コロナ禍に見舞われた2020年、ゴルフ用品市場はどう動いたのか? 「ゴルフ産業白書」を発行する矢野経済研究所の三石茂樹がレポート。

2020年の国内ゴルフ用品市場規模は対前年比87.5%にて着地

さて、当社(矢野経済研究所)では毎年8月に「ゴルフ産業白書」という資料を発刊しています。どんな内容の資料かと言いますと、前年(今回であれば2020年)と今年(今回であれば2021年)の国内ゴルフ用品市場動向を調査、分析してそれぞれの年の市場規模を推計算出する、という内容のものです。

その他、国内ゴルフ人口の将来推計(2030年までの予測)であるとか、中古クラブの市場動向なども分析しています。「ゴルフ産業」というタイトルですが、ゴルフ産業の中でもゴルフ用品産業に軸足を置いた資料といったほうが正しいかもしれません。

7月から8月にかけて編集、執筆作業に追われていたのですが、このたび無事に「2021年版ゴルフ産業白書」を発刊することができました。この場をお借りして取材にご協力頂いた各企業様に厚く御礼申し上げます。

冒頭タイトルにあるように、調査の結果2020年の国内ゴルフ用品市場規模は対前年比87.5%の2321億2000万円となりました。

数字だけ言ってもピンとこない方が多いのではないかと思いますので他のモノサシを使ってお話をさせて頂きますと、「2321億2000万円」という規模は、当社が調査対象としている国内スポーツ用品市場規模(野球やテニス、サッカーなど17カテゴリー合計)の中で「スポーツシューズ」「アウトドア」用品に次いで3番目に大きな規模を有しています。

日本のスポーツ用品市場規模全体に占める構成比は約17%です。つまり、日本のスポーツ用品市場の中でゴルフは「欠かすことのできない重要な産業である」ということが言えるかと思います。

画像: ゴルフ用品の市場規模はスポーツ用品市場の中で3番目に大きい規模を有している(出典:矢野経済研究所「2021年版スポーツ産業白書」)

ゴルフ用品の市場規模はスポーツ用品市場の中で3番目に大きい規模を有している(出典:矢野経済研究所「2021年版スポーツ産業白書」)

次に、「対前年比87.5%」という数値についてお話したいと思います。見てお分かりの通り2019年の市場規模に比べて10%以上もの大幅なマイナスとなっています。

マイナスの主要因が新型コロナウイルス感染拡大であることは言うまでもないことなのですが、果たしてその数字をどう受け止めてよいのか。観光業や飲食の産業と比べれば「マシ」なようにも思えるし、昨今ゴルフ用品市場で顕在化している「欠品」という動向を踏まえると「え、そんな悪いの?」というようにも思えます。ここでは他のスポーツ用品市場との比較でゴルフ用品市場の「立ち位置」を確認したいと思います。

日本のスポーツ用品市場の中では「健闘」レベルにあるゴルフ用品市場

表及びグラフ(A)は、「スポーツ産業白書」にて集計対象としている各スポーツ用品カテゴリーの「2020年市場規模の対前年比」を表したものです。

A:スポーツ用品国内市場規模 カテゴリー別2020年対前年比(コロナの影響)(出典:矢野経済研究所「2021年版スポーツ産業白書」)

この表とグラフから、ゴルフについては「前年比10%以上のマイナスにはなったものの、スポーツ用品市場の中では健闘レベル」にあることが分かります。またその他にも「サイクルスポーツ用品(スポーツバイク及びその関連用品)」「釣り用品」の市場がプラスになっているのが目に付きます。

また「アウトドア用品」も対前年比マイナスとなっているものの微減レベルに止まっていることが分かりますが、この数字からは「三密に該当しない屋外型かつ個人型(個人でも楽しめる)スポーツ」が好調であることが分かります。更に縮小幅の大きいカテゴリーの数字からは「屋内型または団体型のスポーツ」が非常に厳しかったことが分かります。

小売市場動向との乖離はどう説明するのか?

