強風吹き荒れる「アーノルド・パーマーインビテーショナル」を制したのは、欧州ツアーでも活躍するイギリス人選手、ティレル・ハットン。そんなハットンの人となりを、海外取材経験20年のゴルフエディター・大泉英子が記す。

欧州ツアーではすでに4勝

「今年のアーノルド・パーマーインビテーショナルはまるで全米オープンのようだった」

数々の選手たちが口々にそう語ったベイヒルクラブ&ロッジは、週末に強風が吹き、粘り気の強いラフが茂る、難しいコンディションの中行われたが、英国人の28歳、ティレル・ハットンが通算4アンダーで米ツアー初優勝。今大会の優勝でフェデックスカップランクでは81位から14位に、世界ランクは32位から22位に浮上。また、今大会で2023年までの3年シード権を獲得した。

画像: 欧州ツアー4勝のイギリス人選手、ティレル・ハットン。アーノルド・パーマーインビテーショナルを制し、PGAツアー初優勝を遂げた(写真は2019年のマスターズ 撮影/姉崎正)

欧州ツアー4勝のイギリス人選手、ティレル・ハットン。アーノルド・パーマーインビテーショナルを制し、PGAツアー初優勝を遂げた(写真は2019年のマスターズ 撮影/姉崎正)

「PGAツアーで勝てて、しかもこんなに有名なトーナメントで優勝できるなんて信じられない! 子供の頃からテレビで観ていた試合に勝って、その優勝トロフィの横に座っているなんて……。僕はヨーロッパとアメリカを行き来しながらプレーしているので、米ツアーでの試合数はせいぜい16~17試合くらい。シード権を確保するのもやさしいことじゃない。でも今回の優勝で3年シードをゲットできて本当に嬉しい」

ティレル・ハットンについてあまりご存じない方もいると思うので、ここで簡単に紹介しておきたい。

2011年にプロ入りし、欧州ツアーを主戦場に戦っていたが、アメリカのミニツアー「フーターズ・ウィンターシリーズ」に出ていたこともあったという。そしてその後2017年には米PGAツアーシード権も獲得し、欧米両ツアーに行き来する生活を送るようになったのだ。

世界ランクでは2016年以来、トップ50入りを1度も外しておらず、イギリスを代表するトップランカーの1人となっている。2018年にはフランス開催のライダーカップに自力でメンバー入りを果たし、過去欧州ツアーでは4勝。直近では昨年のターキッシュオープンでの優勝が記憶に新しいが、その後右手首の手術を余儀なくされ、しばらく試合からは遠ざかっていた。

だが、彼のゴルフは決して錆びついてはいなかった。今季、米ツアーでの試合数は、CJカップ(6位タイ)、WGC・HSBCチャンピオンズ(14位タイ)、WGCメキシコ選手権(6位タイ)、アーノルド・パーマー招待(優勝)と、たった4試合だけなのだが、昨秋のターキッシュオープン優勝から戦線離脱はあったものの、好調ぶりをキープ。

「試合に出られないときは何をしていたのか?」と聞かれると「たくさん赤ワインを飲んで、Xbox(ゲーム)をやっていたよ」と躊躇することなく答えていたが、手首のリハビリで練習したくても十分できなかったのが実情だろう。そんな彼が「全米オープン並み」に難しかった今大会で優勝できるとは、誰もが予想だにしなかったに違いない。だが、イギリス人の彼でも、この大会がホームに感じられる要素があった。ミニツアーに出場していた頃から、オーランドにフィアンセのエミリーさんと家を借りて住んでおり、先週も自宅から通っていたのである。

「(ここオーランドは)2番目の家のようなものだ。自分のベッドで眠れてトーナメント会場に通えるなんて、あまりないことだけど、とても快適だった。そんなこともリラックスしてプレーできた要因の一つかもしれない」

また、リラックスして自分の本領を発揮できる環境は、実はほかにも揃っていた。昨年の5月のブリティッシュマスターズから、キャディをイギリス人キャディのミック・ドナフィに変えて以来、ターキッシュオープン優勝など、好成績が続いているのだ。

「彼は国の宝だよ。彼は話が上手だし、試合に集中させてくれる。彼のおかげでいい成績も残せているよ」

ハットンはもともとストレスがたまると、それが行動に現れやすいタイプだ。以前はもっと短気な一面も見受けられたが、今はだいぶ自分をコントロールできる術を身につけたようで、大会中も「最も難しいことは自分をコントロールすること。でも今回はこんなに難しいセッティングでも我ながらよくやったと思う」と語っている。過去の経験を通していろいろと学び、自信もついてきたという。そしてミックの存在が、ハットンのパフォーマンスをさらに引き出せる精神状態を作り出していると言っていいだろう。

ところで一体、彼はどんな性格なのだろうか? 自分自身では「シャイな人間だ」と語っている。たしかにあまり口数も多くないし、一見フレンドリーには見えないが、実際に話してみると冗談も言う、ユニークでひょうきんな性格の持ち主だ。

もし自分に呼び名をつけるとしたら「変人ハットン」なのだそうだが、そんなところも個性的。現在米ツアーには、ジャスティン・ローズ、トミー・フリートウッド、ポール・ケーシー、リー・ウエストウッド、イアン・ポールター、ルーク・ドナルドなど個性豊かなイギリス人ゴルファーが大勢いるが、そんな選手に混じっても、一歩も引けを取らないくらいのアイデンティティを発揮している。

どちらかといえば「切れキャラ」だったハットンが、難しいコンディションのベイヒルで我慢強くプレーし、優勝を勝ち取ったという事実は、本人にとって何よりも大きな自信につながるはずだ。あと1ヶ月後にはマスターズが控えているが、オーガスタのリーダーボードに彼の名前が上位にきているとしたら、今回の勝利が大きく貢献していることは間違いない。

 

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