先週のPGAツアー「シュライナーズ・ホスピタルズ・フォー・チルドレンオープン」はケビン・ナの勝利で幕を閉じた。優勝スピーチでは韓国人ファンへ向けたメッセージがあった。ナが伝えたかったことはなにか、海外取材歴20年のゴルフエディター・大泉英子が、彼の人柄を交えて伝える。

プレーオフ「4度目の正直」で勝利

2019-2020年PGAツアー第4戦「シュライナーズ・ホスピタルズ・フォー・チルドレンオープン」は、ケビン・ナがパトリック・キャントレーをプレーオフで下して優勝。ツアー4勝目、今大会2勝目を飾った。今シーズン過去3戦がすべて20代の選手による優勝だったのに対し、4戦目は百戦錬磨の36歳の優勝。自身、プレーオフを3回経験しているが、4度目にして初めてプレーオフを制した。

「地元(ラスベガス)で始めて優勝できて本当に嬉しい。家族もいたし、(ゴルフを教えてくれた)父も人生で始めて僕の優勝を見にきてくれた。本当に特別な日になったよ」

ナはラスベガスに自宅を構えており、以前はよく開催地「TPCサマリン」も練習コースとして利用していたため、どこに打つべきで、どこに打ってはいけないなど、コースの隅々まで知り尽くしている。また、地元ということもあり、たくさんの友人たちから「チケットを手配してほしい」とおねだりされたそうだが、多くの友人やゴルフファン、そして家族から1週間を通して大きな声援、エネルギーをもらいながら戦うことができたのは大きい。

画像: ツアー4勝目を飾ったケビン・ナ(写真は2019年のWGCメキシコ選手権)

ツアー4勝目を飾ったケビン・ナ(写真は2019年のWGCメキシコ選手権)

彼のツアー初優勝は、やはりここ、TPCサマリンで行われた大会だったが、その時にも大勢の地元のファンたちからの後押しもあり、彼の今後のゴルフ人生にとって大きな1勝をもたらした。また、今回の優勝には過去、優勝に立ち会ったことのない父、以前も優勝に立ち会ったことのある娘のソフィアちゃん、そして会場には連れてこなかったが8月に生まれたばかりの第二子レオくんの存在が特に大きかったようだ。

結婚し、子供が生まれてからというもの、3シーズン連続で優勝。父になった責任感なども、彼の優勝へのモチベーションを高めている要因になっているに違いない。

また、彼の優勝を大きく後押ししたのは、絶好調だったパッティング。彼は今年のマスターズ以来、グラファイトデザインのシャフトを装着したショーン・トゥーロンのマディソンパターを使用しているが、今大会中のストローク・ゲインド・パッティングは+14.263で1大会におけるツアーレコードを記録した。

「(今週の)僕のパッティングは絶好調で、20メートル近くのパットが入ったこともあった。いいショットもたくさんあったが、パッティングがよかった。すごく自信を持って打てている。グラファイトのシャフトは普通のスチールシャフトよりも硬めだが、そのおかげで安定したスピードで打てている。僕もケニー(キャディ)も今週はグリーンの読みも非常に合っていたんだ」

彼が4日間で決めたパットの総距離は558フィート11インチ(約170メートル)。これもまたツアー新記録である。

さて、優勝直後にテレビのインタビューを受けたナ。英語で優勝の喜びをレポーターに伝えていたかと思いきや、母国語の韓国語で約40秒に渡り、感情を露わにカメラに向かって語り始めた。それまではにこやかに話をしていた彼が、突然真剣な表情で感情的に何を語り出したのかが気になったが、米国ゴルフチャンネルの記事に寄れば、以下のような内容を語っていたという。

「僕の韓国人ファンの皆さん、いつもサポートしてくれてありがとう。そして嘘の噂がいろいろと出回っているにも関わらず、僕を信じてくれてありがとう。誰が僕のことを何と言おうが、僕は堂々と幸せだと言える。(この噂について)口を閉ざして、今日、ゴルフクラブを使って(ゴルフで)皆さんに自分の気持ちを伝えられたと思う。(中略)またCJカップで会いましょう」

嘘の噂――これは、一体何を意味するのか? 韓国の芸能情報を伝える『ワウコリア』によれば、「ケビン・ナは女性を性奴隷として扱った挙句、婚約を一方的に破棄した」とのスキャンダルが浮上していた」という。そして今年の8月に某テレビ番組に出演して以降、元婚約者との婚約破棄までの経緯などが物議を醸していたというのだ。

これに対し、彼はこれまで自ら公の場で釈明することは避け、ひたすら我慢していたというが、優勝し、自分を信じる韓国のゴルフファンたちに何か感謝の言葉を口にしたい、わかってほしいという気持ちが高まり、前述のような韓国語でのスピーチになったのだろう。

私自身、確かにこのような噂話は以前聞いたことがあったし、実際彼と元婚約者との間でどのようなことがあったのかはわからない。そもそもそんなスキャンダルがあったのか、なかったのか、当人以外は知る由もない。しかし、現在彼は愛する妻と結婚し、二人の子供に恵まれて、ツアープロとしてアメリカ・ラスベガスの地を拠点に頑張っている。

彼には何度も取材をしているが、ジョークを交えながらいつもフレンドリーにインタビューに答えてくれるナイスガイ。この「噂話」が今後の彼の人生につきまとい続け、彼の名誉や活躍を貶めることにはなってほしくないと願う。

ちなみに彼の人柄がわかる話に、最近ではこんな話もあった。

先日、韓国ツアーで最終日に首位に立っていたキム・ビオがスイング中、ギャラリーの携帯電話のシャッター音により邪魔されミスショットをしたが、腹を立てた彼が中指を立てて抗議をした。これがテレビ中継でも放映され大問題になり、韓国ツアーは3年間の出場停止と1000万ウォン(約90万円)の罰金を科した。これに対し、ケビン・ナは記者会見で以下のように答えている。

「彼がやったことは100%よくないことだし、僕もちょっとびっくりしている。彼はもともとそんな人ではないからね。しかし、3年間の出場停止は重すぎるし、馬鹿げている。シャッター音で邪魔されたのは初めてのことではなかったというし、邪魔したギャラリーも彼とゴルフというゲームに対しての敬意がない。彼のことを助けようと、実際、韓国社会の上層部に連絡を取ったんだ。韓国ツアーがダメなら、コンフェリーツアーとか、チャイナツアー、ラテンアメリカツアーなどでプレーできるように、と取り計らったんだけど……。彼の奥さんは妊娠しているし、彼女にとっても今回のことは辛いはず。今こそ、韓国ツアーの選手たちは団結して“この裁定は馬鹿げている”と声高に発言すべきだ。誰もがミスは犯すもの。3年間も仕事を取り上げるべきではない」

この裁定の是非についてはともかく、ケビン・ナは仲間想いの熱い男。自分が正しいと思ったことは、思うだけでなく“やる”、有言実行の人である。そんな彼の性格と今回の活躍がタイガー・ウッズの目に止まり、プレジデンツカップの米国メンバー入りをキャプテン推薦で果たしたら、松山英樹もメンバーの世界選抜チームにとって強敵になるかもしれない。

撮影/姉崎正

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