレディース東海クラシックで8打差を逆転する記録的勝利を挙げた渋野日向子(写真は2019年のデサントレディース東海クラシック)

デサントレディース東海クラシックで8打差を逆転する記録的勝利を挙げた渋野日向子(写真は2019年のデサントレディース東海クラシック)

「絶対に良いスコアを」「絶対にいい順位で終わる」と強く思っていると逆に次のような思考になりがちです。「良いスコアをまた出せなかったら評価が下がってしまう」「順位が悪かったら次の試合にも影響する」などと。そのように“今、コントロールできない未来への思考”は緊張やプレシャーを自分に与えてしまっているのです。すると当然、パフォーマンスは下がってしまいます。

では結果や評価などの成果目標ではなく何にフォーカスすることが重要なのでしょうか? 

以前も指摘しましたが、渋野選手は成果目標ではなく、行動目標にフォーカスしているように感じます。渋野選手は「攻める」という言葉をよく使います。これは結果ではなく行動にフォーカスしている良い例だと思います。

AIG全英女子オープン優勝後の会見で、記者からの「いつ優勝を確信したのか?」という問いに、「最後バーディパットが入ってからですね」と答えていることからも最後まで行動に集中をしていたことが分かります。

スポーツ心理学の世界でも試合本番では行動目標にフォーカスすることが重要とうたわれています。

画像: 結果を気にするのではなく、今できるプレーに集中しているからこそ、パフォーマンスを発揮できる(写真は2019年のデサントレディース東海クラシック)

結果を気にするのではなく、今できるプレーに集中しているからこそ、パフォーマンスを発揮できる(写真は2019年のデサントレディース東海クラシック)

サポートするプロアスリートにはこの行動目標へのフォーカスの話を“ライオンの狩り”に例えて伝えています。ライオンの狩り成功確率は約3割だといいます。意外ですが7割は失敗しているのですね。3日間連続でライオンが狩りに失敗していたとして、今日もこれから狩りをするというとき、ライオンは人間と同じように結果を意識するのでしょうか? 「今日も獲れなかったらどうしよう…仲間に合わせる顔がない…」などと考えるのでしょうか?

動物学の専門ではないので憶測になりますがおそらくライオンはそこを思考する脳は持ち合わせていないので不要なプレッシャーなどはなく、基本的には前回失敗していようが成功していようが毎回いつも通りのパフォーマンスを狩りで出せるはずです。

なぜなら、狩りをする時はコントロールできない未来の成果ではなく、コントロールできる今の行動、つまり獲物に見つからずにできるだけ近距離に近づき、どのタイミングに全速力で追いかけ始めるのか、そしてどのように獲物を倒すのか、そこに本能的に集中するからです。

まとめると、大事な場面や試合で結果を出したいのであれば、矛盾するようですが“結果を手放し”今できるプレーに意識的に集中していくことが重要だと言えます。大事な場面になるとパフォーマンスが下がってしまうという方はぜひ実践してみてはいかがでしょうか。

撮影/岡沢裕行

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