タイガーの事故。その日、そのとき、なにがあったのか？

現地時間2月20日、カリフォルニア州ローリングヒルズカントリークラブ。晴天に恵まれたコースでは撮影の準備が整えられていた。大量の機材とスタッフ、そして出演者の女優ジェイダ・ピンケット・スミス、バスケットボールのスター、ドウェイン・ウェード、俳優でコメディアンのデヴィッド・スペードが勢ぞろいし今や遅しと主役の登場を待っていた。

この日は米ゴルフダイジェストとGOLFTVの共同コンテンツの撮影日。ジェネシス招待（ホスト大会）でプレゼンターを務めたタイガー・ウッズがセレブにレッスンを行う企画を制作するはずだった。

ところが集合時間の午前8時を過ぎてもタイガーが現れない。番組プロデビューサーは「長年一緒に仕事をしているが彼が撮影に遅刻してきたことは一度もない」と、携帯に幾度も連絡するが繋がらず、主役はようとして姿を消した。やがてツイッターに事故の一報が上がり現場は騒然。と、同時に配信された事故車の映像に世界中が息をのんだ。

地元警察の発表によるとタイガーはホテルからコースに向かう途中、見通しの良い直線道路で運転を誤り中央分離帯を越えて反対車線を横断する間、何度も横転し道路脇で大破。午前7時12分に事故が発生しその6分後には救急隊員がかけつけバールでフロントガラスを破りそこからタイガーを引きずり出した。

「名前を尋ねるとはっきりタイガー・ウッズです、と。いくつか質問する間、彼は異常なくらい冷静でした。生きていたのが幸運としかいえない状況だったと思います」（救急隊員の証言）

すぐにハーバーUCLAメディカルセンターに搬送され複雑（粉砕）骨折した脚を固定する長時間に及ぶ手術が行われたが、術後タイガーは会話に応じるなど命に別状はなかった。

同じ日WGC-ワークデイ選手権に出場する選手たちは練習ラウンドを行っていたが、事故の第一報に会場は重苦しい空気に包まれた。

「ただタイガーが生きていてくれたことだけで有難い」とマキロイやデシャンボーらが口々に語り「胸が張り裂けそう」「1日も早い回復を祈っている」とエールを送った。と、同時に「タイガーがいなればいまのゴルフ界はまったく違っていた。彼のゴルフ界への貢献に今更ながら感謝の気持ちでいっぱいだ」と彼のレガシーに言及するプロも多かった。

しかし前途は多難なようだ。担当医によると骨折によって損傷した筋肉を修復するにも時間がかかるとし「4週間から6週間は寝たきりの状態が続く」。「本格的なリハビリをはじめられるのは3カ月後。ウッズ氏の場合、腰やヒザの手術をしているのでその兼ね合いもあり、完全なリカバリーにはかなりの時間を要する」。

ジェネシス招待で久々に公の場に姿を現したタイガーは笑顔でマスターズに関して「すごく出たいと思っている」といい、12月に受けた5回目の腰の手術の経過を見ながら次のステップに進むと語っていた。しかしいまやマスターズどころか現役を続行できるのさえ危ぶまれる状況。

かつてベン・ホーガンは運転中バスと正面衝突し瀕死の重傷を負いながら奇跡の回復力でおよそ1年後に全米オープンに勝っている。これまで幾度となく困難を乗り越えてきたタイガー。我々ファンは心の底から奇跡を願う。