ゴルフルールを統括する機関であるR&AとUSGAが、クラブの全長を48インチから46インチにすることなどを盛り込んだギア規制を検討していると発表した。すわ、自分たちの飛距離アップの可能性が狭まるのか!? と慌てる前に、まずはギアライター・高梨祥明の考えを聞いてみよう。

長さ上限のルール変更案がプレーヤーの努力を無にする可能性

プロツアーでの飛距離状況をつぶさにレポートした“ディスタンスレポート”に基づき、新たな飛距離抑制案(用具規則の変更案)が、ゴルフメーカーに対してUSGA/R&Aから示され、現在、意見のフィードバッグが求められている。

わかりやすい提案事項としては、現状48インチが上限のクラブの長さを、プロやエリートアマの競技においてはローカルルールで46インチまでに制限する、というもの。これは明らかにブライソン・デシャンボーの全米オープン制覇が引き金になっているといえる。

ティショットをドカーン! とグリーン付近まで飛ばし、あとはチョン! とアプローチで寄せてバーディを量産。そんなシンプルなスタイルを有言実行し、全米オープンに勝った男がさらなる飛距離アップ策としてテストしているのが超尺ドライバーだ。47.5インチ以上のドライバーで400ヤード超のドライバーを目指す。これに触発されて他のPGAプレーヤーも長尺を試し出したりする。だからこそ、“コレはいかん、規制しないと!”という流れになるのだろう。

率直に言って、安直にルールを変えようとし過ぎだと哀しくなる。

デシャンボーが“飛ばす人”になったのは、たゆまぬスウィング研究と肉体改造の結果であることはゴルフファンならば誰もが知っている。単純に長いドライバーを使ったから400ヤード飛ばせるようになったわけではないのだ。

画像: ドライバーの長さ規定が最長48インチから短く変更されることが検討されているという(写真/野村知也)

ドライバーの長さ規定が最長48インチから短く変更されることが検討されているという(写真/野村知也)

長いクラブをしっかりと振り抜くことができればヘッドスピードは上がるが、それは強靭な肉体とスウィング、バランス感覚など“振れる素養”が備わっていて初めて実現するものだ。デシャンボーは誰が見てもわかるほどの肉体改善をした上で、長いドライバーでもホールの枠に飛ばしていける“スキル”を身につけたのである。

そのプロセスの上に成り立っている飛距離を問題視し、ルールを変えようなどということは、プレーヤーが費やした努力と時間をどう考えているのだろう? と腹立たしくなってくる。プレーヤーにとってはこれ以上虚しいことはないだろう。

最大飛距離を求め過ぎるのはゴルフゲームにとっては“リスク”

48インチに迫る長さのドライバーを飛距離のために選択することは、肉体的なパフォーマンスをアップさせる努力や、より正確なスウィングを身につける必要性が生じるだけでなく、ゴルフにとっては大きな“リスク”を背負い込むことになることを我々ゴルファーは“自覚”しなければならないと思う。

なぜなら、ドライバーが48インチになっても、アイアンやウェッジがそれに応じて長くなるわけではないからだ。ゴルフはティショットをより遠くへ飛ばすゲームではなく、いかに少ない打数でホールアウトするかを競うゲームである。そこで必要なのは狙った距離を打ち、狙った場所にしっかりとボールを止める技術だ。だからこそ、ターゲットを“狙う”を目的とした他のクラブを長くすることはできない。

ドライバーをどんどん長くしていくということは、他のクラブとドライバーを「違うモノ」にしていくということ。そうである限り、48インチを使いこなす努力(肉体/スウィング改造など)をした結果、長さが変わっていない他のクラブが、今までのように使えなくなってしまう“リスク”があるのだ。

デシャンボーはドライバーだけが特別になってしまう危険性をわかった上で、必要な努力をし、チャレンジを成功させている。彼はワンレングスアイアンにもチャレンジしているから、超尺ドライバーとの調和は一層難しくなっているだろう。生半可な覚悟では試すこともできない。そのことをもう少しルールを決める方々にも理解していただきたい気がする。

我々はルール規制となると、なんとなく「俺たちの飛距離が失われてしまう」ような気がしてしまうが、普通の人は48インチのクラブで簡単に飛ばせるようにはならないし、スコアがよくなったりもしない。だから46インチ以上のドライバーは使っていないだろう。

長さ上限が引き下げられて影響が出るのは、48インチというリスクある道具にチャレンジし、時間をかけてモノにしてきた覚悟ある人たちだ。それはデシャンボーだけではない。我々のまわりにもいる長尺使いのベテランゴルファーも同じ。時間をかけ、使いこなす努力をしてきたからこそ、長い道具を上手にコントロールできているのである。これはまさしくスキルである。

最大飛距離を追い求めるゴルファーのために、ドライバーは年々進化(変化)し続けてきた。そして結果的にドライバーはキャディバッグの中で“浮いた存在”になりつつある。それは決して「長さ」だけの問題ではない。ドライバーで遠くにボールを飛ばしていくのは快感だが、道具を取り替えて距離を伸ばし続けるには限界がある。他のショットに影響が出るリスクを背負ってまで特別なドライバーにチャレンジする必要があるのか。そろそろ僕らも考え始めるべきだろう。飛ばしだけではないゴルフの魅力。新しいゴルフ様式にシフトしてみればゴルフ協会が行う小刻みな飛距離抑制策に翻弄されることもなくなるだろう。

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