ゴルフメーカーでも、ショップでもない。一人のゴルファーが自分で使うためだけに製作したクラブが密かに話題だ。体積230cc。ソールに“MOE86”と刻まれたシンプルなドライバーヘッドは、どんな想いで作られたのか? ゴルフギアライターの高梨祥明が解説する。

飛ばしが要らないわけじゃない。飛ばしを一旦横に置いておくことが大事。

まず最初に、「MOE86」ドライバーのヘッド基本スペックから紹介してみよう。

体積:230cc
重量:188g
ロフト:13度
ライ角:55度
フェース角:オープン1度
フェース高:42ミリ
ネック長:55ミリ
重心距離:35ミリ
重心深度:30ミリ

現在主流のドライバーと比較して、極端に小さく軽いヘッドで、ロフトが大きく、フラットで、被って見えず、スプーンよりフェースがディープ。そしてネックが長い。このため重心距離が短く、深度も浅くなっている。スルーボアになっているためシャフト先端の動きが抑えられる。数値特徴を文章にすればこんな感じの説明となる。

画像: 3wのような大きさだがディープフェースにすることでティアップしても下を抜ける不安感がない。新しいティショットギアのカタチだ。

3wのような大きさだがディープフェースにすることでティアップしても下を抜ける不安感がない。新しいティショットギアのカタチだ。

こうした仕様のドライバーヘッドは今現在だけでなく、実は過去にもない。もちろん、ヘッドが小さかった時代はあったが、その頃のヘッドは重たく、ロフトも立っていた。結局、世の中に存在しないから“作るしかなかった”。それがこのヘッドを自費で製作したゴルファー、浮世憲治氏の動機である。

ではなぜ、こうしたヘッドが必要だったのか? 浮世氏は「長尺ドライバーを使っていたら、アプローチ・パットがボロボロになったから」と言っている。48インチドライバーにしたら飛ぶようになったが、そのぶんグリーン周りが下手になり、スコアが出なくなってしまったというのだ。

ここに一つのヒントが隠されている。飛ばしを追求したクラブ(長尺・軽量ドライバー)と、距離をコントロール(飛ばさないように打つ)するウェッジやパターでは、まさに目的(ニーズ)が真逆。それぞれにもっと! もっと! と目的達成のための進化を重ねていけば、性格がどんどんかけ離れていく。そういう当たり前のことが、常にキャディバッグの中で起きているわけである。

「飛ぶようになったけど、寄らないし、入らないではつまらない。ならばドライバーでの飛距離を一旦横に置いてクラブセッティングを考えようと思ったのです」(浮世氏)

大きな飛びを望まないわけではなく、他のクラブ、ショットに影響しないことを一番に考えてみる。そうしたらどんなドライバー像が浮き上がってくるのだろう? それをテーマに10年以上ゴルフ仲間と喧々諤々、様々な実験クラブを作りながら辿り着いたのが、冒頭に示したオリジナルヘッド「MOE86」の基本スペックなのだ。

否定ではなく、選択肢。自分のしたいゴルフを明確にするのが先決。

遠くに、まっすぐに飛ばしたい! ゴルファー共通の願いをかなえるために、ドライバーは大きく変化(進化)してきた。その結果、ドライバーだけが突出して長く、軽く、しなやかで、ヘッドの大きい“孤高の一本”となっていることは、誰の目にも明らかだろう。

浮世氏のようにその一本に合わせていくと他のクラブに影響があると悟り、ドライバーの突出感を薄め、ほかの番手に馴染ませていこう! そう考えるのも一つの方法。ドライバーがほかの番手と違うことを踏まえ、新たなスイングを身につけて対処しようとするのも一つの方法である。大事なのは、ゴルファーそれぞれがどちらを選ぶのかを自分自身で決めることだ。

画像: 「このままでもいいし、塗装してもいい。シャフトも長さもお好きなように」(浮世氏)。すべてを自分で決められる、大人のための「MOE86」である。

「このままでもいいし、塗装してもいい。シャフトも長さもお好きなように」(浮世氏)。すべてを自分で決められる、大人のための「MOE86」である。

「飛ばしばかりを追いかけていると、ショートゲームがおかしくなる。自らの経験を踏まえてそう言っただけで、現状に対する“批判・否定”と受け取られることもあります。でも別に“遠くへ飛ばしたい”気持ちを非難しているわけではないんです。あえて飛ばそうとしなくても、プレーに必要な距離は十分に稼げますし、狙った方向、距離にボールが収まるようになることで、ゴルフが違った意味で楽しくなってきます。プレーに余裕ができることで、景色に感動したり、コース設計や攻め方について考えたりすることができるんです」(浮世氏)

飛ばさないのではなく、飛ばしたくないわけでもない。一旦、飛ばしのことは横に置いておき、例えば、いかに気持ち良くパッティングして終わるのかを考える。カップ(パット)からティショットに向かってゴルフを考えてみる。そうすることでそのために必要なティーショットの距離、そして第一打をフェアウェイ幅に打っていくことの大切さに気づけるのである。

オリジナルヘッド「MOE86」は、浮世氏の知人を中心に使用者を増やしているが、使ったほとんどの人が“意外に飛ぶ!”という驚きの声をあげるという。「別に飛ばないヘッドを作ったわけじゃない」と、浮世氏はそのたびに苦笑いをする。飛ばしているのはゴルファー自身。道具はその邪魔をしなければいい、という考え方が根底にはある。

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