昨シーズンの賞金王・今平周吾を始め、ZOZOチャンピオンシップに出場したトミー・フリートウッドなどトッププレーヤーのなかにはグリップを「短く握る」選手がいる。ギアライター・高梨祥明が「短く握る」メリットを考えた。

ただ当てやすくなるだけが「短く握る」効能ではない

2年連続の賞金王を目指す今平周吾や成長目覚しい高橋彩華など、指2本から3本ぶんほどグリップを余してクラブを握り、好成績を残しているツアープロを最近よく見かけるようになった。先月のZOZOチャンピオンシップに来日した、トミー・フリートウッドもその「短く握る」選手の代表格だ。

「短く握ることの効能は、クラブを自分でコントロールしやすくなる、ということだね。短く握るとシャフトがWhippyじゃなくなるんだ」(トミー・フリートウッド)

画像: フリートウッドは「短く握る」メリットを“コントロール”しやすくなるという(写真は2019年の全英オープン 撮影/姉崎正)

フリートウッドは「短く握る」メリットを“コントロール”しやすくなるという(写真は2019年の全英オープン 撮影/姉崎正)

Whippyとは、ムチのようにしなるという意味だ。フリートウッドのコメントを聞いて、私は以前、米国のゴルフ練習場に日本ブランドの高反発ドライバーを持ち込み、アポなしで現地ゴルファーに試打してもらった時のことを思い出した。

その時、試打したほぼ全員から“シャフトがWhippyだ”と開口一番指摘されたのだ。“俺は硬度「S」がいい”という人に、日本のドライバーの「S」を渡しても、“こんなWhippyなのは「S」じゃない!こんなのじゃまっすぐ行かないぜ”と苦笑いされてしまうのだ。スウィング中にシャフトが大きくしなれば、それを最終的に正しくしなり戻す技術が必要になる。彼らにとっては、「しなる=コントロールが難しい」という感覚になるのだということを強く感じた取材だった。

では、フリートウッドが言うように「短く握る」とシャフトが硬くなるのか? シャフトメーカーのIMIDE AND SUNSで調べてもらったことがある。その実験では、振動数計に固定するシャフト位置を1インチ短くすると12.5cpm、3インチ短くすると25cpm数値が上がることがわかった。

「振動数は16cpmでだいたい1フレックスくらい変わる感覚。つまり、3インチ短く握ると1.5フレックスは硬く感じてもおかしくないでしょう」。

それがメーカー担当者の見立てだった。同じシャフトでも「短く握る」だけでシャフトが硬くなるのである。

日本国内において、シャフトのしなりは「切り返しでタイミング取りやすくなる」「しなり戻りのスピードを使えるからヘッドスピードが上がる」という感じで、非常にポジティブなイメージがあり、しなりをうまく使えるようにこういう風に振ろう!という、道具ありきのレッスンが増えている風潮もある。

一方、米国ゴルファーのようにあくまでも自分の感覚を優先して考えていると、軟らか過ぎるシャフトは、「当てにくい」「振りにくい」「思った方向に飛ばない」というネガティブポイント満載な“扱いにくいモノ”になってしまう。こうした道具観の違いが背景にあるため、同じドライバーでも米国仕様と国内仕様では違うシャフトが装着され、同じフレックス表記でも「硬さ」が全然違う!ということが当たり前となってくるわけだ。

これを踏まえていえば、しなやかに使ってナンボの国内向けドライバー(シャフト)の場合は、自分がそのクラブのタイミングに合わせる工夫をすることも場合によっては必要となる。それができない!つまり自分のタイミングで振りたい!という場合は、米国ゴルファーのように硬めシャフトのほうが扱いやすくなるはず。新しいドライバーを買ったけど、いまひとつ打球が定まらない、振りにくいと感じているなら、ぜひダメ元で「短く握って」、シャフトを硬めにして打ってみていただきたい。

「短く握る」とカウンターバランスのようになる

グリップを「短く握る」と起こるクラブの変化は他にもある。それはカウンターバランスのようになる、ということだ。カウンターバランスとは、クラブのグリップ側にウェイトを配分し、クラブ全体のバランスポイント(重心)を手元方向に上げる手法のことだ。

最新クラブの中には、グリップエンドにウェイトを仕込んだドライバーやパターも増えてきているので、カウンターバランスというワードに注目している人も多いと思うが、私自身はこれを「ヘッドの高慣性モーメント化に伴う、振りやすさの調整」と解釈している。ヘッドの慣性モーメントをアップさせるためにドライバーはフルサイズヘッド(460cc)+長尺シャフトを基本に。パターはヘッド大型化(ネオマレット)とヘビーウェイト化を組み合わせることで急速に高慣性モーメント化が進んでいるのはご存知の通りである。

インパクトでの打点ズレによるエネルギーロスや方向性のブレを抑えるためには、ヘッドやクラブ自体の慣性を上げたほうがいいわけだが、この手法の難点はゴルファーがいつものように振ると、クラブに大きく揺さぶられてしまう感じになってしまうことである。その違和感、揺さぶられ感を軽減するために、手元方向にクラブの重心を移動して「振りやすく」「扱いやすく」している。それが昨今カウンターバランスが再注目されている理由だと思うのだ。

画像: 昨シーズンの賞金王・今平周吾も短く握る代表的な選手(写真は2019年のパナソニックオープン 撮影/有原裕晶)

昨シーズンの賞金王・今平周吾も短く握る代表的な選手(写真は2019年のパナソニックオープン 撮影/有原裕晶)

話を「短く握る」に戻す。

例えば、1.5インチクラブを短く握った場合、そのぶん約6グラム手元が重くなり相対的にヘッドが軽くなる(筆者の私的計測)。当然だが、クラブを短く握れば握るほどこの度合いは大きくなり、どんどんヘッドが軽くピュンピュン振れるようになってくる。クラブメーカーが行っているカウンターバランス設計は、長さをそのままに振りやすさを整えていく手法。「短く握る」は、短くはなってしまうけれど、ゴルファー自身が自由に、自分の感覚で振りやすさを調整できる方法だと、ここでは捉えていただきたい。

もちろん、クラブ長が短くなったぶん「飛ばなくなりそう」という不安はあって当然だが、シャフトを短く切ってしまうわけではなく、短く握って打ってみるだけである。色々な長さで握って打ちながら、振りやすさ、当たりやすさ、飛距離、方向性など、ここが丁度いい!と感じる自分なりの長さを探り当てていただければと思う。

最後にもう一つ。

着膨れしてしまう冬場は、体が回りにくくなるためシャフトを1フレックス軟らかく!とか、ヘッドに鉛を貼ってシャフトのしなりをキープ!といった季節的な調整法があると聞くが、体が回らないなら「短く握ってコンパクトに振る」のもアリかもしれない、と個人的には思っている。もちろん、その結果、多少飛ばなくはなると思うが、冬に夏のように飛ばそうとすること自体がミスの元、そんな気もするのである(汗)。

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