クラブメーカーのピンといえばアンサーに代表されるクランクネックでトウとヒールに重量配分を分けたピン型を思い浮かべるが、さらに挑戦したモデルも存在している。ギアライターの高梨祥明がビンテージパターを眺めながら当時のエンジニアの挑戦に思いをはせた。

稀代の名器にも改善すべき点があった!? 眺めて、想像して、楽しむ。パターの進化

「ANSER」というのは、PINGの創始者、カーステン・ソルハイムが考案したヒール・トウ・バランスヘッドの名器である。1965年に誕生し、ご存知の通り今でもパターのスタンダードデザインとして広く定着している。

これだけの名器である。生みの親であるカーステンも大きな満足を感じていただろうと想像するが、ここで止まらないのが天才エンジニアである。のちに誕生した「MY DAY」を見ると、天才エンジニアの飽くなき挑戦心、常に進化を求める開発魂が感じられて嬉しくなるのだ。

画像: 1980年代に登場したトゥ側にボリュームを持たせたピンのパター「マイデイ」

1980年代に登場したトゥ側にボリュームを持たせたピンのパター「マイデイ」

「MY DAY」は「ANSER」と同じクランクネックを採用したモデルだが、大きく異なるポイントがトウボリュームを増大させている点にある。「ANSER」が誕生した60年代〜70年代のPINGパターは、ヒール・トウ・バランスの名の通り、ヘッドの中心に凹み(キャビティ)を設け、重量をヘッドの左右(ヒールとトウ)に均等に分散させることで慣性モーメントをアップ、ミスヒットに対する高い寛容性を生み出していた。

一方、80年代に登場した「MY DAY」はトウボリュームが増大し、ヒールの重さはそのぶん軽くなっている。左右均等配分ではなくトウ加重デザインへと大きく変化しているのだ。その方法は実に徹底している。

視点1 バックフェース左右のふくらみが明らかにトウボリュームにトウのふくらみが大きい、つまりトウに重さが集中しているということ。

画像: ヴィンデージのANSER(右)とMYDAY。同じクランクネックだがバックフェースのボリュームがまったく違う。トウ重の分、重心はセンター付近に位置している

ヴィンデージのANSER(右)とMYDAY。同じクランクネックだがバックフェースのボリュームがまったく違う。トウ重の分、重心はセンター付近に位置している

視点2 トウに向かって幅広になるソール幅
ANSERと同じボックス型のブレードヘッドだが、MY DAYはトウにいくほど扇状に幅広くなっている。

画像: ANSER(右)に比べてトウに向かって幅広になるMY DAYのソール幅(左)

ANSER(右)に比べてトウに向かって幅広になるMY DAYのソール幅(左)

視点3 ヒールが低く、トウが高いフェース高
ソール同様、トウ側をワイドにすることでウェイトをトウに集中。

画像: ヒールを低くすることでもトウバランスをサポートした

ヒールを低くすることでもトウバランスをサポートした

まさにあの手この手でトウに重さを持って行っている感がある。でもどうしてここまで徹底してトウに加重にしなければならなかったのだろうか? その目的はトウを重たくするというよりも、ヒール側を軽くすることにあったと見るべきだと考える。その理由はヒールには“クランクネック”というとてつもなく大きな重量物が付いているからである。

古いANSERのようにトウとヒールのバックフェースボリュームを均等にしても、ネックがあるぶん必ずヒールにウェイトが偏ってしまう。これは実行的な慣性モーメントの大きさにも影響するし、何よりも重心がヒール方向に寄ってしまう原因になる。フェースセンターに芯が来なくなってしまうのだ。高い人気を誇ったオールドANSERにも、ヒール重心という改善すべき点があったのである。

重さの配分を知ることで、ヘッド重心を感じることができる

ANSERシリーズに続いて開発された「ZING」パターは、大きくトウボリュームにし、ショートネックにすることで、泣き所だったヒール重心を完全解消した意欲作だった。「MY DAY」はこの「ZING」にクランクネックを組み合わせたものである。

ネック(ホーゼル)があるぶん、ヒールが重たくなってしまう。これはANSERパターに限らず、すべてのゴルフクラブが抱える物理的な問題である。キャロウェイのS2H2メタル、アイアンが登場した80年代後半からショートネックはゴルフクラブの基本デザインになったが、カーステンはそれよりも早く、ヒールが低くトウ高のアイアン(69年カーステンI〜82年アイ2)によって、ヒールとトウのウェートバランスを形状によってコントロールし、フェースセンター付近に重心を配置したゴルフクラブの優位性を世に示していた。

ゴルフクラブヘッドの重心設計を形状と肉厚の変化によって追求していたカーステンの時代は、その姿形にエンジニアの思考がそのまま現れた。だからこそ独創的な形が生まれたし、我々もその異容に目新しさと革新を感じることができたのだ。

今のゴルフクラブはカーステン時代に比べ大人しめのモデルが多く、眺めて見極める機会は減ったように思う。しかし、これは複雑形状を精密に成形する鍛造・鋳造技術、タングステンなどの高比重金属の加工・圧入技術、高強度のフェース材料の開発、中空構造の進化などによって、涼しい顔を装ったハイパフォーマンスモデルが増えたからである。その本質は慣性モーメントアップによってミスヒットにやさしいクラブを目指したカーステンの取り組みと何ら変わりはないのである。

在宅ワークが増えると、気分転換に何気なくクラブを握ることも多い。そんな時はクラブヘッドのどこが重く(厚く)て、どこが軽い(薄い)のかと、意識しながらクラブを眺めてみることをオススメしたい。最新クラブならば、メーカーサイトで内部構造(ウェートなどの位置、キャビティの深さなど)を確認してみるのも一考だ。

重さの配分を知ることで、目には見えない重心をなんとなく感じとることができる。プロや上級者は昔から「クラブヘッドの重さを感じろ」とアドバイスするが、それをもう少し詳しく言うと「クラブの重心を感じろ」ということになる。重心を感じることでクラブコントロールは容易になるのである。ボールを打たなくても、クラブの眺め方を工夫することでゴルフの向上につなげることができる。ぜひ、“おうちでクラブチェック”をしてみていただきたい。

This article is a sponsored article by
''.