ここまで読んで頂いて「ん?なんか過去の記事と言っていることが違ってないか?」という矛盾を感じた方は、かなりの「ゴルフ用品業界通」です(こんな細かい話に付いて来て頂ける方がいらっしゃるかどうかはアレですが……)。

今年の1月に当サイトにて「対前年比95%の“大健闘”の要因は? 2020年、コロナ禍の国内ゴルフ用品市場を振り返る」という記事を執筆させて頂きました。タイトルにもある通り、当時の記事では2020年の国内ゴルフ用品市場を「対前年比95%」としています。そして今回執筆している「2021年版ゴルフ産業白書」では87.5%と、両者には約8%もの乖離があります。果たしてどちらかの数字が間違っているのか?いえ、実はどちらの数字も正しいのです。その理由についてお話させて頂きます。

今回「2021年版ゴルフ産業白書」にて算出した(2321億2000万円という)2020年の市場規模は「メーカー売上高ベース」にて算出しています。つまり、各ゴルフ用品メーカーが取引先であるゴルフショップに出荷した「卸売ベース」の売上高と、最近少しずつ増えている「直販分(直営店や直営サイトでの売上)の合算値が「対前年比87.5%」ということになります。

対する「対前年比95%」の数字は、当社が集計している小売店実売動向調査「YSPゴルフデータ」の2020年累計販売金額の数値となっています。「YSPゴルフデータ」は全国約1100店のゴルフショップの実売実績を集計・分析したものです。つまり上記の「メーカー売上高」に対しこちらは「店頭からの実売」に基づくデータということになります。

この両者の数字の比較から見えてくるのは、「メーカーから小売店には商品があまり納品できなかったけれど、小売店の実需(販売)はメーカー売上(出荷)を上回った」という現象です。もっと噛み砕いて言うと「小売店はあまり商品を仕入れなかったにも関わらず売上を作れた」ということになります。では何故メーカー売上高ベースの市場と小売市場の数値にここまでの乖離が生じたのか。私は以下のように分析しています。

【1】小売店側が在庫抑制の姿勢を明確にしたこと

新型コロナウイルス感染拡大の影響によって2020年3月から5月にかけて国内ゴルフ用品小売市場はこれまでにないレベルでの需要減退を経験しましたが、小売店は自己防衛策として自社在庫の大幅削減(メーカーへの返品)に踏み切りました。

その後需要は急速に回復しましたが、3月から5月にかけての急激な需要減退を経験した小売店の多くが在庫抑制を継続しました。勿論7月以降の需要回復により一部メーカーの売れ筋商品に対しては仕入を行ったようですが、回転率の低い商品については「コロナ前」の状態に戻らず、回転率の高いモデルであっても売れ筋のスペックを見極め、回転率の低いスペックは在庫を置かないなど徹底的な在庫の見直しが行われました。

これまでゴルフ用品市場におけるメーカーと小売店との商習慣は他の産業に比べて「緩い」面がありましたが、そうした商習慣が図らずも新型コロナウイルス感染拡大によって改善された、と見ることもできるのではないかと思います。

【2】値引(割引)率の改善

2011年に発生した東日本大震災による需要減退をきっかけに激化した小売店間の値引販売(価格競争)ですが、昨今の供給不足という環境の変化もあってゴルフクラブ市場を中心に2020年は値引率が改善されました。

【3】マークダウン品(特価処分品)の販売構成比低下(プロパー品販売構成比の上昇)

多くのカテゴリーで2020年から2021年にかけてマークダウン品の販売数量構成比が下落、相対的にプロパー品の販売数量構成比が上昇しました。

図らずも新型コロナウイルス感染拡大によって小売市場の「体質改善」「収益性改善」が図られることとなった一方で、川上に該当するメーカーは今まで以上に小売店からの厳しい「取捨選択」を迫られることになった、ということができるのではないかと思います。これが国内ゴルフ用品市場における2020年のもっとも大きな変化と言えるのではないかと思います。

新型コロナウイルスは現時点でも収束の気配はまったく見えず、この先も日本のゴルフ産業にどのような影響を与えるのか予測することは非常に難しいのが実情ですが、コロナが果たして日本のゴルフ用品産業にどのような「プラスマイナスの影響」を与えるのか。引き続き調査、分析を進めてゆきたいと思います。

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