単にミスヒットにやさしいモデルを組み合わせているのではない!?

PGAツアーでは近年“コンボアイアン”化が進んでいる。基本的にはショートアイアンからミドルアイアンはいわゆる操作性がいいマッスルバック(MB)やコンパクトヘッドの複合系キャビティを選び、ロングアイアン(#5〜#3)の領域にやや“やさしめ”のオーバサイズモデルや中空モデルを組み合わせるというパターンだ。

その理由はロングアイアンくらいのロフトになってくると、男子プロでも「最新のゴルフボールではロースピンすぎて高さが出しにくい」、「長い番手は打点がバラつくので寛容性の高いモデルを使いたい」からだと言われてきた。この原稿の序盤でもやや“やさしめ”のオーバサイズモデルとシラっと書いてしまっているが、これもロングアイアンは「難しい」→だからヘッドが大きめのアイアンの方が「やさしい」というある種の決め付けが書き手である私の中に少なからずあるからだと思う。

しかし、最近、「打点がバラツキやすいから、寛容性の高いモデルを」という考え方ももちろんベースにしながらも、もう一つ念頭に置いておきたいと思うことが出てきた。それが進化したドライバーとの関わりである。

ご存知のように現在のドライバーは460ccのフルサイズで、慣性モーメントが大きく、シャフトは軽く長い。軽量モデルでもスウィングウェートはDバランス以上で、とにかく“ヘッドが効く”仕様になっているものが多い。こうした効率良く飛ばしを考えて生み出されたドライバーを使いこなすには、これまでのスウィングではダメ。シャローイングなど新しい振り方を身に付けたほうがいい、とされているのは周知のことである。

ヘッド左右の慣性モーメントが大きく、重心距離が長いドライバーでスクェアインパクトするためには、腕やリストの小さい動きに頼ってフェースターンさせるのでは間に合わず、フェースの開閉そのものを抑えて体の回転で振っていくほうが合っている、とされる。現在、ドライバーをうまくコントロールできているプレーヤーほど、こうした新スウィングを身に付けることに成功している、と見ることができるわけだ(=これまでの短重心アイアン では合わなくなっている可能性もある)。

パワーヒッターの原英莉花も、オーバーサイズアイアンに変えて好調

トッププレーヤーのスウィングがこれまでと変わっている、ということを出発点にしてアイアンのコンビネーション化を考えてみると、これまでの“寛容性説”とは別の意図が見えてくる。ヘッドが大きい、つまり重心距離の長いアイアンをロング番手にすることで、大型ドライバー、大型フェアウェイウッドとのつながり(セット内の振り心地のバランス/同じスウィングイメージで打つための調整)を考慮していると考えられるのだ。

単にミスに対する寛容さを求めるのならば、ウッド型ユーティリティ(UT)にすることも考えられるが、重心距離を基準にするとUTは意外に重心距離が短いことが、ここではネックになる。たとえばロフト21度のウッド型UTの重心距離は35ミリ前後(例:M3レスキューで34.2ミリ)。これに対してオーバーサイズアイアン(#3、#4)の重心距離は40ミリ以上が普通(例:PING G410 #5で重心距離44ミリ)。

大型ドライバーをシャローに打ち、いきなりコンパクトマッスルや重心距離の短いUTに持ち替えていきなりダウンブローに打ち抜く! というのは、トッププレーヤーにとっても難しいことであるはずだ。そんなことをするよりも、ドライバーに近い重心距離のオーバーサイズアイアンを同じように振っていったほうがよい、と考えるのが合理的なのだ。

画像: 左からコンパクトなツアーモデルでも重心距離は長めの「JPX921ツアー」、中間サイズの「JPXフォージド」、3モデルの中では一番重心距離が長い「JPX921ホットメタル」(写真/小林司)

左からコンパクトなツアーモデルでも重心距離は長めの「JPX921ツアー」、中間サイズの「JPXフォージド」、3モデルの中では一番重心距離が長い「JPX921ホットメタル」(写真/小林司)

「今週の日本女子オープンでミズノ契約の原英莉花がオーバーサイズのミズノ921 HOT METALアイアンを使って上位スタート!というニュースが出ていましたが、それも大型ドライバーに合わせたスウィングとのマッチングなのかもしれません。私もミズノ921 HOT METALアイアンを打ってみましたが、ダウンブローに打ち込むよりもシャローに打っていきたくなりました。また、そういうスウィングをすることで機能が発揮されるモデルだとも思いました」(みんなのゴルフダイジェスト編集部/中村修プロ)

トッププレーヤーが“やさしい”大型アイアンを使ってきた! と書くのは簡単だが、実際は大型ドライバーを使いこなす上級プレーヤーだからこそ、大きめアイアンのメリットを享受できる、ともいえる。大型ドライバーで振り遅れたり、フェースを開いてインパクトしがちなアマチュアゴルファーの場合は、逆に重心距離の短いコンパクトなアイアンの方がかえってインパクトを自分の感覚で合わせられる可能性が高いのだ。

ヘッドが大きければ慣性モーメントが大きく、ミスヒットに“やさしい”のは間違いないが、重心距離からみれば、こうしたアイアンはフェースを開いてバックスイングしてしまうと、容易にインパクトでスクェアに戻せないという特徴がある。これはパワーのあるプロでも同じことで、力ずくでフェースをスクェアに戻すのではなく、最初からフェースの開きが少ないスウィングを身につけることで、フェースを閉じる必要性を減らし確実にスクエアインパクトを実現している。それがトレンドスウィングなのである。

最後少し論点がズレてしまったかもしれないが、ヘッドが大きければ“やさしい道具”とは必ずしも言い切れず、振りやすく、自然なスウィングの中でスクエアインパクトしやすい道具こそが“やさしい”のではないか、という話である。重心距離の長めのロングアイアンは、トッププレーヤーにとっては、ウッドとミドルアイアンをつなげる役割。振り心地をうまくフローさせていくためのユーティリティギアだ。ヘッドが大きいからアマチュア向け、小さければプロ向けとは言い切れない時代である。

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