フィル・ミケルソンの史上最年長メジャー制覇で幕を閉じた「全米プロゴルフ選手権」。優勝に至るまでのミケルソンの努力、そして会場の熱狂の様子を、現地で取材した海外ツアー取材歴20年の大泉英子がレポート。

松山英樹のメジャー2連覇が期待された「全米プロ」。だが、今大会ではフィル・ミケルソンの歴史的な勝利で幕を閉じた。まもなく51歳を迎える彼が、史上最年長メジャー優勝を達成。通算45勝目、メジャー6勝目のことだった。

「今日は本当に素晴らしい日だ。今までこのような結果になるとは考えても見なかったよ。(今週は)周囲のことから気持ちをシャットアウトするようにしたんだ。テレビも観ず、電話にも出ず、心穏やかに静かに過ごそうとしたよ」

弟でキャディを務めるティム・ミケルソンが言うには、ここ数ヶ月は決して調子が悪かったわけではないが、ショットがよければパットがイマイチ、あるいはその逆などすべてがうまく噛み合ったプレーというのがなかなかできていなかったそうだ。だが、「ウェルズファーゴ選手権」の後でミケルソンは「まもなく優勝できそうだ」と家族の間で話したそうで、今週は周囲の雑音もシャットアウトして、自分の世界に静かに浸りながら、集中力を切らさずにプレーしていたという。

画像: 最終ホールではフィル・ミケルソンの優勝の瞬間を見届けようと、多くのギャラリーが押し寄せた(写真/Getty Images)

最終ホールではフィル・ミケルソンの優勝の瞬間を見届けようと、多くのギャラリーが押し寄せた(写真/Getty Images)

だが、「この結果は思ってもみなかった」とはいえ彼は、自分がメジャーで優勝できるレベルでプレーできると信じていた。体を鍛えて、できるだけ長い時間、練習できるだけの体力を維持し、集中力を切らさないようにして、具体的にどんな球筋でどのように攻めるのかなどを具体的にはっきりと心に思い描くような練習を日々していたのだ。

「1日に36ホール、あるいは45ホールをプレーしようとしている」と語っているが、これは単に体力的に可能であることを目指しているわけではない。そのホール数をこなしても、1打1打に対する集中力を切らさずにショットできるよう、「精神を筋肉のように鍛えている」というのだ。これができれば、18ホールのプレーなど体力的にも精神的にも余裕を持って臨むことができるという。

年齢を重ねると集中力を切らさずに、ショットのイメージを具体的にはっきりと思い描くことが難しくなるのだと語っているが、年齢を言い訳にせず、練習を重ね、ジムでトレーニングも積み、メンタル面(特に集中力)を鍛えるためのトレーニングもしっかり行い、試合に臨んでいる“スーパー50歳”なのだ。

今週私は「全米プロ」を現場で取材していた。メジャーの取材はコロナ以降、今回が初である。最終日はミケルソンの後半9ホールをずっと写真を撮りながらついて歩いたが、同伴競技者のブルックス・ケプカに負けず劣らず、彼のショットはパワフルで、飛距離も負けていなかった。それに小技もよく決まっていた。時折ショットが曲がることはあっても、彼の言う「具体的な視覚化」がうまくできていたのだろう。リカバリーショットでピタリとピンそばにつけたり、あるいは直接チップインという見せ場も作っていたのはさすがだった。

ただ唯一、ミケルソンもシニアだな、と年齢を感じさせたのは、彼がヤーデージブックを見るときの仕草。メモを少し遠ざけて見ていたが、あれは完全に老眼だろう。私も彼と同世代なだけに、気持ちはよくわかる。だがそれ以外は、50代であるとは思えない戦いぶりだった。

また、久しぶりに彼を見て「また痩せたかな」と思ったが、最近では昔ほど量を食べず、体にいいものだけを摂取するようにしているのだという。そのお陰で翌朝の目覚めもよく、動きやすいのだそうだという。

若い頃、お腹はでっぷりと出ており、ライバルのタイガー・ウッズとは対照的な体型だったミケルソン。大きな体で肉を揺らしながら歩いているような感じだったが、最近の彼のお腹は引っ込み、鍛えられたふくらはぎは筋張っている。間近で見るとそれがよくわかる。

最近、ツアーでは練習日に短パンを履いてプレーしてもいいことになっているが、寒いとき、他の選手は長パンを履いているような時でも、彼は短パンを履き「俺のふくらはぎを見てくれ!」と言わんばかりに鍛えられた筋肉をアピールしているのはおもしろい。

最終日は5バーディ、6ボギーと出入りの激しいラウンドとなったが、2位のブルックス・ケプカ、ルイ・ウーストハイゼンに2打差をつけ優勝。最終ホールに近づくにつれ、ケプカよりもミケルソンを応援する声が高まり、最終ホールはドッとギャラリーがロープ内に雪崩れ込んできて、ミケルソンの周りを取り囲んだ。まるで3年前の「ツアー選手権」でタイガーが優勝したときのような光景。まさに「カオス」である。これはPGAオブ・アメリカが最初から意図していたわけではなかったそうだ。

テレビで観ていた人はおわかりだと思うが、あの群衆の押し寄せ具合は三密どころの騒ぎではなく、マスクを着用していないギャラリーたちは大声で「フィルコール」。ミケルソンに近づこうと大男たちがタックルしてきた。私もその群衆の中に呑まれてしまった1人だったが、踏み倒されそうになる危険と、「今、本当にコロナ時代なのか?」と疑問に思うほどの「ノーマスク」「密集具合」に怖さを感じたものである。実際、カメラマンや記者など、ロープ内で取材する人間はマスク着用するように言われていたが、あまりの暑さで息苦しく、外している人も多かったのだ。

現在はアメリカ国外からの記者やカメラマンが、現地取材を行うのが容易ではない時代だが、今回、なんとか現地取材が可能になり、歴史的でエキサイティングな優勝シーンの中に身を置くことができたのは本当にラッキーだったと思う。

 

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