渡邉彩香の復活劇で終えた国内女子ツアー「アース・モンダミンカップ」。コロナ禍での開催の中、普段のトーナメントとどんな違いがあったのか、出場した選手のキャディたちに裏話を聞かせてもらった。

2週間前から検温と行動範囲を提出

感染症対策が徹底され、バーディの後のグータッチも、最終ホール終了後の選手同士のハグやキャディとの握手も“エア”だったアース・モンダミンカップ。ネット中継に映らないところでは、どのような対策がとられていたのだろうか?

話しを聞いたのは、大西葵のキャディを務めた先崎洋之キャディ、青木瀬令奈のキャディを務めた大西翔太キャディ、鈴木愛のキャディを務めた清水重憲キャディの3名。大西キャディは、「2週間前から検温と行動履歴を紙に書いて提出していました」という。

画像: クラブハウスに入場する際には必ず検温チェックが行われた(Getty Images/JLPGA提供)

クラブハウスに入場する際には必ず検温チェックが行われた(Getty Images/JLPGA提供)

「感染防止対策は徹底していたと思います。検温も試合が終わってから1週間続けますし、コンビニに行っただけでも行動履歴を書いて提出しました」(大西翔太)

事前の検温や問診、行動範囲の提出など感染防止と感染拡大防止、陽性反応が出た際の対策までしっかりと考えられていたようだ。

画像: 練習日の23日に選手、キャディの全員がPCR検査を受けた(Getty Images/JLPGA提供)

練習日の23日に選手、キャディの全員がPCR検査を受けた(Getty Images/JLPGA提供)

火曜日に行われたPCR検査についても、整然と行われたようだ。

「火曜日にそれぞれ時間が振り分けられていて、その時間に行くとスムーズに検査できるようになっていました。その日の夜20時ころに発表されることになっていたのでそれまではドキドキして待っていました。陰性だったのでひと安心しました」(大西)

それに加えて、接触感染の防止にも対策が練られていた。いつもだったら当然“使い放題”の練習ボールに“球数制限”があったのもそのうちのひとつ。

「練習日には球数制限はなかったのですが、試合が始まると朝の練習は40球、ラウンド後の練習は50球に制限されました。もちろん全員同じ条件なのでその中で調整することになりますし、球を打ちたい選手は近くの練習場に行く選手も行ったようです。また、練習場では仲のいい選手やキャディ同士でもいつもより離れて話したりソーシャルディスタンスを気にしていました」(大西)

画像: 練習場や練習ラウンドでは選手もマスクを着用しソーシャルディスタンスを保って感染防止に努めた(Getty Images/JLPGA提供)

練習場や練習ラウンドでは選手もマスクを着用しソーシャルディスタンスを保って感染防止に努めた(Getty Images/JLPGA提供)

試合が始まってからの感染防止対策はどうなっていたのか。大西葵のキャディを務めた先崎洋之キャディは「不自由はなかった」とこう話す。

「クラブハウスには選手だけしか入れなかったので、いつもならクラブハウスにキャディバッグを入れて中で食事や休憩したりできたのですが、今回はキャディ専用にプレハブを設置してありました。食事はお弁当を注文して食べられるようにしてあり、何の不自由もありませんでした」(先崎洋之)

また、プロの試合ではティーイングエリアに選手やキャディが自由に手にできるペットボトルの飲料が用意されているが、その飲料を取る際や、ラウンド前後の練習場でボールの受け渡しをする際にも消毒液の利用が義務付けられ、キャディにはピンやバンカーレーキに触れた際には使用できるように消毒液を配布されていたという。

徹底的な“密”対策、そして接触対策がとられていたようだ。

スタンドがないことでプレーにも影響があった

感染対策という意味では、そもそも無観客ということがもっとも大きい対策といえるかもしれない。それにより、例年なら存在するギャラリースタンドがないことが、意外な影響を与えもした。鈴木愛のキャディを務めた清水重憲キャディは、風の影響をいつもより感じたという。たとえば、鈴木が2日目に池にいれた9番ホールについて。

「2日目の場合は、1クラブ上げて打ったのにアゲンストが思ったより強くて池に入った。スタンドがあればそこまで吹かないし、(グリーンの)見え方も違うのは感じましたね」(清水重憲)

スタンドが設置されていない影響は風だけでなく攻め方にもあったようだ。先崎もスタンドがないことで奥が見えて怖さが出たと話す。

「9番ホールでは風の影響が大きかったですが、他のホールでもグリーンの後ろにスタンドがないと(グリーン)奥が見えますよね。スタンドがあるとオーバーしてもそれ以上行かないし無罰でドロップできます。ですがスタンドがないと奥に外すのが怖くなって突っ込めなくなるんです」(先崎洋之)

また、スタッフや関係者の人数も最小限に絞られていたことも微妙に影響したという。

「ロストボールはなかったのですが、ラフが深いエリアにボールが飛んだときは神経を使いました。いつもならフォアキャディが毎ホールいてボールを確認してくれているのですが、今回は少なかったのでボールの確認には気を使いました。探す時間のルールも3分に変更になっているので」(先崎洋之)

無観客でファンのありがたみを改めて痛感

清水は、改めてギャラリーに見られていることが選手やキャディに与える影響の大きさを感じたいう。

「やっぱり、ギャラリーがいないというのはさみしいですよね。プロってギャラリーの声援や拍手で盛り上がっていく。そういうのに乗せられて集中していきます。それがなかったので普段から声は出しているのですが、多少意識的にはやりました、無観客でシーンとしているので。ファンの声援というのはプロもキャディも含めて頑張ろうと思えるんだなと改めて感じましたし、ありがたみをすごく感じました」(清水)

「ギャラリーがいないことで隣のホールや前後のオールでの歓声が聞こえない。いつもなら誰かスコアを伸ばしたのかな、落としたのかなと気になるものです。ティとグリーンが近かったりすると打つタイミングも気にしたりするのですが、それもほとんど気になりませんでした。そのせいで選手の打球音が響いていましたね」(先崎)

もうひとつ“なかったもの”がある。コース各所に設置されるはずのスコアボードだ。スコア確認用のボードは数ホールごとに小さいボードがあったようだが、通常の試合に比べてスコアの状況を把握するのは難しかったことが、とくに優勝争いに影響はなかったのだろうか。最終ホールまで1打差を争った清水は言う。

「後半はキャディとして情報は絶対に欲しいですね、特に優勝争いしているときは。終盤になかったのが少しやりにくかったです。14番のティの横と15番のグリーンにはありましたが、16、17番になかった。16番で愛ちゃんもバーディを取りましたが渡邉彩香さんも16,17番でバーディでしたので、そこがスコアが動くところ。ゲームの展開としてはやりにくさはありましたが、みんな一緒ですし仕方ないことです」(清水)

コロナ禍の中、「アース・モンダミンカップ」を開催した主催者のアース製薬やLPGA、大会関係者、開催地域や宿泊施設など、それぞれリスクを負っての開催だったことは容易に想像できる。大会後1週間の検温も規定されているので関係者の感染がないことを祈るばかりだが、ここまでのところ、感染対策も含めて、大会は大成功だったと言っていいのではないだろうか。

感染対策とは離れるが、インターネットでの完全生中継、月曜日に予備日を設けて72ホールを完走したこと、またその判断が迅速だったことなど、この大会では従来の日本のゴルフトーナメントには見られない“新たな基準”が存分に示されていた。

次のトーナメントの開催はまだ未定だが、見ごたえのある試合を見せてくれる国内女子ツアーの開催を願うファンの声はますます大きくなることだろう。

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