大事なパットで手が動かない。イップスと呼ばれる症状はゴルフに限らず野球やテニスなど他のスポーツでも選手を苦しめている。その要因はメンタル面や加齢など様々だか、もしそうなったらどうすれば克服できるのか? プロも指導するメンタルコーチ・池努が克服のヒントを教えてくれた。

イップスの原因は失敗のイメージが定着してしまうから

普段から競技ゴルファーのメンタルトレーニングをしている私は「イップス」に関するご相談も多く頂きます。読者様の中にも「イップスもってるんだよね…」という方も少なからずいらっしゃると思います。イップスに関して大小の悩みを抱えている方のために数回にわけ「イップス」に関する解説と解決策について紹介していきたいと思います。

イップスとは、沢山の練習を通じて習得し、無意識にできるようになっていたはずの動きが大事な試合での失敗や想定外のミスなどの原因により、それ以降思うようにできなくなる運動障害のことをいいます。ゴルフでいうと、ティショット、アプローチ、パターに関するイップスの相談が多いですね。また、野球やテニスをされている人の相談もあります。

ちなみにゴルファーがいうイップスとは次のようなケースが多いようです。
「1メートルのショートパットを50センチショートする、あるいは3メートルオーバーする」
「ティショットでタークバックを上げることができない。切り返しで動きが止まってしまう」
「アプローチでボールが1センチも動かないようなザックリが出る」

画像: たとえば、グリーン周りのアプローチでスムーズに動かなくなる症状をアプローチイップスという(写真/小林司)

たとえば、グリーン周りのアプローチでスムーズに動かなくなる症状をアプローチイップスという(写真/小林司)

このように練習でできることがコースに出ると、または試合になると思い通りできない。そして、想定外のミスにつながり、スコアを崩してしまう。このような悩みを抱えてゴルフをすることは本当に心理的にもきついことだと思います。

そもそも、何が原因でイップスになるのでしょうか。イップスの原因の一つとして考えられているものが「心因性動作失調」と言われる心理的な原因による動作の不調です。つまり、何らかの体験での影響により起因された不安や恐怖などの心理的要因により普段できるはずの動作ができなくなるというものです。

過去にサポートしたプロゴルファーの事例をあげます。試合中のあるホールのティショットを打つと突然ボールが右斜め45%の方向に飛んでいってしまいOBに。さらに別のホールでも同じようにOBになるティショットが出てしまった。そのショットの影響もあり、かなり気持ちも動揺してしまいスコアも崩れてしまう。そして、ショックを受け「なんであんなことになったんだろう?」と自問自答しているときに、試合後に周りのゴルファーや関係者からも「どうしたの?あのショット」というような声掛けをされ、余計にショックが増幅されてしまいました。

この体験がトラウマとなり、それ以来、練習でコースにでるだけでも「あの球が出てしまったらどうしよう…」というあのホールのイメージがよみがえり、不安になり体も硬直してしまう。そして、そのような状態で試合に出ると、また同じような球が出てしまいイップスの症状が強化されてしまったのです。このような体験により、特定のプレーに対して不安や恐怖を抱き、また失敗イメージが定着してしまうことで理想のプレーができなくなることがイップスの原因になることは多くあります。

ネガティブな感情を再構成する

では、どのように対処していけばイップスが改善できるのか? その一つが「認知的再構成法」と言われる手法です。私もイップスを自覚している選手にはまずこの手法を使いコーチングしていきます。これはどんな手法なのかというと、自分の感情や行動をネガティブにしてしまう背景には、その状況に対する自分のとらえ方があります。認知再構成法は、そのネガティブな感情につながるとらえ方を文字通り再構成するアプローチになります。

今の状況を客観的にとらえ、自分を苦しくさせている「とらえ方」に気づき、バランスの取れるような考え方に変えていくのです。たとえば、イップスを認識する選手は「イップスは最悪だ。これさえなければよいパフォーマンスができるのに。このおかげで結果もでない」といようなとらえ方をしています。このとらえ方になるのも選手としてはもっともだと思います。日頃から成果を出すために一生懸命練習をしているわけですから。

しかし、このようなマイナス側の考えをしている限りなかなか状況は好転していきません。実際にサポートしていった選手にはこのとらえ方を「イップスと仲良くなる」や「長期で見たらイップスのおかげで結果につながるかもしれない」というように認知的再構成を行ってくのです。長くなりましたのでどのようにプラス側のとらえ方にアプローチしていったのか、そして、その後に使う行動療法などは別の記事で紹介していきますね。

※2020年6月1日10時45分 文章を一部修正いたしました。

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