クラブの進化、最新機器によるスウィングの最適化によって、プロたちの飛距離は日に日に伸び続けている。2月4日、R&AとUSGAは最新の「ディスタンスインサイトレポート」とそれに関する共同声明を発表した。ギアライター・高梨祥明が詳しく紹介・解説。

飛距離を伸ばし続けるプロツアー。コースの延長も限界に?

R&AとUSGAは最新の「ディスタンスインサイトレポート」をまとめ、2月4日に発表した。両団体は2002年に「飛距離についての原則の共同声明」を出しているが、その内容は以下の通り。今回の最新レポートはその共同声明で提示した飛距離に対する“懸念”を経過観察するために行われたものである。

【2002年R&A/USGA 飛距離についての原則の共同声明】
「世界プロツアーレベルでのさらなる飛距離の著しい増加は望ましくないと考えます。そうした飛距離の増加が、進化する用具技術、プレーヤーの競技意識の向上、プレーヤー指導の向上、ゴルフコースコンディションの向上によって生じているのか。そうした要因の組み合わせ、あるいはその他の要因によって生じているのかにかかわらず、(飛距離の増加が)ゴルフゲームの“挑戦”という要素を著しく減じる影響を及ぼすと考えています。その結果として起こるコースの拡張や、難易度を上げるための改修には費用がかかり、対応が不可能であることも考えられます。ますます重要性を増している環境や生態系の問題に悪影響を及ぼすことでしょう。(コースが長くなることによって)プレーのペースは遅くなり、プレー費も高くなるでしょう」

要約すると、世界のトッププレーヤーたちのドライバー飛距離は年々増加。それがゴルフのゲーム性を損なっている。ゴルフコースは飛距離アップに対応するため延伸工事が必要で、それに対する費用増、環境への影響も問題化。一般ゴルファーもいたずらに長いコースでプレーすることで、ラウンド時間が長くなり、割高なプレー費用を負担することになる。それについて18年前から両団体は大きな懸念を表明しているのである。

それでは、その主旨を踏まえて、最新ディスタンスレポートで公表された、主だったプロツアーのドライビングディスタンスを見てみよう(画像1)。

画像: 画像1:各プロツアーの平均飛距離の変遷を表したグラフ。1980年以降、どのツアーも基本的に右肩上りで飛距離が伸びている

画像1:各プロツアーの平均飛距離の変遷を表したグラフ。1980年以降、どのツアーも基本的に右肩上りで飛距離が伸びている

直近のデータのみを注視すると、アレ? 飛距離は落ちてる? と見えてしまうが、全体を俯瞰してみれば、どのツアーにおいても右肩上がりであることは間違いない。特に若手が集まるPGAの二部ツアー「コンフェリーツアー」での伸びは協会筋に大いに問題視されそう。何しろ300ヤードを突破、彼らの台頭がそのままPGAレギュラーツアーのディスタンスアップに直結するものであるからだ。

こうした継続したディスタンス状況の調査によって、飛距離アップ化への懸念は、さらに大きくなったと言える。レポートでは、それを踏まえた次の段階として、「飛距離を抑える効果のあるボールやクラブの使用を義務付けるローカルルール」の検討。「ゴルフ用具に関わるルールの見直しや新しい仕様の検討」を始めたいとしている。

ゴルフクラブのルール改正は、2008年に行われており、フェースの反発係数、ヘッドの大きさ、慣性モーメントの上限、長さの上限が定められている。今回のレポートのまとめでは、現状ルールの見直しはもちろん、飛距離を抑えることに効果がある新たな仕様の模索を始めたい、としているのである。

今回のディスタンスレポートには、飛距離に関するあらゆる統計が掲載されているが、個人的には次のグラフが興味深かったので紹介したい(画像2)。

画像: 画像2:各プロツアーの平均飛距離の変遷に加え、クラブやボールの革新が起こった年が記載されている

画像2:各プロツアーの平均飛距離の変遷に加え、クラブやボールの革新が起こった年が記載されている

横軸の上段に斜めに書いてあるのが、クラブ、ボールの革新が起こった年だ。

1980年:中空のメタルウッド登場(テーラーメイド・ピッツバーグパーシモン、ツアープリファードメタル)
→ 米男子ツアーの飛距離 約255ヤード。

1992年:大型ドライバー登場(キャロウェイ・ビッグバーサメタル)
→ 米男子ツアーの飛距離 約260ヤード。

1995年: チタンドライバー登場(キャロウェイ・グレートビッグバーサ)
→ 米男子ツアーの飛距離 約263ヤード。

2000年:糸巻き/バラタボールの終焉が始まる(タイガーウッズがナイキ・ツアーアキュラシー使用/タイトリストプロV1が登場)
→ 米男子ツアーの飛距離 約273ヤード。

2002年:完全なるソリッドボール時代に
→ 米男子ツアーの飛距離 約279ヤード。

パーシモンドライバーと糸巻き/バラタボールだった80年代から、大型薄肉高初速ドライバー&低スピンソリッドボールになったことで、ゴルファー自体のパワーレベルの向上を加味すれば、50ヤード近く飛距離が伸びてしまった、ということをこのグラフでは言いたいのだと思う。

特にロングショットで低スピン化を実現する、ウレタンソリッド(マルチレイヤー)ボールの登場は、飛距離アップの面において非常に大きな影響を与えていることがわかる。

R&A/USGAは、2002年から今日まで主にゴルフクラブ側の反発性能や寛容性を規制することで、プロツアーでの飛距離アップを抑えようとしてきたが、それももう限界にきていることを、最新のディスタンスレポートで匂わせている。

「私たちは飛距離に直接的/間接的の両方で影響する仕様を含め、クラブと球の両方について全体的な適合性の仕様の見直しも行います。この見直しの本来の目的は、継続する飛距離の増加を和らげる支援のために既存の仕様を調整すべきなのか、新しい仕様を設けるべきなのかどうかを検討することです。現在、飛距離を大幅に減じさせることになるような方法で、すべてのレベルのゲームの全体的な仕様の修正を検討するつもりはありません」(R&A/USGAディスタンスレポートより)

クラブだけでなく、これまで聖域感があったゴルフボールの仕様についても見直しを示唆。今後は、新しい仕様の方向性、研究課題についてゴルフ協会から提案があり、それをゴルフメーカーなどが検証、評価、回答していく流れとなる。

声明では「すべてのレベルのゲームの全体的な仕様の修正を検討するつもりはありません」とあるから、ゼネラルルールは現状を維持。プロツアーなどで使用する用具について新仕様の提案があり、その新用具の使用を義務付けるかどうかを各ツアー、競技会に一任。ゴルフルールは一つのまま、ローカルルール運用で飛距離を抑制するという流れになるのではないかと個人的には推測している。

ボールを飛ばしているのは、あくまでも人間である。同じボールやクラブを使っても、若い人は飛ぶし、シニアになれば飛ばなくなる。ディスタンスレポートが示す各ツアーの飛距離グラフはそれを端的に語っていると思う。道具を問題視するのではなく、300ヤード近くを飛ばし、なおかつフェアウェイに打って来れるトッププレーヤーの技術と努力を個人的にはリスペクトしたい。飛ばすほど、高い精度が求められるのがゴルフである。

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