物理的に理にかなったスウィングを追求する“ゴルフの科学者”ブライソン・デシャンボー。彼のスウィングは「ゴルフィングマシーン」という本を参考にしていることは知る人ぞ知る話だが、その原本は超難解といわれ、読むだけで一苦労なのも一部では知られた話。その本に感銘を受け、勝手に和訳し、さらには自費出版にまで漕ぎ着けたという一人のアマチュアゴルファーを取材した。

ゴルフが上手くなりたいとたどり着いた「ゴルフィングマシーン」

アマチュアゴルファーの大庭可南太さん(46歳)は、30歳まで実業団でテニス、転職後は40歳までフットサルを楽しんだスポーツマン。40歳を機にゴルフを始めレッスンプロにも習ったがなかなか上達しない。

「そこでレッスン本を読み漁っていくうちに、『手で上げるな』『へそで打つ』のようなゴルフレッスン独特の言い回しに“迷子”になってしまいました。『ゴルフィングマシーン』と出会ったのは、その頃です」(大庭さん)

画像: ホーマー・ケリー著「ゴルフィングマシーン」を和訳し「ゴルフをする機械」を自費出版した大庭可南太さん

ホーマー・ケリー著「ゴルフィングマシーン」を和訳し「ゴルフをする機械」を自費出版した大庭可南太さん

2016年、マスターズで当時アマチュアだったブライソン・デシャンボーがローアマを獲得。そのデシャンボーが1969年、およそ半世紀も昔に発行された「ゴルフィングマシーン」なる本を参考にしている……その情報を聞きつけたことが、大庭さんのゴルフ人生を大きく動かす転換点となる。

「さっそく取り寄せて読んでみました。仕事で英語を使っていたので、洋書の読解力はあるほうだとは思いますが、『ゴルフィングマシーン』を解釈するのは容易なことではありませんでした。ただ、上手くなりたい一心で、2016年の9月から自分のブログに和訳したものを掲載しながら、自分のゴルフにも取り入れていったんです」

そもそも「ゴルフィングマシーン」という本は、アマチュアゴルファー向けに書かれたものではなく、ゴルフに夢中になった著者の理論を発表した内容に過ぎず、スウィングはこうである、ゆえにこうするべきであるとは書いてあっても、どうすればそれがができるのかは論じられていないのだ。しかもその内容は、プロにとっても難解極まるものだ。

しかし、その内容はスウィングのメカニズムを細かく分析していて、本の内容を取り入れたインストラクターの生徒は次々に上達したという事実も大庭さんの興味を引いた。そして、約2年の月日をかけてついに大庭さんはゴルフィングマシーンの“完訳”という偉業を達成。権利関係に問題がないことを確認した上で、オリジナル版とまったく同じサイズ、同じ装丁、同じ本文デザインまでを「完コピ」し、ゴルフィングマシーンならぬ「ゴルフをする機械」という翻訳タイトルを付して自費出版にまで漕ぎ着ける。

大変な苦労を乗り越えてやっと辿り着いた出版。さぞや一人でも多くの人に手にとってもらいたいだろうと思いきや、話はそう単純でもないようだ。大庭さんのブログから引用しよう。

「まずTGM(編注:ザ・ゴルフィング・マシーンの略称)がどういうものかをご存知ない方は絶対にご購入しないようにお願いいたします。どういう物かを知りたい方は、このブログでほぼ全文が無料でご欄になれますのでそれをご欄になった上でどうしても紙本の状態でお読みになりたい方だけご購入ください。」

画像: 原本と同じページには同じ内容の翻訳を載せるという「完コピ」にこだわった

原本と同じページには同じ内容の翻訳を載せるという「完コピ」にこだわった

まるで一見さんお断りのお店といったような印象だが、価格を聞いて2度驚く。なんと一冊、1万2800円する。一冊ずつのオンデマンド印刷、送料、税込といえ本の値段としては破格。しかし大庭さんいわくこの価格は原著の価格とほぼ同じで、原著より安い値段で販売して原著の売り上げを阻害してはならないという思いから、この値付けに至ったという。

「ゴルフをする機械」という本が、商売っ気やらマーケティングから生まれたのではなく、愛や執念といったものから生まれたことがよくわかる。

さて、「難解な原著を勝手に翻訳し、自分のゴルフにも取り入れていく」という前代未聞の取り組みを通じて、大庭さんは本来の目的である上達を達成できたのだろうか? 答えはYES。80台で回れるようになり、ハンディキャップは15まで減らすことができたのだという。そして、中には「ゴルフをする機械」を手に取り、米国に「ザ・ゴルフィングマシーン」のメソッドを受講しに行ったインストラクターもいるのだとか。

最後に、ゴルフィングマシーンの内容のなかでもとくに重要で、今すぐにでも役に立つ「3つの本質」を紹介しておこう。

・安定した頭部(首の付け根)
スウィングは軸を中心とした円運動のため、頭部が動き過ぎないことは正確なインパクトには不可欠。

・バランス
振り切ってもバランスの崩れないスウィングが大事。ゴルフはフラットなライだけでなく様々なライで様々な距離を打ち分ける必要があることから、バランスをキープしてスウィングすることは非常に重要。

・リズム
スウィングは体の部位が正しいタイミングで連動して動くことで、再現性がありスピードも上げられる。一定のリズムでスウィングすることが重要。

どれも当たり前といえば当たり前のことだが、「その当たり前のことが、意外とみんなできていないんです」と大庭さん。さらに、スウィングの原理原則としてインパクト周辺で左手首が甲側にも曲がることはないという「フラット レフト リスト」が不可欠だと教えてくれた。

「すべてのプロができていて、ほとんどのアマチュアができていないこの動きを覚えるだけでも100は切れる」と大庭さんは言う。

さて、ゴルフィングマシーンを訳し終えた大庭さんだが、現在は欧米でゴルフレッスンのバイブル的な役割を担っている本「Search for the Perfect Swing」を和訳し始めているという。一体そのモチベーションはどこからくるのか? その質問に大庭さんはこう答えた。

「それも、ただゴルフが上手くなりたいからです(笑)」

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