ゴルフ人口の拡大を目的としゴルフ業界のスペシャリストが集うNPO法人「ゴルフアミューズメントパーク(GAPK)」が、GAPKへの理解とファン作りを目的としたイベントを10月28日に都内で開催。講師はGAPK理事が務め、第1回目のスピーカーはクラブメーカー・ジューシー(株)代表の松吉宗之氏。その模様を、自身も理事であるティーチングプロ・永井延宏がレポート!

松山の使用クラブを(勝手に)考えることで、ドライバー開発の今が見えてくる

松山英樹選手といえば、かつては「スリクソン ZR-30」をエースドライバーとしていたましたが、そのヘッドが破損後はキャロウェイの「グレートビッグバーサ」や「エピックフラッシュ」、テーラーメイドの「M5」などを使用。現在はテーラーメイドの「M5ツアー」に落ち着いたようですが、かつてのZR-30のような“松山といえば”といったエースは決まっていない印象を受けます。

来年に迫る東京五輪にゴルフ代表として出場することが濃厚な松山選手。彼が金メダルを取るために必要なドライバーはなにか? というキャッチな“私的提言”をタイトルに、現代のドライバー事情を今回クラブデザイナーの目線で語ってくれたのが、クラブメーカー・ジューシー代表の松吉宗之氏です。

画像: 現在はテーラーメイド「M5ツアー」を使用している松山英樹(写真は2019年のZOZOチャンピオンシップ 撮影/姉崎正)

現在はテーラーメイド「M5ツアー」を使用している松山英樹(写真は2019年のZOZOチャンピオンシップ 撮影/姉崎正)

ジューシーというと聞き覚えのない人が多いかもしれませんが、松吉氏は有名クラブメーカーで長く設計に携わり、独立した人物。すでにそのウェッジはプロや上級者の間では話題になっており、市原弘大、浅地洋佑選手らがツアーで使用している、知るひとぞ知るメーカー。

そんな松吉氏はまず「パーシモン」「メタルヘッド」「チタン」と続いたドライバーの歴史を振り返った後、近年のドライバーの流行ワードでもある「慣性モーメント」についてこう語ってくれました。

「慣性モーメントが大きければ、それは曲がらないクラブかと言えば、そうではありません。そもそもゴルフクラブはオンプレーンでフェースをスクエアにインパクトするのが前提で設計されます。インパクトでフェースをスクエアに戻せない人には『慣性モーメントが大きいからいいクラブ』、というのは機能せず、フェースを真っすぐ持ってこれるクラブが『やさしい』と言われるドライバーになるはずです」(松吉氏)

そのうえで、松山選手が現在、ドライバーに求めている性能もこれに付随すると提唱。

「松山英樹プロは最近、ドライバーに関するインタビューで『アイアンやスプーンは10回に6回うまく打てるけど、ドライバーは10回に1回ぐらいしかうまく打てない。これをうまく打てるドライバーを探している』と話していました。これは松山プロが、一番飛ぶクラブではなく、スピン量のコントロールしやすいクラブ、真っすぐフェースが戻りやすい重心性能になっているドライバーを求めている裏返しとも言えます」(松吉)

最近のツアー選手がドライバーを選ぶ際、必ず活用しているのが弾道計測器で、この流れの中でのトレンドがボール初速です。ボール初速は飛距離に直結するため、それを高めるために各メーカーともギリギリのフェース反発性能を目指していますが、松吉氏が松山に‟勝手に“提案したいのはそれとは異なる評価軸のようです。

「トーナメントでコースを回る際は、すべてが『一番飛ばす』スウィングではないはずです。多少セーブして打ったり、球筋を作ったりするはずなので、そのときにイメージが合うドライバーが、松山プロが金メダルを取るためのドライバーだと思います。となると初速ではなくスピン量にフォーカスすべきです」(松吉)

松山選手がドライバーだけに違和感を感じるのは、スプーンやアイアンと比べて自分のインパクト感覚とスピン量がマッチしないのでは? という見解ですが、たしかにドライバーの飛ばしのキーワードはボール初速アップと低スピン。このトレンドの中、自分のイメージに合うスピン量が得られるドライバーに、いまだ松山は出会えていないということでしょうか。

となると、多くのアマチュアゴルファーにとって、ボール初速アップと低スピンは、はたして本当にいいドライバー選びの指針となるのか? とも思えてきます。

もし松山英樹が「ゼクシオX」で東京五輪に勝ったら

さらに松吉氏は、先ごろ“リブランディング”として、ゼクシオ11とゼクシオXの2モデルを同時に発表した日本を代表するベストセラーモデルの「ゼクシオ」についても語り始めました。

「今回、ゼクシオはリブランディングに挑戦し、『ゼクシオ11』と『ゼクシオX』とふたつのモデルを発表しました。約20年前にゼクシオが誕生した時は『なんだこれ?』的な雰囲気がありましたが、片山晋呉プロや横峯さくらプロが使用してツアーで勝ち、それまでは嫌われていた金属的な打球音が『心地よい』と世界観を変えた。それが『ゼクシオ』のサクセスストーリーです。そういう意味では、『ゼクシオX』はもっとチャレンジして欲しかった。というのも、もしダンロップの看板である松山選手が『ゼクシオX』を使ったら、また新たな『ゼクシオ』のストーリーが始まり、新しい世代をゴルフに引き付ける起爆剤になったかもしれないと思うのです。もちろん『ゼクシオ11』はそのままに、『ゼクシオX』は松山選手をターゲットとして開発するくらいの、リブランディングがあっても良かったのでは? と思います」(松吉)

ここで本日の核心と思える話があった。

「メーカーの方々は『ヘッドスピードが速い人は少し小さめのヘッドで短め、遅い人は大き目のヘッドで長め』という無意味な概念から抜け出せなくなっているのが実情です。ヘッド体積が460CCまで大型化した今のドライバーでも、フェースローテーションをそれほど意識せずとも振り下ろせるように重心設計も作られています。なのでヘッドスピードが速いプロであっても、そういったクラブを積極的に採用していくことは、むしろ正しい選択と言えます」(松吉)

画像: ゼクシオブランドの最新モデル『ゼクシオX』(撮影/三木崇徳)

ゼクシオブランドの最新モデル『ゼクシオX』(撮影/三木崇徳)

松山モデル=上級者モデルという常識を覆すチャンスがゼクシオXにはあり、過去にゼクシオはそれをなし遂げて約20年にわたりトップブランドの地位を守り続けているという松吉氏の指摘は正論でしょう。

すでにゼクシオXが発表され、様々なインプレッションや試打レポートを目にしますが、この松吉氏の言葉はさすがに長年ゴルフクラブ設計の第一人者として業界を俯瞰して来た経験や、ゴルフへの想いを感じさせるものでした。

ゴルフ業界活性化という、やや業界寄りの立場からの意見ではありますが、「松山がゼクシオで金メダル」のインパクトが大きいのは間違いありません。オリンピックで金メダルを取った後、ゴルフショップに「松山が使っているドライバーが欲しい!」とゴルファーが殺到するのを夢物語としてしまうのは、たしかにもったいない気がします。

This article is a sponsored article by
''.